第18話:吉沢さんの話と泉堂さんと下村の再会

 その後、下村に、吉沢さんが、私、多少の貯えがあるから東京に住みたいわと言った。月10万円位でマンションかアパート借りられないかしらと聞いた。そこで、八王子周辺ならあるかもしれないが23区では15万円からだろうと話した。


 八王子から新宿までどの位かかるのと聞かれJR快速特急で40分、東京駅まで50分、横浜駅までも約1時間と言った。そんなに便利なら八王子に住もうかなと言った。そして、たまに会ってくれると言うと会ってもよいが、お互いに若くないのだから深入りしないで大人の付き合いならOKと言った。


 辰野の実家は古くて改修したが冬は寒くてたまらない。だから暖かい東京の方が快適だと言い、信州と東京の二重生活したいなと語った。宮入は、でも、僕の事をあてにしないでくれと言うと、それは大丈夫、私も、自分の生活する分くらいは、ちゃんと持ってるから安心してと言った。


 それなら、吉沢さんが八王子と辰野で2重生活をしようが構わないと告げた。吉沢さんが、含み笑いをし宮入君、中学時代、私が、下村君に言い寄られた知ってると聞くので、まさかと笑うと、ほんとの話よと言った。中学1年の頃から一緒に帰ろうと言い出し、いろんな話を聞かせてくれし勉強も教えてくれ仲良くなった。


 でも、下村君の人を見下したようなものの言い方がどうしても好きになれなかった。その点、宮入君の誰にでも分け隔てなく、気軽に話してくれる方が好きになったのと続けた。でも中学3年の時、お父さんの仕事の関係で東京へ行ってしまった時、本当に悲しくて泣いたわと打ち明けた。


 下村が、2014年8月8日、宮入の泊まっている離れに来て、ちょっと話してよいかと言い、何の話と聞くと泉堂さんの話だと言った。2013年3月、札幌に住む信州大学時代の友人の高松俊彦の葬儀に出かけて、葬儀を終えた晩、ホテルの近くのすすき野のバーで1人静かに飲んでいた。


「その時、突然、下村さんじゃないですかと、中高年の色気のあるグラマーな美人に声をかけられた」

「よく見ると、辰野中学時代つき合っていた泉堂さんじゃないか、これには、下村も驚いた」

「開口一番、元気だったと泉堂に聞いた」


「すると、あれから、いろいろあったわと言い、一瞬、宙を仰いだ」

「泉堂が、下村に22時で仕事終わるから、その後、場所を変えて飲もうと言った」

「タクシーで下村の泊まるホテルへ行き、最上階のラウンジバーへ向かった」

「1975年、今なき旦那さんが、すすき野の外れの小さなバーを買い経営した」


「ちょうどバブルになり稼ぎまくって、それを元手に、このクラブを買った」

「1990年になるとバブル崩壊で接待族が急減したため店は赤字が続いた」

「その後、赤字補填のため金を借りて支払えなくなり協議離婚」

「そして、彼の資産の一部をもらい離婚後、泉堂が店をやめマスターが店を売った」


「その金で借金を精算したが、借金全額を払い切れず,彼は、自殺した」

「それからマスターの変わり、この店で働き続けてると話した」

「でも、この町を出て、暖かい大都会、東京へ行きたいと告白した」

「女一人、死ぬまで食べられる位の資産は、あるのよと、さびそうに笑った」


「でもね、店を終えて、マンションに帰り、冷たいベッドで寝るのは寂しいと言うと涙ぐんだ」

「そして、下村君、辰野に帰るのを1日延ばせないと言われ了解した」

 明日、10時に下村の泊まってるホテルで待ち合わせることにした。


 翌日、札幌から海辺の列車で小樽へ行き水族館、天狗山、小樽運河を散歩した。その晩は、小樽、朝里川温泉の宿に2人で泊まって、離れていた時を埋めるように愛し合った。翌朝、9時の列車の乗り、泉堂さんと札幌駅で別れた。その時、泉堂は、流れる涙をふきながら、下村の方を見て手を振った。


 その後、下村は、千歳から羽田行きの飛行に乗り、中央線で、夕方19時、辰野へ帰った。そして2014年2月、泉堂さんは、東京の多摩ニュータウンの1LDKのマンションに引っ越したと話した。何で、もっと早く教えてくれないのか宮入が下村に聞くとプライベートな事、他人に簡単に話せるかと告げた。

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