第17話 食事会をしよう

その後、様々な混乱はあったものの、無事に不可侵条約は締結。

王国と勇者太郎の国はお互いに交易は行うが、武力による攻撃はしないという約束が結ばれた。


魔法使いチャラ男は教会機関を攻撃したという名目で教会機関内に存在する能力が制限される檻に放り込まれた。

やったことの規模からすれば、かなり軽い処遇だろう。


そして、勇者太郎達は無事に自分たちの国へ帰ることができたのであった。


「ごくり」

「ごくり」


勇者太郎とラスボス子は緊張していた。

お互いに同じタイミングで生唾を飲み込んだことに気が付きクスリと笑った。


ここはキャッスルゴーレム内の食堂、今日は両家の親の顔合わせを兼ねた食事会である。

元勇者と元ラスボスの顔合わせでもあった、波乱が起こることは想像に難くなかった。


「今日は頑張ろうなラスボス子」

「ええ、結婚式前に人死には出ないようにしましょう」


そうして二人は食堂扉を開けた。


「おお、勇者太郎、ラスボス子ちゃん」

「あらあら、お邪魔しています」


食堂には4人と4人が向かい合って座るような大きさのテーブルとそれぞれの椅子。

その食堂の席には勇者父と勇者母が座ってくつろいでいた。

二人とも格好は綺麗な服を着ている。さすがに普段着では来ていないようだ。


(どうやら、まだラスボス子の父親はきていないみたいだな)


「今日は遠いところからありがとうな。親父、おふくろ」

「いいのよ。今日はラスボス子ちゃんのご両親にあえるのでしょう? だからとても楽しみで」

「ははは。母さんったら、楽しみすぎて、出発を一日早めてしまってな。思いのほか早くついてしまった」

「まあ、それはあなたも一緒でしょう?」


すかさずのろけてくる両親に頭を抱えつつ、勇者太郎はため息を吐いた。


「せっせか!」


突然、食堂にミニゴーレムが湧きだし、何かをラスボス子に伝える。


「そう、ありがとう。食堂まで案内して」

「せっせか♪」


そういうとミニゴーレムは床に溶けていった。


「お義父さん到着したって?」

「ええ、私ちょっと出迎えてくる」

「俺も行こうか?」

「いいえ、大丈夫よ」


そういうとラスボス子は食堂から出ていった。

そうしてしばらく勇者太郎が手持無沙汰にしていると食堂の扉がノックされた。


「お、来たか」


勇者太郎は扉を開けた。

そこには紅い髪の男、ラスボス子の父親が立っていた。


「久しぶりだね。うちの娘がいろいろ迷惑をかけたみたいで、すまなかった」

「お久しぶりです。遠いところからわざわざありがとうございます。俺の両親はもう中にいますので、どうぞ入ってください」


そうして勇者太郎はラスボス子の父親を食堂へ招いた。

ガタンと椅子が倒れる音がした。

振り向くと勇者父、勇者母が臨戦態勢をとっている。


「き、貴様はラスボスファザー! なぜここに!」

「ん? もしかして、お前たちダンスマカブルか! 老けたな一瞬分からなかったぞ」


(ああ、やっぱり知り合いだったか。宿敵関係で……)

勇者太郎は頭を押さえた。とにかくちゃんと紹介をしようと勇者太郎は両親を椅子に座らせた。

ラスボス子も自分の父親を席に着かせた。


(そういえば、ラスボス子のお母さんがいないな、片親だったのか?)


そういう繊細な事情は本人からゆっくり聞けばいいかと変な藪蛇をつつく前に、勇者太郎はラスボス子の父親に自分たちの親の紹介を始めた。


「えーと、すでに知り合いのようですが、俺の父と母です」

「どうも勇者父です。その節はお世話になりました」

「どうも、勇者母です。どうやってあの封印を抜け出してきたのか詳しく教えてもらおうかしら」


続いてラスボス子が自分の父を紹介する。


「私の父です」

「どうもラスボスファザーです。再び貴様らと相まみえるとはラスボス権限を捨てて封印を抜け出したかいがありました」


両者に見えない火花が飛び交う。最悪の雰囲気だった。

勇者太郎はミニゴーレムに頼んで食事を手配した。


(上手いものを食べ、上手い酒を飲めば多少は雰囲気もほだされるかもしれない)


「こ、これは……!」

「あらあら、茶色いわね、泥のよう」

「カレーか」


まず出された料理は魔界名産のカレーだった。魔界は土地柄的に毒を吸った野菜や、魔力によって変な味になってしまう野菜が多い。そこで香辛料などをいろいろ入れて、割と何を突っ込んでも食えるように開発された料理がこのカレーだった。


「えっと、中の野菜は俺の村の物を使ってます。多少独特の味はしますが、結構おいしく食べれますよ」

「ふむ、そうか」


そうしてラスボス子の父親がスプーンですくいカレーを口に運んだ。

そして何度か咀嚼するとカッと目を開き、ワナワナと震えた。


「なんだこれは!! 野菜のうまみがカレールーに滲み出し、甘いコクを生み出している。その甘味を青唐辛子で引き締め、バランスを保ち、コリアンダー、ターメリック、クミンなど基本香辛料の配分を調整して味全体を引き上げているだと……! 本来の魔界のカレーとは全く別物だが、これはアリだ。おのれ人間うまい野菜を作りやがって!」


ラスボス子の父親の様子に顔を見合わせる勇者太郎の両親。

とりあえず、勇者太郎も出されたカレーを食べて見せた。


(うまい。緊張で味がよくわからないが、うん、きっとうまい)


「だいたいうちでも、泥のついたニンジンとか適当に洗って皮ごと茹でているじゃないか、俺でも食べれる代物なんだから一口ぐらい喰ってほしい」

「そうか……」

「だったら」


そういってパクリと案外潔くカレーを口に運ぶ勇者太郎の両親。


「おお、独特な味だがイケるな」

「こうなると人間になって良かったと感じますね。あの頃は絶対に食べようと思いませんでしたもの」


それぞれ舌にあったのか思いのほか評価は良く、皆のカレーの皿はすぐに空になった。

勇者太郎はすかさずミニゴーレムに次の用意を頼んだ。


「せっせか!」


素早い連携をもって、ミニゴーレムは食後の酒をテーブルに並べた。

それは薄っすらと黄金色をしたお酒だった。


「これは?」

「俺の村で取れたシモフリリンゴを魔族の様式で発酵させて作らせたお酒です」

「ほう」

「どれどれ」


先ほどカレーが効いたのか今度は誰も臆することなくお酒に口を付ける。


「なるほど、これは」

「うまいな」

「ええ」


甘すぎないリンゴジュースのような軽めの飲みごたえなので、すいすい酒が進んでいく。

ラスボス子がすかさず、酒の肴を用意し、食事会の雰囲気は大分砕けてきていた。


「しっかし、お前たちダンスマカブルの息子が私の娘と結婚することになるとはな!」

「いや~、それはこちらの台詞だ。ラスボスファザー」

「そういやお義父さんダンスマカブルってなんですか?」


先ほどから呼ばれている両親の呼び名に勇者太郎は疑問を持った。


「知らないのか、こいつら戦う時に空を飛んで踊りだすんだぞ「ふたりはスイートピー」とかキメ台詞付きで、んで、私の部下が消滅する。我ら魔族が恐れる死の舞踏ダンスマカブル。私も実際に受けたが、あの時ばかりはよくわからない理由で死ぬかと思った」


ケタケタ笑うラスボス子の父親、大分機嫌がよくなったみたいだ。


「何をいうか。お前こそ、当時付き合っていた四天王の女幹部の名前を必殺技にしていただろうが」

「なななな、なにを言うんだ。あれは立派な意味があって!」


親父ども二人は酔っていたこともあってか、ややケンカ腰になりかけている。

勇者太郎はここが止め時と判断し、手を打った。


「えー、宴もたけなわですが、とりあえず、この辺で食事会はお開きにしましょう。今日はここで泊っていってください。明日は俺たちの結婚式になりますので、マジでケンカして怪我でもされたら洒落にならないので、お願いします。解散しましょう」


かくして大きな怪我もなくなんとか勇者太郎は食事会を乗り切った。

そしていよいよ、明日は勇者太郎とラスボス子の結婚式。ついにここまで来たと勇者太郎は感慨深いものを感じた。

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