第19話 おめでとう

 私は毎週末、全体重をかけて階段の上から樹くんにぶつかり続けている。私の体は大きくなり続けるのだから、いつかは樹くんを突き落とせるはずだ。


 私が小学生になった、7歳の時だった。


 夜中に息苦しくて目が覚めた。鼻が詰まっている。口を開けて寝ていたみたいで、のどがカラカラだ。


 部屋から出た私は手探りで階段の電気を付けて、1階に下りた。


 キッチンでお茶でも飲もう。


 ……あ。


 キッチンの手前の写真の部屋から明かりがもれている。


 部屋をのぞくと、樹くんが缶ビールを飲みながら涙を流していた。


「泣いてるの?」


 私は部屋に入り、樹くんの前に座った。私の背中の後ろに仏壇がある。


「痛いの?」


 前髪のすき間から、涙が溢れ出ている目で樹くんは私の顔をじっと見ている。こんなに近くで樹くんの顔を見るのは初めてかもしれない。


「……痛いよ……」


「消毒、いる?」


「……ううん、いらない。ありがとう……」


 周りを見ると、ビールの缶が何本か分からないくらいにある。


「飲みすぎはダメなんだよ。パパもよくママに怒られてるもん」


「……二十歳になったんだ」


「え? 今日? 今日、お誕生日なの?」


 びっくりした。だって、誰もお祝いしていなかったもん。


「……うん……」


 でも、そうか! だから、晩ごはんがお寿司だったんだ! お祝いのお寿司だ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る