終章 

8人目 早川未来

 私は一昨日、死ぬはずだった。


 親友だった春香が死んで、何もかも許せなくて、その中で一番許せなかったのが私自身だった。だから、死んで償わなくちゃいけないって思った。


 でも、死ねなかった。


 助けてくれた人がいた。手を差し伸べてくれる人がいた。

 それが分かったらまだ生きたいって思ってしまった。

 春香が死んで、今まで味わったことの内容な苦しみが24時間私を襲う。こんな苦しみを春香にもさせたくないって思った。


 死ぬのは怖くない。でも、死にたいわけじゃない。もういつ死んでもいいやっていう感情があるだけ。


 今の私は、明日の目標や、今度やりたいことを考えてそれを達成することを目的に生きている。明日おいしいご飯を食べる。その次はゆっくりお風呂に入る。そんな小さな目標も私にとっては大きな生きる目標となる。


 今の私の目標は、私を助けてくれた人にお礼を言うこと。足場が崩れて、「あ、私死ぬんだ」って悟った瞬間、手を引っ張られて、体ごと投げ飛ばされた。その時に、指輪にチェーンが付いたアクセサリーが一緒に飛んできた。傷などはついてなくて、とても丁寧に手入れがされていることが見て分かった。きっと彼の大切なモノなのだろう。


 この持ち主は私を投げ飛ばした後瓦礫とともに落ちていった。下からは悲鳴のようなBGM。赤と青のバックライト。まるで何かの映画のワンシーンだった。


 私達は急いで下に降りた。人だまりが出来ていたから、彼の場所はすぐに分かった。


 彼は…………



 ピクリとも動かなかった。


 すぐに救急隊員が病院へと運んだ。


 即死



 ではなかった。奇跡的に意識不明の重体。ただ、意識が戻るかは分からないとのことだった。


 彼の友人たちは昨日から病室に集まり何か物書きをしていた。

 私は何度も謝った。けど、私を責める人は誰もいなかった。

 その優しさで涙が溢れそうになったけど、私は泣かなかった。だって、私より絶対この人たちの方が泣きたいだろうから。


「私に……何かできることはありませんか?」

 せめてもの償いの気持ちで私は聞いてみた。

 すると私を助けてくれた人が、亡くなった彼女の生きた証を残すために小説を書こうとしていたことを教えてくれた。彼の友人たちはずっと病室でその小説を代わりに書いていたのだった。


「この部分○○ちゃんならなんて書くと思う?」

「というか本名でいいのか?」

「主人公は悠翔(仮)とかいいんじゃないー?」

「ヒロインはどうする?」

「○菜ちゃんは譲れませんがな!」

「じゃあ零菜ちゃんだな」


 私がそんな様子を茫然と見ていると、一昨日私が死のうとしている時に彼女が自殺したと話していた金髪の男性が私に話しかけてきた。

「こんな感じでさ、誰も小説何て書いたことないけど頑張ってみてんだよ。○○が目を覚ましたとき用に。お前も一緒にやるか?」

「…………ぜひ!」


「タイトルとかどうするー?」

「でっかいのは○○君がやっぱり決めた方がいいんじゃないかな? 私達でサブタイトルつけて」

「よしそれでいこう」

「○○なら絶対なになにの何みたいな感じでタイトルつけると思うな!」

「ホントー?」

「幼馴染に任せなさい!」

「いや、意外と恋愛漫画であったみたいにカタカナ四文字で統一するかもしれねーぞ」

「あー結構前にそういうラブコメ漫画あったよね~」

「でもあいつラブコメマンガ読むのか?」

「ワシは○○君は中二病だから、歌の歌詞みたいにちょっと痛いタイトルつけると思うぜよ」

「じゃあ三つ案でたから三部構成で作って、それぞれタイトルつけようぜ」

「はーい」



「君は、どんなタイトルつけると思う?」

「彼は……友人を大切にしてたから……それぞれの名前がいいと思う、思います」

 私の発言に彼の友人たちは各々の反応をした。

「確かにあるかもな」

「やりそー」

「プロローグでそれやろうぜ」

「じゃあ先にみんなで偽名考えよっか」

「あ、まだ聞いてなかったね。あなたのお名前は?」


 私は――

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