2. 宝物庫で探検ゴッコ




  ◇◆◆◇




「何か面白いものないかなあ」

「世界がヤバイ禁呪書とかないかな? もしくはなんか笑える魔道具マジックアイテムか」

「そんなの所持してたら隣の帝国に即攻め滅ぼされてるよ」

「いやいや、なんで禁呪とネタ道具を一緒くたにしてんの?」


 薄暗い倉庫のような部屋で、何やら物騒な会話が子供の声で囁かれている。


「ミューン、ちょっとこっちに明かりをちょうだい」

「アンタたち、妖精ワタシの羽を明かり替わりにしてんじゃねー」


 文句を言いつつも人間の手のひらサイズ程の妖精フェアリーは、何もない背中から幾つもの小さな光が溢れては収束し燐光する羽の形になってフワフワと子供の周りを飛んだ。

 元々子供達も小さめの灯りライトの魔法を使っていたが、光源が欲しかったらしい。なら自分のライトを大きくすればいいのだが、魔力をケチったのである。

 少し明かりが強くなると部屋に置かれている様々な武具や書物、箱などが棚や台に乱れずに整理整頓されて置かれているのが判る。そしてそれらは埃はかかっているのもあるが、よく見ると装飾や意匠を凝らされ、そこかしこに感知出来るならば魔力が籠もった物もある。鑑定すればどれもが逸品、名品であるだろう。そこは宝物庫であった。


「物語や英雄譚とかでさ、廃城ならともかく、宝物庫の床いっぱいに金貨や宝石が散らばってる描写シーンがあるじゃない? あれってウソっぽい」

「まあ宝物庫の管理が出来てないよな」

「夢がないなあ……」


 整然とした宝物庫の様子を冷静にツッコむ二人の子供と妖精。だが同時に宝物を探そうと、ワクワクとした好奇心に満ちた深い蒼色の瞳は隠し切れない。物心ついた時から帝王学を受けているのでクレバーだが、まだ子供である。好奇心のほうが勝ればそちらに傾くのが子供というものだ。そして二人はであった。

 王族しか知らない”隠し通路”を使い、宝物庫へ探検ゴッコをしに来たのである。


 そう、子供達は王族。双子の王子と王女なのだ。




「この剣、スゴイ魔力を感じる……あれ? 抜けない」


 大人用の片手半剣だがまだ背が低いので自分ほどの長さがある剣を、うんうんと力を入れて抜こうとしているのは第一王子アルス。


 男の子らしく体を動かすのが好きなので武具の方に興味があるみたいだ。明るい場所であれば輝くだろう美しい金色の髪は母親譲りらしい。短めに手入れされているだろうが、遊んだり走ったりして乱れても本人はさして気にしてないだろう。まだあどけない可愛い顔立ちは従者達に人気がある……? まあ見た目だけは。




「おおー? これは……お父様の日記っ!」


 第一王女のリーシャは魔術の素養が高く本が好きなので書物を漁っていたが、魔術体系の本の隙間に若い頃のちちの日記を見つけたようである。宝物庫に、しかも隠すように魔術書の間に挟まれていた日記はさぞかし黒い歴史はずかしいことが書かれているのでは、と王女は期待した。


 双子で妹なるリーシャは兄と同じく美しい金髪を背中の中程くらいまで伸ばしている。兄とよく似た顔立ちだが女の子らしく少し垂れ目で頬も柔らかそうでとても愛らしい。そして従者達に狙われている。……何を?




「宝物庫だけあって色んなモノがあるねー」


 二人それぞれが興味のあるものを物色しているのを背に、ミューンは部屋の中を飛び回って珍しいと思うものに寄ってはすぐに他の宝物に目移りしフワフワと向かっていった。


 妖精族フェアリーは基本気まぐれで能天気だ。小さく陽気な種族は魔力マナで羽を形成し浮力を得ることが出来る。


 薄目の緑色で染めたシンプルなワンピースを着て女の子が遊ぶ人形さながらの容姿をしている妖精ミューンは、臀部でんぶのあたりまで伸びている金髪を腰の辺りで小さな硝子状の玉と紅いリボンで結んでいる。飛んでいる時に髪が邪魔じゃないのかと思うが、どうやら羽は物質を透けているらしく問題ないみたいだ。


 双子が赤子の時、いつの間にかこの妖精が憑いていたらしい。それ以来双子の保護者なのだと自称している。当の本人達はペット扱いしているのだが。


 部屋中を適当にウロウロしていたミューンだが隅の方にある棚近くを飛んでいると、肌にヒリヒリする感覚がした。何というか不快な気分になる感じがする。


「むむむ……、なんぞこの今日の運勢が低下しそうな感じはー?」


 ””によって、占い好き妖精から送られる毎日食占いを受信している。食いしん坊なので如何に一品多く食べれるようになるか運勢を占っているのだ。


 本来ならば、そんなオカズが減りそうなモノには近寄らないだろう。

 だが、此処は宝物庫で珍しい物の宝庫だ。妖精族の気まぐれ気質と高い好奇心が珍しく食い意地を勝り、何が其処にあるのか確かめたくなった。……のちにそれがデザートを食べ損なる結末になるとは思わないだろう。運命の分岐点であったかもしれない。


 感じた方には古びた棚があり大小幾つものの意匠を凝らされた木箱や鉄箱が重ねられている。何か月か何年か触れられていないくらい埃を被っていて、その不吉な感覚は箱によって見えない奥の方からだ。小さい妖精族なので箱は動かせないが、隙間から奥には行ける。好奇心と怖いもの見たさによる衝動で埃も気にせず四つん這いになって自分の羽の明かりをもとに奥へ進むと、そこに、暗闇に潜むかのように、隠すかのように古びた札が張り付けられた木箱を見つけた。



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