♰02 最強の冒険者。



 馬車をいただいたので、一日で王都に到着した。

 王都は高い壁に囲まれている。モンスターの襲撃を防ぐためだろう。

 壁に続いて大きな門にも、門番がいた。

 その門番に事情を話して、男達の身柄を引き渡す。あとは任せた。

 当人達は諦めているようだから、簡単に自白しては売り先も吐いてくれるだろう。

 後日、証言してもらうために私を呼び出すかもしれないとは言われたので、冒険者のライセンスを見せておいた。

 ライセンスと言っても、ダグだ。シルバーのダグ。

 名前と一緒に3という数字が彫られている。

 シルバーのランク3。それが、私の冒険者としてのレベルである。

 ブロンズ、シルバー、ゴールドで分かれていて、さらにランク3からランク1に区別されるのだ。

 冒険者登録をすると先ずは、ブロンズのランク3から始まる。ブロンズのランクを上げるのは、簡単だ。

 依頼をこなし、モンスターを狩ったり素材の採取をするだけ。

 案外、簡単に順調に上がったことを覚えている。

 シルバーになると幅広い依頼も受けられるので、目標にもしていた。

 けれども、シルバーからはそう簡単に上がらせてもらえない。

 試験とかもあって、面倒だから私はランク3以上を目指さなかった。

 シルバーだと、より危険な依頼もあるからだろう。

 田舎町である私のところでは、全然シルバーな依頼はなかった。その分、どのランクのブロンズな依頼は選び放題だったけれど。

 若返ったら、試験受けよう。今なら面倒臭がらないぞ。


「さてと」


 予定より早く着いた。早速、しばらく泊まる場所を探そう。

 きっとお高いんだろうなぁ。宿代。王都だもの。そんなイメージがある。

 多少余裕はあるけれど、なるべく安いところにしたいよね。

 とにかく、冒険者ギルドに行こう。そこで、宿の情報をもらった方が早い。

 ついでに掲示板も覗いてみよう。依頼が張り出されている掲示板。

 冒険者ギルドを見つけるのは、そう難しくはなかった。冒険者らしき武器を持った人々についていけば、辿り着く。

 おお、広くて大きな建物だ。

 やっぱ田舎町のギルドとは違うなぁ、と思いながらも中に足を踏み入れた。

 冒険者でごった返していた中は、とても綺麗だという印象を抱く。私の田舎のギルドではめちゃくちゃに張り出されていた掲示板と違い、大きいしずらりと整列したように依頼書が並んでいる。それに受付窓口が多いし、冒険者は一列に整列していた。

 私も列に並んだ。ちょくちょく列の進み具合を確認するついでに受付窓口を見たけれど、美人さん揃いだった。

 流石、王都。受付嬢が美人。

 私の田舎では、おばちゃんばかりだったなぁ。

 私の番が来たら、すみませんと断りを入れてから宿の情報を尋ねた。ダグを見せながら。

 金髪のボブヘアーの受付嬢は、すんなりと丁寧に説明しながら宿屋に丸をつけた地図を渡してくれた。

 お礼を言って、私は冒険者が立ち並ぶ掲示板前に移動する。

 ブロンズ、シルバー、ゴールドとちゃんと分かれていた。

 すげぇー。ゴールドの依頼まである。都会すげぇー。

 まぁ流石に最高ランクのゴールドのランク1と2の依頼はなかったが。

 私も若返ったら、今年中にはゴールドになりたいな。最終目的は、最強のゴールドのランク1だけど。

 難なくこなすだけで別に最強ではないから、色々経験を積まなければ無理だろう。気を引き締めて頑張らなければ。

 小さくガッツポーズをして、私はシルバーのランク3の依頼を探した。

 ちょうど精霊の森に出没情報のあるモンスター討伐の依頼があったので、依頼書を剥がす。もう一度受付に並び、引き受け続きをする。とはいえ、ただ依頼書とダグを提示するだけで、あとは受付嬢がやってくれる。


「ご武運を」


 キリッとした目と丸眼鏡の受付嬢がそう言ってくれたので「はい」と笑顔を返しておいた。

 それから、田舎町より少し高い建物が並ぶ王都を眺めながら、宿屋まで歩いて行く。

 そろそろ、人酔いしそうだな……。

 なんて疲れを感じ始めたが、やっと目的地の宿屋に到着した。木製の看板には、またたびと書いてある。ここだ。

 なんでまたたびなんだろう、と思って入ってみれば。


「いらっしゃいませにゃん」


 猫耳のメイドさんが出迎えてくれた。

 いや、エプロンドレスを着ているだけであって、メイドさんではないか……。


「ようこそ、またたび宿屋へ! 看板娘のヘニャータと申します。お泊まりですかにゃ?」


 にっこりと茶髪と猫耳のヘニャータと名乗る彼女の種族は、猫耳人(ネコミミビト)族というもの。そのままである。

 田舎町にはいなかったので、初めてだ。

 わぁー可愛いなぁ。耳がぴくぴくして、尻尾がうねうねと揺れている。


「はい、ロイザリン・ハートです。十日ほど泊まります」

「冒険者様ですね! 十日の宿泊、ありがとうございますにゃん!」


 ダグを見せながら答えれば、ピンと猫の尻尾が伸びては、うねうねとまた揺れた。


「またたび宿屋では、朝食もお作りしていますが、いかがなさいますかにゃ?」

「ではお願いします」

「はいですにゃん! 朝食付き十日の宿泊、前払いとなります。お会計は33000コルドになりますにゃん」


 必要出費と割り切って、収納魔法を開き、そこからお金を取り出す。


「はい、確かに33000コルドを受け取りましたにゃん。朝食は朝六時、そこのダイニングテーブルで召し上がれますにゃん」


 ヘニャータさんの右後ろにあるテーブルが並んだ空間がダイニングのようだ。


「では、お部屋にご案内ですにゃーん!」


 うねうねと揺れる尻尾を追いかけていけば、二階の奥の部屋に案内された。

 お礼を言い、私はリュックをきブーツと防具を脱ぎ捨てて、早速ベッドに倒れ込んだ。今日はこのまま休んでしまおう。

 明日は朝食が用意されるのだし、人酔いしながら夕食を探す気力はもうない。

 ちょっとだけ王都の本屋さん巡りをしたいとか考えてしまったが、明日は朝食をもらったらそれなりの準備をしてから精霊の森に出発をするのだ。

 これから一切オアタク活動をしないわけではないが、最優先事項は若返りである。

 若返ったら頑張る。むふふ。

 私はにやけながら、ゆったりと睡魔に誘われて眠りに落ちた。




 翌朝。お腹の虫を鳴らしながら、私は防具のベストを着て、しっかりブーツを履いた。

 部屋の時計を確認すれば六時ちょっと前だったので、一階に降りる。もう料理の匂いが香った。

 ダイニングテーブルの一番近い席に座っていれば、トレイを持ってヘニャータさんがやってくる。


「おはようございますにゃん、ハート様!」

「ロイザでいいよ、私もヘニャータちゃんって呼んでもいいですか?」

「もちろんですにゃ! ロイザ様! 敬語は不要ですにゃ。朝食です、召し上がってくださいにゃん!」


 満面の笑みでヘニャータちゃんは、私の目の前に朝食を置いてくれた。

 カリカリのベーコンとジューシーなウインナーと目玉焼きにパン。それとミニサラダ。


「ロイザ様は王都の方ではありませんよね?」

「おのぼりさんだってわかる?」

「いえいえ、宿屋を利用するのは大抵王都の外から来た方々ですから! どこからいらっしゃったのか、話題を振ったのですにゃん」

「それもそうだね。私はここから歩いて五日かかるデヴォルって田舎町から来たんだ」

「結構遠いですにゃ! やはり出稼ぎにいらっしゃったのですかにゃ?」


 食べる私の横に立ち、覗き込むヘニャータちゃん。

 好奇心旺盛な黄色い瞳をしている。


「まぁ、そんなところ」


 若返りに来た、とは言わない。


「ヘニャータちゃんは、冒険者に詳しい?」

「と言いますと?」

「王都で最強の冒険者っている?」


 カプッとウインナーにかじりつき、私はにんまりと尋ねた。

 おお、美味いなこれ。


「んぅー……最強の冒険者……」


 考える素振りをするヘニャータちゃん。

 すぐ出ないところを言うと最強の座にどっかり座った冒険者はいないと言うことか。


「警備騎士のレオナンド・グローバー様でしょうかにゃ」

「警備騎士……?」


 警備騎士とは、地球でいう警察機関みたいなものだ。治安を守っている。

 昨日私が引き渡した連中も、警備騎士に渡っているはず。

 最強の冒険者と訊いたのに、何故警備騎士の名前が出たのだろう。


「あ、グローバー様は警備騎士の総隊長であり、ゴールドのランク2の冒険者でもありますにゃん」

「ゴールドのランク2……!」


 それはそれは、強いだろうな。きっと。

 やっぱり強さがひしひし伝わるような存在感のある男性なのだろうか。

 勝手にイメージを膨らませた。


「じゃあ、ゴールドのランク1はいないんだね?」

「私が知る限り、この世にいるゴールドのランク1の冒険者はいませんにゃ」


 ヘニャータちゃんは、笑顔で言い切った。

 ゴールドのランク1の冒険者で有名なのは、歴史の本にも載っている勇者王。

 現在の国王の祖先である。それから何人かはいたはずだが、最強と謳われたのは彼だけだろう。

 まぁ過去の人である。

 私の目標は、あくまで現在の最強の座。ゴールドのランク1に誰もいないなら、私がなる。

 その総隊長を超えてみせる……! ふっふっふっ!


「ハクシュン!」


 急にくしゃみが出た。

 ヘニャータちゃんに心配されたけれど、大丈夫と笑ってみせた。




 ◆◇◆




「シルバーのランク3の冒険者、ロイザリン・ハート……か」


 厚手のカーテンが垂れ下げられているアーチ型の窓の外を眺める若い男が、呟くように口にした。

 髪は、艶やかさがよくわかる漆黒。瞳は、鋭利に光そうな琥珀。


「はい。グローバー総隊長。いかがなさいますか?」


 もう一人の若い男が、問う。

 レオナンド・グローバー。

 警備騎士総隊長であり、ゴールドのランク2の冒険者。



 

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