第4話 エロ漫画

 放課後、いつものように俺のベッドで漫画を読む文乃あやの。今はスッゲー幸せだ。付き合ってないけど、文乃が側にいるからだ。


 ふと、こんなふうに考えることがある。


 文乃は俺を振った事に同情して、いつもと変わらないようにしているのだろうかと。


 だと、したら……あまりにも俺が哀れだ。


 本当は聞いてみたい。

 聞いてみたいのだが……勇気がない。

 でも、仮に文乃が同情だと言ったとして、俺は文乃になんて言うのだろうか?


 同情はやめて欲しいと言えるのだろうか。


 答えはわかっている。

 

 俺は言えない。

 俺が恐れている事は今の関係が失われる事なのだ。

 

 例え、ここから先に進めないただの幼馴染みであっても、俺は文乃と一緒がいい。


「ねえ、真喜雄まきお

「なんだ?」

「真喜雄ってこの漫画みたいなことしたことある?」

「うん? この漫画って」

 ノオォォォォォォォォォォォォッ!


 文乃が読んでいたのは俺の秘蔵のエロ漫画だった。


「なあ文乃……それを何処から?」

「ベッドの下」


 ベッドの下なんて安易な場所、定番過ぎて逆に怪しまれないだろうと思っていたのだが、失敗だった。

 せめてクローゼットにしておくべきだった。


「真喜雄こっちきて」

 ベッドの上で壁にもたれて三角座りをする文乃が手招きをする。

 だから、パンツ見えるんだって!


 まあ、俺は言われるがままに、文乃の隣には座った。


「ちょっと一緒に見よ」

 ダァァァァァァァァァァァァァァッ!

 何の羞恥プレイだよ! 何で幼馴染みと、好きな子と、振られた女の子と、秘蔵のエロ漫画を見なくちゃならないんだ!


「嫌?」

 出た……猫撫で声プラス上目遣い。

 たった一言でこんなにも人の心を揺さぶってんじゃねーよ!


「ううん、嫌じゃ無いよ」

 その言い方で断れるやつがいるなら見てみたいわ!


「真喜雄はどのシーンが好きなの?」

 おい、おい、おい、おい、おい、おい、おい、おい、おい、おい、おい、おい!

 それを聞く?

 なんか、好きなエロいシーン曝け出すって、心のうちを全部曝け出しいるみたいで、恥ずかしさがやばすぎるんだけど。


「ど……どのシーンって、そんなの聞いてどするんだよ」

「いざっていう時の参考にしようと思って」

 な……なに。

 それは、つまり……俺の好きなシーンを、文乃がいつか再現するってことか。

 あ……やばい。

 今も抑えるの必死だけど、これ以上はダメだ。

 ヤツが言うことを聞かない!

 これはちょっと、会話をそらして落ち着こう。これ以上この話題と、エロ漫画に集中していると、本当にやばいことになってしまう。


「いざっていう時って……俺と?」

 俺の考えたシナリオはこうだ。


『やだ、真喜雄なわけないじゃん、彼氏ができた時だよ』

『じゃぁ、そんなこと彼氏が出来てから聞けよ』

『それも、そうね。でもこんなエロ漫画もってるような彼氏は作らないけどね』

『男はみんなエロいんだぞ』

『真喜雄には負けるだろうけどね!』


 だが、実際に返ってきた言葉は……、


「そうだよ、真喜雄とだよ、だから……気が向いたらシテあげるかもしれないよ?」


 さようなら、俺の理性。


 俺は正座をして若干前屈みでなるべく、ヤツを抑えつつ、各シーンについて熱弁した。

 欲望の限り、我を忘れてエロ漫画について熱く語った。

 

 その結果……。


「え、真喜雄……必死過ぎ、普通にキモいんだけど」

 完全に、引かれた。

 終わった……今度こそ終わった。

 そう思っていると、

「おりゃっ」

 後ろに突き倒され、四つん這いになって迫ってこられた。

 まるで、漫画のシーンみたいに。


「真喜雄はこんなふうにして欲しいの?」

 やばい……再現度が高すぎて、心臓が爆発しそうだ。


「う……うん」

「しかたないなぁ」

 文乃は上体を起こして馬乗りなった……その時。


「うん……真喜雄、お尻に何か硬いモノが当たってるけど?」

 欲望を抑えきれなかったヤツが起きてきたのだ。


「そ、それは……」

「真喜雄は……したいの?」

 し……したいってアレだよね。

 そ……そりゃもちろん、

「したい」

 と答えた。


「考えとくよ、今日はここまで、またね」

 え———————————っ!


 起こすだけ起こしておいて……、

 文乃はとびっきりの、笑顔を残して帰って行った。


『またね』か……、


 来るか来ないか分からない次に期待する俺だった。


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