第32話 新しい魔杖
「パパ活」で知り合った二人の美少女とダンジョン攻略を始めて、三週間が過ぎた。
ユアとアイナの実力が急激に上がっていく。
それにともなって、二人が使っている装備、特に杖が貧弱に思えるようになってきた。
杖は、魔法を発動する際の触媒として重要な役割を果たす。
杖無しで魔法を放てないことはないが、それでは効率が悪い。
剣士が素手で相手を殴りつけるようなもので、ナイフを持てば同じ力でより攻撃力を上げることができるのと同じ理屈だ。
そして彼女たちの実力は、剣士が「ナイフ」では物足りなくなるのと同様、そろそろ本格的な「杖」を装備してもいいぐらいになってきているのだ。
ここで重要となるのが、「魔石」を埋め込めるアイテムの存在だ。
「魔石」は魔物や妖魔から摘出することができる魔力の源で、様々なエネルギー源として活用できる。
元の世界で例えるなら「電池」のようなものだ。
さらに魔石は通常の「魔石」と「充魔石」に分類できる。
これは普通の「乾電池」と「充電池」のようなもので、「充魔石」の方が応用が利く。
高等な魔物ほど「充魔石」として利用できる割合が多くなる。これは上位の魔物が体内で一時的に魔力をそこにためておいて、敵に攻撃するときに利用するためだ。
この「充魔石」をアイテムに埋め込むとどうなるかというと、例えば「切れ味を良くする」魔法がかかった剣ならば、「充魔石」に魔力が存在している間は、ずっとその切れ味が続くことになる。
杖ならば、魔法の威力がアップしたり、あるいは使用のに必要な魔力量が軽減されたりする。
そのほかにも、高価なアイテムになるほど「強度増加」「軽量化」など、様々な魔法が付与され、中には「自己再生能力」まで有するものも存在する。
もちろん、そんな上級アイテムには相応の高品質な充魔石が要求され、価格も跳ね上がるのだが……。
星持ちのハンターならば、魔石が埋め込まれたアイテムを持っていることがほぼ必須だ。
通常ならば年単位の修行が必要なその領域に、彼女たちの実力が近づきつつあった。
自分たちの魔力が杖の能力を上回ってきたことに気づいた二人は、時折アイテムショップの店頭に並ぶ魔石が埋め込まれた杖 (その品質により、「+1」などの数字が付与されている)を見ては、「いいなあ……」とため息をついていた。
それらのアイテムは、高価だ。
中古の魔杖でも、20万ウェンの値段が表示されていた。
そしてその日、一緒に住んでいる俺のアパートにて、ユアとアイナが神妙に頭を下げてきた。
「パパ、お願い! お金、貸して! あの魔石の入った杖、どうしても欲しいの!」
「私もですうぅ-、パパさん、お願いしますですぅー!」
二人とも涙目だ……だが、これが演技であることは、この三週間の付き合いで把握している。
「だめだ、自分たちで魔物を倒して、それで得た金で買うんだ。そうしないと杖に愛着が湧かないだろう?」
まだ、彼女たちはそれほど稼げるハンターというわけではない。実力は上がってきているが、それは「星を持っていない」ハンターとしては、という程度だ。
おそらく、俺のサポートがなければ、「贅沢をしなければなんとか食べていける程度」の冒険者でしかないのだ。
「そんなことないよ。これまで苦労してきたんだから、大事に使うよ」
まだ、俺とで会うまでを含めても、冒険者として活動した期間は2ヶ月も経っていないと思うが。
「……パパさん、私たち、もっと強くなりたいですぅ-。パパさんに頼らなくてもいいぐらいに……」
うるうると涙を浮かべて懇願してくるアイナ。
「いーや、俺はおまえたちを甘やかさないって決めたんだ。自分で稼いだ金で良い武器や杖を買って強くなり、さらに金を稼ぐ。この繰り返しで本当に強くなるんだ」
「……自分で稼いだお金だったら、文句ないのね?」
ユアが、真剣な表情でそう語りかけてくる。
「ああ、それだったら俺がとやかく言うものじゃない。好きに使えばいいだろう」
「……分かった。アイナ、パパ活再開よ。いいパパを見つけたら、20万ウェンぐらいすぐ稼げるはずだから」
「待て待て待てっ! バカな事を言うんじゃないっ!」
「……あ、パパが私たちを買ってくれるなら、それでもいいよ。だから、先にお金貸して!」
「ユア、だめですよぉー、私たち、一緒に住まわせてもらっているだけで優遇されているんですからぁー」
「ううん、思ったけど、それはおかしいと思うよ。だって、パパ活って、ご飯奢ってもらった上でお手当もらえるのが普通なのよ。だったら、一緒に住まわせてもらった上で、別にお手当もらってもいいんじゃない?」
「馬鹿野郎、食費も生活に必要な魔石も全部俺が負担しているじゃないか。タダで泊めているだけでありがたいと思わないのか!」
「あーわかりました。そうですか、お世話になりました。じゃあ、別に泊めてもらえるパパさん探すから! 多分お手当もらえるでしょうね!」
「待て待て待てっ! バカな事を言うんじゃないっ!」
……いけない、アイナはともかく、ユアのペースに乗せられてしまっている……。
ユアほどの美少女なら、泊めた上で金を払う男は大勢いるだろう。
「冷静になれ、そんなことをしたら無理矢理いやらしいことされてしまうぞ」
「いいえ、紳士的な人は居るはずよ。現に、パパは私たちに変なことしてこないじゃない」
……だめだ、アイナを説得することは不可能だ。
ぶっちゃけ、俺が手を出していないことが奇跡なのだが。
「……分かった、新しい杖は、俺がなんとかしてやる」
ため息をつきながらそうつぶやくと……。
「ありがとう! パパ、大好き!」
と、ユアが抱きついている。
「パパさん、わたしもですぅー!」
アイナまで同じように抱きついてきた。
本当に娘ができると、こんな感じなのだろうか。
それはともかく……やっぱり、パパ活って金がかかるんだな……。
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