祝勝会

 異世界『控室』。


「クサハエル、それ取って貰ってもいい?」


 今夜の晩餐は鍋パだ。大人数でつつくにはうってつけ。土鍋にメルロレロが作ったお肉たっぷりすき焼き鍋が盛り付けられる。

 妙に高い引き出しに置かれた取り皿とんすいは、かなり小柄な彼女では手が届かない。かといってこの程度のことに魔法を使うほど無精ではなかった。


「んんwwwそれはお願いですかな?」

「……え? ああ、うん……そうだけど。嫌なの……?」


 メルロレロが頬を膨らませる。なんだかんだお願いを聞いてくれるおっさん天使に、誰がどう見ても少女は懐いていた。


「御意に仕った」


 仰々しい物言いとともに、クサハエルが神々しい光は発する。背中から伸びる純白の十翼に、少女は素直に見とれていた。そんな幻想的な光景で、おっさんは仰々しくをメルロレロに渡す。少女は恐縮しながら受け取った。


「え……いや、なに? え? どうしたの?」

「んんwwwこれが我の隠されし力ですぞwww」

「いや、なんで今使ったの…………?」

「んんwww拍手喝采の大爆笑ですぞwww」

「ああ、うん……そう」


 まだバクバクいっている心臓を抑えながら、メルロレロが背を向けた。何事かと覗き込んでいたハートと目が合った。お互いに気まずくなって目を逸らす。


「あんばー! あれあれ!? 今のなに! あちきにも教「俺様が勝ったぜい!!」


 暴走特急高月号に轢かれたピエロが天井に突き刺さる。勝利のVサインを掲げる高月さんに、メルロレロの顔がぱぁと明るくなる。


「た、高月さんおめでとう!」

「応よ! あんがとな!!」


 騒々しいリーダー格の帰還に、どうでもいい疑問は消し飛んだ。







「肉だ。肉だ肉! テンション上がるうう!!」

「喜んでくれて……よかった」

「んんwww良かったですなwww」


 大鍋を囲う六人と一匹。お父さん席のクサハエルはほくほく顔だ。ピエロの膝で丸くなる白ウサギ。子ども椅子に座らされてハートに離乳食みたいに食べさせて貰っているエンドフェイズ。絵に描いたようなドカ喰いのピエロと高月さん。


「お替わり、たくさんあるからね」


 割烹着姿でお母さんやっているメルロレロが、高月さんの茶碗にお替わりをよそう。

 ここまで、幾度の激闘があった。それも無事に勝ち越し、今に至る。未知の相手との死闘。その経験は各々にとって大きな経験値になっただろう。


「じゃ! そろそろ頼むぜおっさん!」


 高月さんが猛禽のように目つきを鋭くする。獲物を穿つ絶対強者の迫力に、お猪口片手のクサハエルは動じない。


「んんwww我の腹踊りの出番ですかなwww」

「いや、違――――いやそれ超、見てええ!!?」


 クサハエルは腹踊りをした。

 高月さんはえらく楽しんだ。


『あやか、脱線しているよ』

「あ、やべ!?」

「んんwwwwww」


 クサハエル、草生える。


「俺様たち勝ち越したんだ! 分かってんだろぉな!?」

「んんwwwなんでも叶えるという約束でしたなwwwんんwww我www今、なんでも、とwwwはしたないでござるwww」

「神の座への挑戦権――――叶えて貰うぜ」

「んんwwwwww」


 クサハエルは言った。





「――――は? なんで?」

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