第10話 泊めて……

 その日は、ミリアとの五回目の食事だった。

 彼女とは、依然として食事だけの関係だったが、二~三日に一回、それまでにあったことを話するだけで楽しいと思ったし、愛着もさらに湧いてきていた。


 どんな話をするかというと、彼女の方は、やはり演劇関連の話題が多い。

 どういうわけか、最近自然と演技にのめり込めるようになり、指導の先生に褒められるのだという。


 また、大きな劇場の一次選考にも受かったと嬉しそうに話してくれた。

 たしかに、会う度に表情が明るくなり、それと同時にますます美しい顔立ちに変わってきているようにも思えた。


 俺の能力は、「娘」の側にも「才能開花の後押しをする」という効果がある。

 神から授かったその能力についてミリアには話していない。その必要もないと思っている。

 俺は、この能力の発動条件がいまいちよく分からなかったので、ミリアの他にも複数の女性に会っていた。


 その結果、「パパ」の契約として食事を共にしても、全ての女性にその能力が適応されるかといえば、そうではなかった……というか、ミリアにしか発動していない。


 他の女性は、いろいろと酷かった。


 プロフィールに「少し太め」と書いている女性は、ミリアの倍ぐらい体重がありそうだった……それでいて、向こうから俺のことを「歳を取り過ぎている」という理由で、今後会うことを断ってきた。


 また別の女性は、いきなり具体的な金額を提示してきて、


「さあ、今夜一緒に宿に泊まりましょう!」


 とむちゃくちゃ積極的に俺のことを誘ってきた……その勢いに俺の方が恐れを成して、食事の代金とお手当だけ渡して逃げるように帰ってきてしまった。


 これらの女性とは、一応お手当を渡しているという点では「パパ」の契約は成立したことになるのだが、ステータスが上昇するようなことは無かった。

 ミリアと契約した段階で能力が発動し、すでに上限に達しているのか、あるいは、あまりに俺が認めたくない女性に対しては対象外となってしまうのか……。


 ミリアにも、この女性達のことは、ステータスの上昇に関することは伏せて、体験談として若干オーバーに話してみると、ケラケラと楽しそうに笑っていた。

 ミリアについては、あのデュエルの一件以来、「パパ活」が怖くなって俺以外の人とは会っていないということだった。


 また、俺の冒険者としての活動についても話をしていた。

 未踏破の迷宮の奥で、腕が6本あり、その全てに剣を装備している妖魔と戦い、なんとか討ち果たしたものの、入手した6本の剣にはすでにやっかいな「呪い」がかけられており、それを解くには剣の買い取り代金とほぼ同じぐらいの金額が必要になると聞いて、仲間と一緒にうなだれてしまったこと、など。


 前回までは、それらの話は真剣に聞いてくれたし、笑顔が絶えなかった。

 実際のところ、その都度、ミリアにも……そしてミリア以外の女性達に対しても、食事代の他に「お手当」が発生する。

 にもかかわらず、俺はそれを続けていた。


 つまりは、俺はこの「異世界パパ活ギルド」にどっぷりとハマってしまっていたのだ。

 そして今日、ミリアとの五回目の食事となったのだが……どうも元気がなく、何を面白おかしく言ったとしても、上の空のようだった。


「……ミリア、なにかあったのか?」


 俺の一言に、ミリアは一瞬、目を見開いて驚き、一度首を横に振った後、しばらくしてから縦に振り、そして絞り出すような声でこう言った。

  

「ハヤトさん……今夜から、私のことを、貴方の家に泊めて頂くことはできませんか?」 

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