落日の眩耀

麻生 凪

序/夢

 夢の話をしよう。

 君達も一晩の間に、随分と長い時間の夢を見た経験があるのではなかろうか。現実世界で換算すれば、何時間にも相当する夢を。

 そもそも夢の中では、正確な時間というものは存在しない。単純にできごとを並べただけのものが夢で、「そう、これは一時間だった」というように、あとから時間という概念を付けているだけの話だ。夢は、特にレム睡眠が、二十から三十分以上持続したときに出現しやすくなると言われる。レム睡眠は、約九十から百二十分の間隔で一晩に数回出現し、睡眠後半に向かうほど持続時間が長くなる。そのため、朝方に、鮮明でストーリー性のある夢を見ることが多い。どんなに長い夢でも、見ているのはほんの僅かな時間なのだろう。事故の瞬間に、走馬灯のように映像が浮かんでくるというが、脳は、現実の時間よりも遥かに短時間で、同等の内容を認識することができる。

 いずれにせよ、一瞬で、かなりの情報を夢として見せてくれるのだ。


 あぁ、今夜もそうなのか。

 ここ一週間、毎晩同じ時間に同じ夢を見る。目覚めると決まって時計は、午前五時二十五分を表示している。不思議なことに、「今、自分は夢を見ている」という意識がある。そのような、夢と認知して見る夢というものは大抵が、夢の中での非日常を察知したときにそう気付くものだが、私のそれは、夢の世界に入った瞬間から、夢を見ていると解るのだ。

 夢の最後にはいつも、朱色のぼやけた光の楕円。徐々に焦点が合ってくると、それが、デジタル時計の時間を表示していると気付く。そして静かに、目覚めたのだと理解する。


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