第3話 町中での小競り合い
どこか―――視線を感じる……
この“感じ”は、“あいつ”だ―――“あいつ”に違いない……。
オレが、先ほどからしつこく付きまとってくる、奇しくもオレが得意としているオンライン・ゲームのボス・キャラの一人、魔王シェラフィーヤと同じ名を持つ幼女エルフから距離を取りたかったのは、何も
―――……まあ、そうした感情の一部もないわけではないのではあるが……。
取り敢えずのところは、オレが感知した
それにしても、無茶しやがるなぁ―――……
大体のところ、町などの「イン・フィールド」では戦闘は起こらないものなのだが……今を見ての様に、オレに対して敵意ある視線を向けて来る―――と言う事は、“戦闘の意思がある”とみていいだろう……。
だからこそ、距離を取りたかったのではあるが、なぜか幼女エルフはいまだにオレの後をついてくる。
オレも、他のプレイヤー共から、やれ『残虐非道』だの、やれ『血も涙もない』だの言われたことはあるが、こんなオレでも幼女を戦闘には巻き込みたくはない―――と言う慈悲に似たものくらいはある。
だからこそ―――だったのだが……
面倒だが―――やるしかないか……
そして来るべき時のための下準備をする…………
「ねぇ……ちょっとぉ、まってよぉ。」
「ついてくんなって言ってるのに……しょうがねえガキだなぁ……。」
「わたしのこと、ガキ……って、あんたねえ。 わたしはこうみえて、あんたのなんばいもの……」
「はいはい、分かりましたよ。 それよりか、一応『ついてくんな』って言ってやったんだ、後で『責任を取れ』―――なんて、言いっこなしだぜ。」
すると、建物の影が揺らめいた―――
そう言えば彼……ここに移動するまでに、色々なところを触っていたわね―――
一体なぜそんなことを―――……?
その理由は、次の瞬間明らかとなった―――“シャドウ”―――私の国で抱えている、暗殺の実働部隊だ……
何て事―――こんな連中の気配すら察することができないくらい弱くなっているなんて……
私は―――この国の魔王だ……
この国―――「エルフの国」の、魔族の王だ。
それなのに―――配下の気配すら察せられなくなっているなんて……!
なぜこうなってしまったんだろう―――
先代―――お父様からその座を受け継いで、これまで上手くやっていたのに……
なのにどうして…………魔王としての
「馬鹿野郎―――ボサッと突っ立ってないで頭を下げろ!」
「ふえっ? ふあっ―――?」
“ピシッ☆”と、何かか弾かれた音と共に、私を襲いに来たシャドウが体勢を崩した―――と、共に、彼が腰に下げていた鞘から短剣らしき武器を手に取る。
「ちっ……やれやれ、オレも相当焼きが回ってきちまったもんだ―――こんな
「えっ……? あの、このひとはこのくにでも、かなりゆうしゅうなやくわりを、になっているのよ? それを……ザコだなんて―――」
「ほほぉ~ガキにしてみりゃお勉強をしてるみたいじゃないか。 だけどなぁ……オレにしてみりゃ、雑魚は雑魚だ―――それにお前、頂けねえなあ?いくらオレでも非戦闘員であるガキにまで手を出しゃしないぜ。」
予備動作にスキがない―――?
それに、またしても“ピシッ☆”“ピシッ☆”と言う音と共に、優秀な暗殺者が翻弄されて倒されていく。
見事な腕をしている―――一体この彼は何者なのだろう……
私は、現状の打開を図るために、取り敢えずのところ“私”と感じがよく似た彼についてきただけだけれども、正直ここまで出来る者だとは思ってもみなかった。
それに……妙な事を言っていたわね―――
『それよりか、一応『ついてくんな』って言ってやったんだ……後で『責任を取れ』―――なんて、言いっこなしだぜ……。』
彼は……この状況を―――私が襲われると言う事を、予測していた?
いえ……違うわ―――だったら……
『ちっ……やれやれ、オレも相当焼きが回ってきちまったもんだ―――こんな
なんて言わないもの!
えっ……だとしたら何? この彼が警戒しなければいけない程の“達人”が潜んでいると言うの?
そんな私の心配をよそに、彼は……
「あっっ……ちょっとまってよ、どこへいくというの?」
「一々説明しなくちゃなんねぇのかよ……。 オレはな、本当は町中でドンパチやらかしたくなかったんだか、向こうから仕掛けてきたんだからしようがないだろう?けどそのお陰で人目についちまった……ちょっと危険だが、この町から出るしかないな。」
「あっ、ちょっとまってったら! わたしも―――……」
「お前みたいなガキを連れてったら、足手まといになるだけだぜ。 勘弁願いたいよなあ。」
彼の言っていることも
けれど、今一人になるわけにはいかないのよ―――強い人に守ってもらわないと……
「一応、忠告だけしておいてやるぜ……。 オレが感知している危険は、いまだ去ったわけじゃない―――」
「……え? それ、どういうこと?」
「ついさっき、オレが
ええっ―――? それってつまり、私の身に迫る危険はまだ去っていないってことよね?
けれど……暗殺部隊のシャドウよりも、強力な殺気を放つヤツなんて……
けれど今にして思えば、彼が言っていたことに嘘偽りはなかった―――
それに、その“視線”は正確には私にではなく、彼のほうに向けられていた―――
なぜなら、その“視線”の主こそ、彼の―――……
そうこうしている内に、私達は町外れにある森まで来ていた―――……
それにしても、なぜ……こんなにも襲われやすい場所に―――?
「参考までに教えといてやろう……。 オレを殺したくて―――倒したくてウズウズしてるヤツはなあ、オレの関係者なんだ……。」
「えっっ……あなたの? それじゃわたし……」
「だーから、言ったろう? 『ついてくんな』って。 年長者の言う事には従っておくべきだぞ?」
彼は―――あの町にこれ以上の損害を出さないために町を出たんじゃない……。
かと言って、別段私を守るためにでも……。
ただ彼は、自分の命をつけ狙う“何者”かと決着をつけるために―――と、この町外れの森を選んだだけなのである。
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