私と吸血鬼のあと三日

二夕零生

1

「吸血鬼って、死なないんじゃなかったっけ?」

「基本は不老不死だよ。でも、弱点だらけなのは周知の事実でしょ」

「それは私でも聞いたことある」

「君ね…。ああ、でも僕らの身体は甦った死体だから、常に死んでるようなものでもあるけど。まぁ、僕はこうして動いて、君と話している。それができなくなる状況をさしても、吸血鬼は死ぬと言っていいと思う」

「それもそうか。…そういえば君、ガーリックライスは好きって前に言ってなかったっけ。吸血鬼なのに」

「君が覚えてるなんて珍しいね。だけどあれはね、迷信だから」

 かつて、伝説や民話の中だけの存在とされてきたという種属の彼は、口を尖らせて主張した。

 彼の言ってる事が正しいのかは知らない。人間の私は、彼以外ほかの吸血鬼の事を知らない。彼の両親さえ知らない。

 余計な軽口はぺらぺらと口にするくせに、彼は自分の話となると、聞かれた事以外、話そうとはしない

 私も彼に聞いてこなかった。だから、彼の事もよくは知らない。

 彼はレディシュの前髪をかき分けた。院内着の七分袖から見える血の気のない腕には、何も繋がれていない。

 真っ白なベッドの上で笑った彼の口元には、鋭利な八重歯がきらりと覗いた。

「でもまさか、吸血鬼が余命宣告されるなんて、おかしな話だよね。きっと僕は余命宣告をされた初めての吸血鬼だ」

 何故か胸を逸らして、彼は笑った。

 ——彼の余命宣告日まで、あと三日。

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