Last battle:芝村千草vsボーイ
第1幕 ふうどふぁいと
「……っと。今度は……ファストフード店?」
周囲を見回すと、モノトーンに赤が混じった内装の店。ファストフード店、だろうか。千草はその片隅、ソファ席に倒れていた。ゆっくりと半身を起こし、周囲を見回す。と、正面の席に誰かが突っ伏していた。
「……?」
ウェイター服に包まれた、痩せても太ってもいない体形。身長170cmくらいの……男、か。恐らく対戦相手なのだろう。彼を起こそうと片手を伸ばすと、ピク、と彼が動いた。
「……!」
そのまま勢いよく顔を上げる。その瞳と目が合った瞬間、雷に打たれたかのような怖気が全身に走った。彼も犯罪対策会社MDCの一員、しかも社員は自分含めてどこかおかしい人間(と兵器)ばかり。彼のようなわかりやすい悪性をわからずして、やっていられるものか。反射的に狭い空間から抜け出し、タメ時間カウントを開始しながら距離を取る。そんな彼に目をやり、ウェイター服の男は残忍に笑った。
「ギャハハハッ! なかなか分かってンじゃねーか。見た感じ、テメェが今回の対戦相手みてぇだな。でもって――ECコードッ!」
「――鎖よッ!!」
鋭い叫び。同時に男の足元に魔法のじゅうたんが浮かぶ。その複雑な文様が魔法陣に変化し、そこから鋭い音を立てて伸びるのは電気カーペットのコード。幾本もの海藻のように揺らめくそれは、一瞬身をかがめ――鋭い風切り音と共に千草へと飛び掛かってゆく。
迎え撃つは、派手な金属音を上げながら飛んでゆく数本の鎖。鋭い先端で直接激突させようとはせず、何本ものコードを一度に巻き取って動きを止めようとうねる。しかし相手方のコードの方もその動きに機敏に反応し、抜け道を探すように鎌首をもたげて――
「店内での喧嘩は御法度だよ!!」
――赤と黄色に染め上げられた影が、二人の間に割って入った。悪意にギラギラと輝く瞳と、蛇のような金色の瞳がその姿を映す。赤いパーマ、黄色いつなぎ、白塗りのメイク。それはどう見ても――。
「ハロー! モナルドはモナルド・マクモナルドだよ!」
まず、鋼鉄の鎖と電気カーペットのコードをそれぞれ握り。
「今からこの競技のルール説明をするね!」
化け物めいた膂力で、握り潰し。
「この競技は『ふうどふぁいと』!」
彼に巻き付こうと飛び出した魔法のじゅうたんを両手で掴み。
「ざっくり言うと、ハンバーガーを先に30個分食べることができたら勝利だよ!」
耳障りな音を立てながら、真っ二つに引き裂いて。
「競技会場はそっちの公園! 競技開始と同時に小型UFOが飛んできて、ハンバーガーをトラクタービームで運んでくれるから、それを食べてね!」
それを隠れ蓑に死角から放たれた果物ナイフを、軟体動物のように回避して。
「それと、専用の首輪を首につけてね! 準備段階中につけられなかったら、その時点で失格だよ!」
バレリーナのような片足軸回転で、男のナイフの射線上から消え。
「それでは――
――男の手首と首根っこを掴み、引き倒した。
◇
「グァッ……!」
男の苦しそうな声。白塗りクラウンのニヤニヤとした笑い。それを遠巻きに観察しながら、千草は
(……魔法のじゅうたん? そこから出てきたのはコード……もしかして、電気カーペットのコード? そう考えると相手の
ピエロの拘束から逃れようと、必死にもがく男。しかしクラウンは男に馬乗りになって、全体重を彼に集中させていた。そんなクラウンを観察し、千草は口にしかけた言葉を飲み込む。
(……ってか、何あのクラウン。人間兵器?)
おかしいだろう。ただの説明要員としては屈強すぎるだろう。
と、クラウンはふと顔を上げた。千草の方に視線を向け、面白おかしく口を開く。
「そうそう! そっちの机に会場の地図と色見本、それにスマートフォンはあるかな?」
「あぁ、うん、これ?」
千草たちが転送されたのとは別のテーブルに、紙の地図とメニュー表じみた色見本、それに二台のスマートフォンが置かれていた。その一つを手に取ると、軽い音を立てて画面が点灯する。
「そのスマホには10分おきにおすすめのハンバーガーが表示されるよ! ハンバーガー1つを食べるだけだと1点だけど、おすすめの種類を食べるとプラス2点が手に入るよ! よかったら活用してね!」
「グァァアアアアッ!!」
説明が終わると同時、クラウンの下敷きになっていた男が咆哮した。掴まれていない方の手で床に触れ、荒々しく声を上げる。
「キッサマァ……死ぬ覚悟はできてんだろうな!? 『ラッシュフィールド』!!」
叫びと同時、床一面がイグサの草原に変化する。同時に男と地面の間にじゅうたんが滑り込み、電気カーペットのコードが彼を守らんと拘束する。ちり、と千草の首元に違和感。彼は反射的に両腕を広げ、雑な詠唱を口にする。
「鎖よ! 守護の結界と成れッ!」
「『オーツー』!!」
男の叫びに呼応し、地面を満たすイグサがざわめいた。彼らが生み出し、巻き起こるのは圧倒的な酸素――すなわち、風。圧倒的な暴風にコンクリート製のはずの店全体が軋み、店内の机や椅子などが派手に宙を舞う。
「ぐ、うっ……!」
千草は鎖を用いて自身を柱に拘束し、ぎゅっと目を閉じて暴風に耐えていた。同様にクラウンも吹き飛ばされまいと必死に男にしがみつくけれど、それを許すような彼ではない。
「吹っ飛べオラァ!!」
「うわぁあああっ!?」
暴風の中、器用にもコードを操ってクラウンの手を外す。同時、支えを失った彼は強風の中に放り出され――コミカルな動作で何度も床と天井を往復した挙句、店のガラス窓を叩き割って店の外へと強制退場させられる。
「らん……らん…………るー………………!」
意味不明な言葉を残し、クラウンは星となって消えていった――。
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