第6話 ヒイロVS元魔王

 聖稲妻魔法ホーリーライトニング


 私の手から放たれた白き稲妻が、魔王に向かってほとぱしる。

 あまりのスピードに魔王はかわすことができない。


「ぐわぁぁぁ!」


 魔王の断末魔が聞こえる。

 そして巻き起こった粉塵が収まり、魔王はゆっくりと地面に倒れた。


 や、やったよ。

 魔王を倒すことができたんだ。

 これでヒイロちゃんが殺されることはないよ。


 私が勝利に喜んでいたのも束の間、魔王はゆっくりと体を起こす。


「痛かったぞ。今のは痛かったぞ!」


 魔王は無傷ではないが、倒せるほどのダメージは入っていなかった。


「そんな」

「これほどの痛みを感じたのは、勇者パーティーと戦った時以来だぞ」


 魔王はダメージを食らったのに、どこか嬉しそうな表情を浮かべる。


「まさか紋章をもらったばかりで、それほどの魔法が使えるとは思わなかったぞ。その褒美として貴様は跡形もなく消してやる!」


 魔王は左手に炎を生み出す。


 勇者の力を全て使い果たした影響か、私は意識が保てなくなっていく。

 もうだめ、ごめんねヒイロちゃん。

 私の意識は完全に闇の中へと落ちていった。



 ヒイロside


 くそう! 急げ急げ!

 さっきの気配、どう考えても普通の奴じゃない。

 俺は全速力でリアナの元へと向かう。


 裏山に着いた時、俺の視界に入ったのは、強烈な殺気を持った男が倒れているリアナに向かって魔法を放とうとしている。


「リアナ!」


 俺は急ぎ魔法を唱える。


 【炎槍魔法フレイムランス


 10数本の炎の槍が、男の体を貫き、内部から炎の柱が上がる。


「よし!」


 炎の槍がもろに当たったんだ。奴は一溜まりもないはず。

 しかし奴は左手を払うと、燃え上がった炎の柱が、一瞬で消える。


「何!」


 炎を消す時、特に魔法を使った様子もなかった。


「中々やるではないか」


 何者なんだこいつは。


 俺はスキル魔法の真理にある、鑑定魔法を使う。


鑑定魔法ライブラ


 名前:ヘルド

 性別:男

 種族:魔族(元魔王)

 レベル:121

 HP:1,5310

 MP:5,351

 力:A

 魔力:S

 素早さ:A

 知性:A

  運:B


 元魔王⋯⋯だと⋯⋯。

 しかも桁違いに強い能力だ!


 名前:ヒイロ

 性別:男

 種族:人間

 紋章:翼と門

 レベル:3

 HP:82

 MP:91

 力:D

 魔力:C

 素早さ:D

 知性:B

  運:B


鑑定魔法ライブラ】で見た俺の能力と比べても差は歴然だ。


 どうする? どうする?

 何とか逃げる方法を考えないと。


「まさか逃げるつもりか」


 俺は考えを読まれ、内心焦る。


「元魔王を相手に、バカ正直に戦う奴はいないでしょ」

「貴様、鑑定を使って私のことを視たな」

「さあね」


 動揺している内に何か手を考えないと。


「もし逃げたらこの勇者と村の奴らを殺すぞ」


 くそっ! リアナと村人を人質に取られた。

 戦うしかないのか。

 俺は今自分が使える、最も強い魔法を放つ。


稲妻爆破魔法ライトニングブラスト


  上空より現れた稲妻がヘルドに当たる。本来だとこの後内部から爆はぜるはずだが、その様子はない。


「ふはははっ、いいぞ、いいぞ。勇者といい、貴様といいこのような奴がいるとは。わざわざ辺境の村にきたかいがあったぞ」


 ヘルドは左手に魔力を溜める。


火炎弾魔法ファイヤーボール


 巨大な火の弾が襲ってくる。

 くそっ! 桁違いにデカい火炎弾魔法ファイヤーボールじゃないか。

 俺は咄嗟に回避行動をとったが、地面に当たり爆発した爆風までは防げず、熱風が俺の体をチリチリと焦がす。


火炎弾魔法ファイヤーボール


 続けて魔法が飛んでくる。

 頼むから、そんな連続で魔法を放たないでくれ。


氷柱盾魔法アイシクルシールド


 俺は体制が悪かったこともあり、地面から出てきた氷柱を盾として使いかわす。

 このまま奴の攻撃を受けているだけでは、一生勝つことはできない。

 落ちていた剣を拾い、ヘルドの手前を狙って魔法を打ち込む。


火炎弾魔法ファイヤーボール


 頭の多きさくらいの炎の弾が足元で爆発し、爆風でヘルドの視界を悪くする。

 そして俺は剣を心臓目掛けて突き刺す。


 もらった!


 見事剣は心臓に突き刺さるが、皮膚にかすり傷をつけた程度だった。


「剣の腕はそこそこあるみたいだな」


 確かに今剣は体に突き刺さっていたはずだ。

 俺はどうしようもないステータス値の差に、絶望しながらも次の手を考える。


 ヘルドは人間を舐めているせいか、攻撃を受ける傾向がありそうだ。

 そうでなければさっきの剣の攻撃も、防ぐかかわすだろう。


「次はどんな手を使ってくるのだ」


 やはりそうだ。この言動からして、人間には殺られないと思っているんだ。

 ただ、俺のMPも後半分しかない。チマチマ魔法を使うより、ここで蹴りをつけるぞ。


 俺は元魔王の足止めをするために氷魔法を3連続で使う。


氷弾魔法フリーズブリット

氷弾魔法フリーズブリット

氷弾魔法フリーズブリット


「ほう、連続で魔法が撃てるのか」


 上から目線のその顔を、今に後悔させてやる。

 狙いはさっきと同じようにヘルドではなく、その手前の地面だ。

 氷の弾が地面を凍らせ、ヘルドの足元を蔦って、膝くらいまで凍りづけにする。


 これで奴は動けないはずだ。


 そして俺は剣を持った右手で斬ると見せかけて、左手をヘルドの頭に置き魔法を唱える。


稲妻爆破魔法ライトニングブラスト


 俺の手から直接現れた稲妻が、ヘルドにダイレクトに当たり、その後爆ぜ⋯⋯ない! ゼロ距離射撃の魔法も効かないのか!


「無礼者、いつまで私の頭を触っている」


 声を発すると同時に俺は後方に吹っ飛ばされる。


「ぐふっ!」


 脇腹に拳を食らったみたいだが、正直何をされたのかまったくわからなかった。

 うまく息をすることができない。どうやらあばらが折れて肺に刺さってるようだ。


「貴様の底は見えた。これで終わりにしてやる」


 ヘルドが止めの魔法を繰り出す。


煉獄魔法インフェルノ


 地獄の業火が、辺り一面を焼け野はらへと変貌させる。


「うっ!」


 い、生きてるのか。

 あれほどの魔法を放たれて、命が残っているなんて奇跡に近い。

 魔法を撃たれる前に俺とリアナに【氷柱盾魔法アイシクルシールド】を使ったが、それでも生き残れるとは思わなかった。


 リアナを【鑑定魔法ライブラ】で見てみる。

 大丈夫だ。何とかHPが0にはなっていない。


 しかし、生き残ったといっても、後一発魔法を放たれたら終わりだ。

 俺のHPは2、MPは3しかない。


 ごめんリアナ、君を護ることができなかった。


「【煉獄魔法インフェルノ】を食らってよく生きていたな」


 ヘルドは倒れている俺の前に佇み、上から見下ろしている。


「その女勇者は、ヒイロを護ると言って、最後まで諦めず、私に一矢報いたぞ」


 そうか。リアナは俺のために元魔王と戦ってくれたのか。

 だったら俺も諦めるわけにはいかないじゃないか。

 初級、中級の魔法じゃ奴に効かない。上級以上の魔法で何か使える魔法はないか。

 俺はスキル魔法の真理を使い、魔法を探す。


 あった。2つあったぞ。


 1つはMP2で使える自爆魔法。自分の命を燃やして自爆する魔法。

 だが、今この位置で自爆魔法を使用してしまうと、リアナを巻き込んでしまう。

 そしてもう1つは時空魔法。

 けど、この魔法は未来へのリスクが高すぎる。


 ヘルドが左手に炎を集める。


「さらばだ勇者と若者よ」


 リスクがなんだ! 今を生きることができなけれぱ、俺達に未来はない!


「【未来終魔法フューチャーエンド】」


「【煉獄魔法インフェルノ】」


 地獄の業火が辺り一面を焼きつくす。

 炎がヒイロとリアナを包み、元魔王のヘルドでさえ、2人は燃え尽きたと確信した。


「さて、後は村を滅ぼしていくか」


 ヘルドは買い物に行くかのように、言葉を発する。


「誰がそんな所へ行かせるかよ」


 ヘルドは声がした方へ視線を向けるが、誰もいない。

 いるのは、燃えているヒイロとリアナだけだ。


「まさか!」

「そのまさかだよ」


 俺はリアナを抱き上げ、立ち上がる。


「バカな! 貴様はなぜ死なない!」


 確かに2人は地獄の業火で焼かれている。この状態で生きているはずがない。

 そう、普通ならありえないが、俺は魔法を使って【煉獄魔法インフェルノ】の炎を


「ありがとよ。おかげでHPを回復することができた」

「炎でHPが回復だと! まるで炎のモンスターではないか」


 そう、今俺達は魔法を使って炎の神獣、フェニックスになっている。

 だからヘルドの地獄の業火は効かない。むしろ炎を吸収してHPが回復している。


 ヘルドを倒す前に、まずはリアナを安全な所に移動させよう。


「【転移魔法シフト】」


 俺はリアナを自宅のベットへと転移させた。


「転移の魔法だと! その魔法は人間ごときの魔力では使うことができないはずだ」


 転移魔法は一度行ったことがある場所へ、一瞬で移動できる魔法だ。

 そして確かにヘルドが言うとおり、魔力値が高くないと使用することができないが、今の俺にとっては造作もないことだ。


 現在の俺のステータスはこうなっている。


 名前:ヒイロ

 性別:男

 種族:人間

 紋章:翼と門

 レベル:82

 HP:3,261

 MP:15,362

 力:S

 魔力:SSS

 素早さ:S

 知性:S

  運:B


「貴様、今まで手を抜いていたのか」


 ヘルドを苛立ちながら、拳を突き出してくるが、俺はひらりとかわし、逆にヘルドの腹を斬りつける。


「ぐあぁぁ!」


 斬った所から鮮血が飛び散り、ヘルドは声を上げる。

 先ほど心臓を剣で刺した時に、かすり傷しかつけられなかったのが嘘のようだ。


「それならば魔法を食らえ」


 ヘルドは左手を突き出し、魔法を唱える。


「【煉獄魔法インフェルノ】」


 地獄の業火が向かってきたので、俺は右手に魔力をため魔法で迎撃する。


「【氷の国ニブルヘイム】」


 液体窒素の白き霧を生み出し、辺りを一瞬にして氷の世界へと塗り替える。

 氷の霧はヘルドと炎を全て飲み込み、業火の熱を俺に感じさせない。


「私と同じ極大魔法だと! しかも人間ごときが私の魔力を上回るとは」


 負けるはずがない人間に逆襲をくらい、ヘルドは動揺を隠せない。


「いや! 今のは魔法の相性が悪かっただけだ。魔王の私が負けるはずがない!」

「魔王じゃなくて元魔王だろ。なら試してみるか?」

「ほざけ!」


 元魔王が左手から直径50センチメートルくらいの火炎弾を生み出す。


火炎弾魔法ファイヤーボール


 巨大な炎の弾が俺に向かってくる。


 俺も左手をかざし魔法を唱える。


火炎弾魔法ファイヤーボール


 直径80センチメートルはある火炎弾を放ち、俺に向かってきた【火炎弾魔法ファイヤーボール】を飲み込み、その勢いでヘルドに当たる。


「あ、ありえん! 貴様は本当に人間か」


 その時、俺の左手にある紋章が輝く。


「そ、その紋章はリョウトとユイの物か!」


 リョウトとユイ? それは俺の父親と母親の名前だ。

 なぜヘルドがその名前を。それにこの紋章は両親と同じものなのか。


「父さんと母さんのことを知っているのか」


 俺の言葉にヘルドが驚愕する。


「貴様は2人の子供か、それならばなおさらここで殺さないとな」


 ヘルドはが父さんと母さんのことを知ってるのは間違いないようだ。


「なぜ、父さんと母さんのことを知っているんだ」

「なんだ、知らんのか。貴様の父親と母親はかつて勇者パーティーに属し、1年前、私を殺した奴らだ!」


 なん⋯⋯だと⋯⋯。


 父さんと母さんが勇者パーティー? しかも魔王を倒したなんて。

 祖父母からは、冒険者をやっていることしか聞いていなかったけど、まさかそんなすごい人達だとは思わなかった。


「名前はヒイロと言ったか」

「そうだ」

「ヒイロには俺の命を燃やした最高の一撃を放つ!」


 俺が父さんと母さんの子供と知って、ヘルドの様子が変わった。

 それなら俺も最強の魔法で対抗させてもらう。

 それに


 互いに魔力を高める。


 全ての力をこの一撃にかける。


 ここで負けると勇者のリアナは確実に殺されてしまう。


 大丈夫。ならやれるはずだ。


 俺とヘルドは両手を相手に向ける。


 魔力が目に見えるほど収束し、そして2人は解き放つ。


四大元素魔法エレメンタルフォース


地獄太陽閃光魔法ヘルフレア


 俺の全ての魔力を放った一撃とヘルドの命を燃やした一撃がぶつかり、ラーカス村の裏山が消滅する。


 そしてその場には、大ダメージを受けて気絶したヒイロだけが残された。


―――――――――――――――


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