第26話 一緒に暮らそう!

 その後、ユアに連れられて彼女が居住している地域を目指す。


 ……徐々に建物が古くなってくる。

 スラム街、というほど荒れてはいないが、正直、あまり景観がよさそうな地域には見えない。

 そのうちに、このあたりでもさらに古そうな建物の前に連れてこられた。


「今からルームメート連れてくるから、ちょっと待っててね」


 ユアはそう言い残して、その建物のほうに向かうが……。


「いや、だったら俺も一緒に行く。その方が手間が省けるだろう?」


「えっ……でも、凄くボロボロで、見せるのがはずかしいよ」


「そういうのを知っておきたいんだ。ハンターとして成り上がりたいんだろう?」


 その俺の言葉に、彼女も覚悟を決めたようだった。


 今にも崩れそうな、いや、実際に一部壁が崩落している古い石造りのボロボロアパート。

 ここの五階に住んでいるという。


 この世界にもエレベーターのような便利な魔道具は存在するのだが、それはごく一部の高級マンションだけだ。

 手すりが一部錆びて危険な階段を五階まで昇る。

 そして目的の部屋の前まで来たが……ドアもボロボロで、鍵がかからないんじゃないか、と思うほどだった。


「ちょっと待っててね、さすがに女の子が寝ている部屋にいきなり男の人は入れられないから……」


 そう言って、彼女だけ中に入っていく。


 約十秒後、部屋の中から騒がしい、若い女性の声が聞こえてきた。

 さらに三分ほどして、ユアが出てきた。


「もう大丈夫だよ。起きてたけど、髪の毛ボサボサでパジャマのままだったから、着替えて軽く髪を整えたの……狭い部屋だけど、入って大丈夫だよ」


 そう勧められて玄関から中に入ると……思った以上に狭かった。

 前世の日本の間取りにして4畳半ぐらいの、ワンルーム。


 一応、クローゼットはあるようだが、そのほかは折りたたみ式と思われるテーブルが一つあるだけだ。ベッドすらない。

 そしてそこに立っていたのは、丸いめがねをかけた、ツインテールの小柄な女の子だった。


「こ、こんにちは……あの、すっごく急だったので、とっても緊張してますぅ。あの、その……アイナっていいます、よろしくお願いしますですぅ-!」


 真っ赤になりながら、明らかにキョドってる……。

 クールなイメージのユアと違って、子供っぽく騒ぐタイプのようだ。


 やや丸顔だが、目はぱっちりとしていて可愛い感じだ……丸いめがねも相まって、子狸、という感じだろうか。

 この二人でルームシェアしているのか……。


「ああ、俺の名前はハヤトだ、よろしく……って、この部屋、何もなさ過ぎじゃないか? ベッドすらないなんて……どうやって寝てるんだ?」


「ベッドは高いので……その……寝袋で……」


「寝袋!?」


 たしかに、寝袋は冒険者の必需品ではあるが……それをアパートの一室で利用するとは……。

 一応、きちんと掃除はしているようで、外観のわりに小綺麗な部屋ではあるが……。


「……この部屋、風呂とか付いていないよな?」


「はい、その、今はしまっていますが、大きなタライに、私が魔法で水を張って、ユアが熱を加えてお湯にして、それでタオルで体を拭いてますぅー」


 なんか、聞いていないことまで教えてくれたが……なるほど、それなら体を拭えるか……。

 って、年頃の女の子が、シャワーも浴びられないのか?

 ベッドも買えずに寝袋で寝て、タライを風呂代わりにして……。


「えっと、アイナだったな……水魔法の他にも、何か特技はあるのか?」


「はい、えっと、回復魔法が使えるのですぅー! といっても、低レベルのですけど……」


 なるほど、ある程度魔法の才能はあるということだな。

 俺の目から見て、彼女にもユアと同じく、うっすらと金色のオーラが見える……。


「アイナ、私この人とパパの契約を結ぼうと思ってるの。今日も食事奢ってくれた上に、五千ウェンもくれたのよ」


「はうぅー、それはすごいですぅ-、私も真面目に『パパ活』しておけば良かったですぅー」


 真面目にパパ活、という言葉はなにか変な気がしたが、この惨状を目の当たりにすると納得できてしまうから不思議だ。

 ……っていうか、この建物、大丈夫か? 壁に大きな亀裂が入っているぞ……。


「さっき気になったんだが、この部屋、ドアにちゃんと錠、かかるのか?」


 俺の質問を聞いたユアが、微妙な表情になった。


「えっと……元々付いて他のは壊れちゃったから、これ、付けてるんだよね……」


 そう言って見せてくれたのは、前世の日本で言うところの「南京錠」に近いものだった。


「……こんな小さいのなんか、金槌でたたいたら簡単に壊れるぞ! こんな危険な部屋に、若い二人だけで住んでいたのか……」


 なんか、相当不憫に思えてしかたなくなってきた。


「……これはもう、放っておけないな……よし、決めた! 二人とも、俺の部屋で一緒に暮らそう!」


「「……ええっ!」」


 ユアとアイナは、俺の発言を聞いて、目を見開いて驚いていた――。

  

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