二人の雪女、そして人間

糸井翼

プロローグ

ここ最近、雪が続いていた。そして寒い。そんな天気だから、まだ薄暗い早朝の町にはほとんど人は歩いていない。静かだ。

なのに、古い家の前に学生くらいの女の子が一人立っていた。誰かを待っているのだろうか。肌がとても白く、雪景色にそのまま溶けていってしまいそうだ。長袖長ズボンのその恰好は、春や秋ならぴったりだが、この寒さでは異常だ。

今度は高校生くらいの男の子が雪の中を進んでいる。こんな時間に何か用事があるのだろうか。大きなコートにマフラー、手袋をしていても、当然寒い。顔は頬のあたりが真っ赤で、白い息が荒い。寒いから自然と歩くのが早くなっている。

男の子は女の子に気づいた。男の子は彼女を呼んでみた。「おい。おーい」

彼女は驚いたように彼を見た。声をかけられるまで気づかなかったのだ。こんな日の早朝に人が来ると思っていなかったから、気にしていなかった。「わたし?」

「そうだよ、他に誰かいるのか」彼は優しい顔をした。寒くて、表情を変えるのにも肌がぴりぴりしている。

「そんなところにいたら風邪ひくから、家にいたほうがいいよ」

そう言い残して、彼は足早に歩いて行った。

「なんだろう」女の子は彼の遠くなる後ろ姿をじっと見ていた。

氷の融ける音がした。

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