第16話 連携

 俺は次の知識を得る為に支援科の授業に混ざる。その時の支援科の授業は、戦闘科との共同授業で、支援魔法本来の『支援』の実力をみる為に戦闘科と二人ずつでペアを作り、ニ対ニの模擬戦でタッグマッチが行われる様だ。


 戦闘科の誰とペアになるかは教師がくじ引きで完全ランダムで決められ、今そのくじ引きが引かれようとする所だ。


「ではくじ引きを始める」


 戦闘科は戦闘科の教師が。支援科は支援科の教師が。同時に出席番号の書かれたくじを引き、その引かれた二つの数字がペアになる。

 二人の教師はくじを引く度に番号を読み上げ、さっさとペアを作って行く。


 模擬戦は、トーナメント形式で行われ、最初にペアになった全生徒から勝ち組を抜き出して行き、最後に準々決勝、準決勝、決勝へと進んでいく。

 

 そして俺は今回支援科でペアは戦闘科になる訳だが、俺のペアは、残念ながら知り合いでは無かった。


「あ、お前……最初の頃に居たカオスだっけ……」

「あぁ。お前の名前は?」

「俺は……ルルド……。ま、よろしく」


 ルルド。漆黒の黒髪に重く苦しみを感じられる真っ赤な深紅の瞳を持ち、目の下にはクマが出来ている。何処か先程からレウィスと打って変わってとにかく暗い。

 口数も必要最低限のみで、余計な事は一切喋らないようだ。


 今回のタッグマッチはペアとの連携が大切になる訳だが、少なくともこのルルドからは俺と協力しようという意気が一切伝わらない。

 今回のタッグマッチ。大丈夫だろうか。


「カオスは色んな科目回っている様だけど? 万能型にでもなりたいの?」

「万能型? そうだな。ただ力を付けたいという理由でやっているだけだが」

「あ、そう」


 会話が終わってしまった。相手に興味が無いのか、ただ詮索しない性格なのか。分からないが、とりあえずやる気があるかだけ聞いてみようか。


「所でルルド。お前からはさっきからやる気というか、覇気が一切伝わって来ないのだが……」

「あー、そう見える? まぁ、事実なんだけど……中級に上がるのも面倒だし。ここ四年くらいずっと自分で留年してるんだよねぇ」

「ほう、つまり今は中級に足りる程の実力を持っているという事か」

「まぁ、そういう事なんじゃない?」


 ……。連携は望めない。が、俺が支援して後はルルドの実力に任せる。現時点の戦略はこれしか無いだろう。


 という事で、お互いの理解が少しは深まった所で試合相手が決まる。

 試合相手は、一見どうやら知り合ったばかりで、俺と同じく知り合いとペアがぶつかる確率は低いと見える。


 二組が向き合う形で間、十メートル程間隔を空けて、構える。そして、教師の掛け声で試合開始の合図が出される。


「始め!」


 早速相手の支援は、ペアに攻撃力と防御力支援を行った。特攻させるつもりだろうか。しかし、支援パートナーがガラ空きとなってしまっている。

 と、俺もそれに続いてルルドに支援魔法を掛けようとするが、授業が始まる前にも言った通り、神にも専門はある。つまり、知識があった所で専門外は不得意となる。正に今の俺だ。

 支援魔法は専門外。自身の筋力増加法は知っているが、味方の身体能力向上は正直言って感覚でやる事になる。


 そうして俺は、ルルドの利き腕。右腕に魔力を注ぎ込む。

 だが、失敗した。俺が自身にいつもやっている同程度の魔力を注ぎ込んでしまった。人間には魔核コアが存在し、支援効果を受け取るにあたって、必ず限度がある。

 そしてそれを超える為には魔核の強度を高める必要があるが……、実は限界突破も可能な事は可能なのである。

 しかしそれをやると、対象部位に異様な負担が掛かり、一時的に限界を超えた力を発揮出来るが、その負担はその一撃に限り、後になって強烈な筋肉痛に襲われる。


「え……、ちょ、なにこれ……」

「すまん、それで相手をとりあえず叩きのめせ。魔力の量を間違えた」

「う、うわあああぁ……」


 試合相手の戦闘ペアが、自信満々の表情で木剣を持って突っ込んでくる中、ルルドは少し焦った表情で、木剣を向かってくる相手に軽く振り下ろす。

 するとその一撃は、地面を振動させ、床に亀裂を与え、最後の真下から突き上げる様な衝撃で、相手は亀裂で蹌踉めきながらも、思いっきり奥の壁に衝突するギリギリの所まで吹飛ばされる。


「うわあああぁ!!」

「ゔっ!? あだだだだだ!」


一撃で吹き飛ぶ生徒、突然の激痛で倒れ込むルルド。トーナメントを見守る教師とその他生徒は騒然とし、一時授業が中断されてしまった。


 そこに戦闘科の教師が吹飛ばされた生徒を至急医務室に連れ込み、支援科の教師カムルは、ルルドと俺の方に寄り添って来た。


「一体何をしたんだい!?」

「済まない、すこし魔力の量を間違えた様だ」

「いやいやいや、間違えたとかの要領じゃあ無いでしょ。今の限界突破は、第四規格魔核相当だったよ?」


 カムルがその力に驚いているのは分かるが、聴き慣れない言葉に俺は首を傾げる。


「第四規格魔核……?」

「おや? 魔核の進化法を知っているのにこれは分からないのかい?」

「知らん」

「んーとねー、簡単に説明すると魔核の強度には段階があるんだ。初期は第一規格魔核って言うんだけど、強化する度にその数字は増えて行く。それで、今カオス君がルルド君に注いだ魔力の限界突破は、第四規格まで強化した魔核の限界を超えた力と言いたかったんだ」

「なるほど。強化の限界はあるのか?」

「今の所は聞いた事は無いかな。私が聞いて見た事があるのは、宗教に於ける神の力は、最高位の創造神で第十二か、第十三規格だと言われているね」


 ……。創造神カオスについて言われた事に一瞬俺はピンときたが、この世界の常識範囲からして、第十規格以上は神クラスらしい。

 この規格が第一と第二でどれだけ差があるかは曖昧だが、まずこの世界の人間が少なからず到達出来たのは、第七規格らしい。

 つまり第八以降は、超人の領域となる。

 何故だかこの話を聞いてから俺の『絶大なる力』の目醒めが、遠くなった気がする。

 人間の体になった俺にそこまで到達出来るだろうか?


 そんな事を考えている内に漸くルルドの筋肉痛が治まった様で、試合結果は、対戦相手が棄権した事で一戦分不戦勝となった。

 それから次々と多数の組みが戦い、トーナメントは準々決勝に俺は進出した。


 どうやってかと言えば、ルルドの実力が最初に中級以上あると言う事が分かって居た為、相手の支援有りの攻撃でも、軽く攻撃をなし、俺への攻撃も許さずに準々決勝まで連携の意味が無いとも思える程、トントン拍子で進んでしまった。


「ルルド。お前、本当に実力が有ったとはな。何故中級に上がらないんだ?」

「面倒だからだよ。だって中級に上がってわざわざ厳しい授業なんて受ける必要無いでしょ。初級のままずっと地道に鍛えるつもりだから……」

「……。確かにそれは一理あるな。お前はそれでもやっていけるというのなら、それで良いのだろう」

「そういうこと」


 そうして準々決勝の試合開始合図がされる。

 此処からは準々決勝、おそらくルルドの体力も実力のみで這い上がって来た為限界も近いだろう。

 しかし、俺がまた支援しようとすれば下手する可能性もある。

 俺はどうするべきか真剣に悩んだ。


 そこで俺は一つの出来事を思い出す。回復科の一日教師での出来事だ。

 確か名はセグロス。アイツは魔力の活性化を一定時間に一定量使う事で安定化させ、更に自然魔力の吸収の余裕を残す事で、活性化で消えた魔力を自然魔力で補う形で、二つを両立化させていた。

 俺はこれを応用すれば良いのでは無いかと考えた。


 要は、一つの魔力に集中せずにルルドの全身に向けて、魔力を少しずつ腕、胴体、足の三つに分けて行く事で、三つの身体能力を同時に上げられるのでは無いかと俺は考えた。


 俺は試合開始の合図で対戦相手の支援が完了する前に、ルルドの背後から両肩に手を置き、目を瞑って集中する。


「何してるんだ? カオス」

「お前は対戦相手に集中しろ。これから全ての身体能力を一斉に引き上げる。お前も腕と胴体と足に魔力が流れ込んで来るのを、感じるんだ。そして魔力を受け止めろ」

「あ、あぁ……」


 するとその方法は見事成功し、ルルドの全身が優しい黄緑色に発光し始める。ルルドの持つ第一規格魔核の限界丁度まで俺の魔力を注ぎ込んだ。


「なんだ。やれば出来んじゃん。力が全身に漲ってくるよ……!」

「よし、行け」


 すると機動力が限界まで引き上げられたルルドは、強く床を蹴り、相手の木剣の防御を突進斬りで容易に砕く。

 バキっという痛快な木剣が折れる音に対戦相手は為す術無く、ルルドによる連撃を防御無しの体に叩き込まれる。


「うわああああ!!」

「はは、これだけ戦っても支援効果が切れない……カオス、すげえな」


 本来なら二点先取り制の試合だが、攻撃力が限界引き上げられた連撃は、ノーガードの対戦相手にはかなりの深手だった様で、棄権。俺とルルドのペアは準決勝に進出した。

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