第11話 サヨナラ

 それからは思いついた分だけ遊びに行った。特に何を買いたいとか、何かしたいとか予定は立てずに遊んだ。

 遊びに行ききれなかった所もあった。



 そして、季節は夏を迎えようとしていた。零菜が入院するため地元に戻らなければいけない時期が迫ってきた。


 僕達が最後に選んだのは最初にデートをしたショッピングモールだ。


 初めての頃みたいに一緒に映画を見た。

 一緒にアイスを食べた。

 違ったところは一緒に買い物をしなかったこと。零菜が買いたいものがあるから一緒に来ないでと言った。明らかに何か企んでいる様子だったが、僕は零菜に合わせることにした。


 僕はこの一時間で零菜にプレゼントを買おうと思ったんだ。

 何を買うかは決まってなかった。歩き回りながら探していると、目に入った物があった。

 小さな青い石が入ったネックレス。健康などの効果があると書いてあった。僕はあまり占いなどを信じる性格ではなかったが、零菜は迷信とか占いとかは信じているタイプだった。僕は零菜が元気になれるならと思い、そのネックレスを買い、零菜が好きなオレンジ色の紙で包んでもらった。


 零菜との約束まで時間は五分前となっていた。僕は駆け足で約束の場所まで向かった。

 しばらくすると零菜は大きな紙袋を両手で持って現れた。

「重かったら持つよ?」

「やだ!」

 いつもなら持たせてくれるのだが、今日は体で隠すようにして断られてしまった。

「じゃあ、帰ろっか」

「うん」

 この時零菜はどんな気持ちだったのだろうか。僕は卒業式の時のような感覚だった。ああ、もうすぐ会えなくなってしまうのだなと、時間が止まったり戻ったりしないかなとかそんな妄想をしてしまう。

 僕が今できるのはこの時間を楽しむこと。後悔しないこと。僕は零菜と話し続けた。零菜と話すのは楽しくて仕方がない。気がついたらもう、零菜の家の前だった。

「着いちゃったね」

「今日はありがとね。楽しかったよ」

 僕はオレンジ色の紙で包まれた小さな箱を零菜に渡した。

「プレゼント。零菜が無事退院して元気になれるようにって思って。貰ってくれる?」

 零菜は何も言わないで何度も頷いた。

「開けてもいい?」

「いいよ」

 零菜は紙が破けないように開け、ネックレスを見て大事にするねといい、包装されている状態に戻した。

「ウチも渡したいものあるの」

 零菜が渡してきたのは大きな紙袋だった。

「これ、ショッピングモールで買ってたヤツだよな?」

「うん。ウチら同じこと考えてたね」

 零菜もあの一時間でプレゼントを選んでくれていたのだった。

「ね! 開けて!」

 紙袋の中を覗くと、中には青い大きな袋が入っていた。袋のリボンを取ると、中には青色の靴が入っていた。

「悠翔君は青色が好きだから。きっと似合うと思って。どう?」

「うん。めちゃくちゃ好きな色」

 包装する色までお互いの好きな色にするところまで一緒だった

「悠翔君は靴のプレゼントの意味知ってる?」

「何かあるの?」

「靴をプレゼントするとね、その人は自分から離れていっちゃうんだって。悠翔君はね? 私と……いちゃダメだよ? もっと元気で、可愛い子と仲良くならなくちゃダメなんだよ」

「…………零菜」

 零菜はまた泣いてしまっていた。これ以上僕が一緒にいることは零菜を傷つけてしまう。

 僕と零菜は今日を最後にもう、連絡を取り合わないことにした。


 最後の言葉はお互いに「ありがとう」だった。

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