第11話 ひまわりの花壇

 研究所の中庭に、花壇をつくる日がくるなんて、耀は、思わなかった。


「耀くん、母の日どうだった?」と、レンガを並べながら、奈月がきく。


「カレーつくった。」と、耀も、レンガを並べながら言った。


冥界から帰ってきた後、『今日、母の日!』と、耀は、気づいて、あわてて実家に帰った。


といっても、耀の実家は、研究所の近所。


浮遊魔法で空を飛んで、線路を飛び越えてしまえば、陸橋を渡る必要がないから、徒歩5分かかる道のりを、滞空時間1分に短縮できる。


カレーつくった。と、言った後で、耀は、小さなため息をついた。


「毎年、毎年、カレーつくってるから、今年は、違うことしたかったのに。母さんが、作ってもらう気満々で、材料買ってきててさ……。」


「お母さん、楽しみだったんだね。俺も、お母さんのお墓参り行って、寮に引っ越すこと、ちゃんと話してきたよ。松岡奈月の一生は、魔法学に捧げます!って宣言したら、お父さんに、結婚しないの!?孫の顔が見たかったのに!って言われちゃった。お父さんには、俺の気が変わるまで、長生きしてもらわないと。」


「目標は、ひ孫が成人するところ見ることかな。」圭が、話に混ざってきた。


「そこまで生きたら、もっと長生きしたくなっちゃうよね。想像するだけで、楽しくなっちゃう!」と、圭は、笑っている。


圭が、レンガをとりに行っている間、奈月は、耀に、こっそり言った。


「俺のお父さん、変わってるでしょ?知ってる?プロポーズも変なんだよ。車に乗ってる時、『この助手席は、一生、君のものだよ。』って、言ったんだって。そのプロポーズのお母さんの返事、短歌だったらしくて。命が花のように短いなら、私は、ずっと、あなたの隣で咲いていたい。みたいな内容。最近、初めて聞かされたよ、その話。変わり者のお父さんと結婚するくらいだから、お母さんも変わってたんだね。」


「わー!博士!」と、妃乃の悲鳴がきこえて、耀と奈月は、ふり返った。


「持っていけるよ、大丈夫!」と、圭がレンガをたくさん抱えている。


「どうしたの?」と、神龍が心配して駆けつけた。妃乃が言う。


「博士が、大丈夫って、私の分のレンガも持って行ってくれるって。気持ちは、ありがたいけど………。」


「博士、絶対、重いでしょ?落としたら危ないし。見てる方が、大丈夫じゃないんで、やめてください。」


と、神龍にも止められていた


耀が、奈月に言った。


「松岡博士の大丈夫って、ほんとは大丈夫じゃないよね?」


「バレてる?お父さんの大丈夫は、本来の意味はないから。元気が出るおまじないみたいな言葉。安心するんだって、大丈夫って言うと、本当に大丈夫な気がして………。」


そう言った後、奈月は、仮死状態になった時のことを思い出して、「確かに、俺も大丈夫だった。」と、つけたした。


あの時、そばで、ずっと、圭が、大丈夫!と、励ましてくれた。


がんばれ!よりも、大丈夫!と言われた方が、気持ちが奮い立つことを、奈月は痛感していた。


耀が、レンガを積みながら話す。


「どたばたしてたから、俺、退院したって家族に連絡すること、すっかり忘れちゃっててさ。母の日に実家に帰った途端、怒られたよ。『退院したのに、なんで連絡しないの!』って。だって、すぐ冥界に堕ちちゃったし。」


「びっくりしたよ。冥界にまで助けに来てくれるなんて、思わなかったもん。」


「助けに行くよ。奈月は、俺のバディなんだから。」


「裁きの間で、耀くんをみつけた時、本当に、うれしかったんだよ。クロウに、お母さんのお葬式を見せられて、俺、なにもかもが、どうでもよくなっちゃって。このまま、どうにでもなっちゃえって思ってさ。そんな時、耀くんの声が聞こえて。ひとりじゃないってわかった瞬間、急に勇気がわいてきたんだ。友達がそばにいるってだけで、本当に勇気がわくんだね。この気持ちを、曲にしようかな。クロウが、いいギターくれたし。」


自分じゃ絶対に手が出せないような、ヴィンテージもののギターを、クロウは、プレゼントしてくれた。クロウは、悪い奴じゃないのかも。


レイアからも、豪華なフルーツバスケットをもらった。


その中に、マンゴーがあるのをみつけた圭は、舞いあがっていた。


その日の魔法学研究所は、フルーツパーティー。


ちゃんと落とし前をつけてもらえたから、のどもとすぎた仮死状態の痛みを、奈月は、もう気にしていない。


耀が言った。


「タイムスリップしたじゃん。奈月が母ちゃんと話してた時さ、俺も出て行って挨拶したかったんだ。奈月の母ちゃんが反魂の契約しなかったら、俺は奈月に会えなかったわけだし。けど、親子水入らずで話してるのに、どうかなって思ったから。」


母親との会話を聞かれていたと思うと、奈月は、恥ずかしかった。


「そういえば、耀くんって、走ってるの?」と、話題を変えた。


「走ってるよ!ついに、念願の早朝ランニングができるようになったんだから!薬を飲んでないのに、咳が出ないとか嘘みたい!松岡博士の治癒魔法で、こんなに喘息が軽くなるなんて思わなかった!夏までには、今より体力ついてるよ、きっと!魔法つかっても、疲れないはず!」


と、耀は、嬉しそう。


「その頃には、グループ研究が始まってるよね。楽しみだな。」


奈月も、魔法学研究所の一員として、魔法の研究に携われる日々が始まると思うと、わくわくした。


新生活のスタートを切ったばかりの松岡家には、まだ、まにあわせのものしかない。


けど、そのうち、いろいろ増えていく。新しい思い出といっしょに。


新調した母親の仏壇には、白いカーネーションが飾ってある。


もちろん、すぐに萎れないように、時間の魔法をかけて。



 花壇が完成した。種をまいて水をあげた後、奈月が、花壇へ杖を向ける。


時計の文字盤の魔法陣の光を浴びて、花壇の時間が進みだした。


ひまわりが満開に咲いた時、みんなで、ハイタッチした。


作業が終わって、神龍が最初に発した言葉は、「腹減ったよ。ラーメン行こう?」だった。


「またラーメンなの?」と、妃乃が呆れている。


「今なら、ライスおかわり自由だよ!」神龍が、食いしん坊発言をしている。


「僕も、おなかすいちゃった。」と、食べたそうにしている圭を見て、「決まりだ!行こう!」と、神龍が先陣を切った。



 友達の後に続く前に、奈月は、ひまわりの花壇をふり返った。


耀が、太陽に手をかざしている。


「耀くん!」と、奈月は呼んだ。耀が、ふり向く。


「弟に、白くない?って言われちゃって。研究室にこもってないで、外に出ろって言われたから、冥界にいたからだって言ったんだけど、信じてもらえなくてさ。」


「あんな壮絶な冒険した魔法つかい、他にいないよ。話したところで、信じてもらえないよ。」


「それもそうか。クロノスが倒されることが、運命の女神に予言されたことなら、俺と奈月が出会うのも、もしかして運命の女神に予言されてた?」


「かもね。俺たちの時空間転移の魔法があったから、ブラックホールができたんじゃない。俺と耀くんの複合魔法が、クロノスをやっつける最終兵器のひとつだったなんて考えられる?俺たち、最高のバディだと思わない?」


うなずく代わりに、耀は、奈月と拳を突き合わせた。



Fin…………………

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