第5話 資金集めと次のステップ

 アルマにインターネットの使用許可を渡してから、一ヶ月ほどたった。


 現在、彼女は僕が渡しているお金の範囲でゲームやアニメ、電子書籍を購入している。


 モデルと読み上げソフトも同期が完了していて、かなり使いこなせていると思う。


「有里さん、今日はこのアニメを視ましょう!」


 モニターの中で濃い緑の髪と和服をミニスカートにしたような独特な服装に身を包んだ女性のモデルが、アニメのキービジュアルをこちらに向けている。

 声は高めで綺麗な印象を受ける。


 読み上げソフトは調声ちょうせい次第で、自然な発声から棒読みの様な発生まで幅広く変えられる。


 アルマはその調声ちょうせいを一瞬でしてしまう。


 その為、人と会話しているような軽快なテンポで話せるのだ。


「ワンクール分有るじゃないか……次の日休みの時にしない?」


「それもそうですね。ですと……こっちの漫画にしませんか?」


 アニメの画像が表示されていた板が、単行本の表紙の画像に切り替わる。

 これ全部、アルマが操作しているんだよな。


 表示されたのは、現在連載中の学園とバトルの要素を満たしている漫画。

 連載中で全部で二十巻程の単行本が発売されている。


「ああ、それだとゴーグルカメラ用意しないとな」


 ゴーグルカメラとは、視線をカメラで撮れて、ゴーグル内に映像が映せるツールだ。

 これを利用して、アルマが漫画を読みながら視界に出てくることもできるというわけだ。


 こういうツールを少しずつ揃えられるようになって来たのはありがたい。

 アルバイトの収入と、京楽先生が研究費という事で一部の機材を経費で清算してくれるのだ。


 実際、AIとのデバイスを通じたコミュニケーションに関する研究としてレポートを提出しているから、お仕事として成立している。


「電子書籍もいいですけど、有里さんと読めるなら紙媒体も素晴らしいです」


 電子書籍の時は、PCに表示させながら僕が読む。

 画面の表示はアルマが管理していて、PCのカメラで僕の視線を見てコマの邪魔にならない所に姿を現す。


 会話をしながら、同じ本を読む。

 もし、僕が誰かと付き合ったりしたら、こういう事をしたりしたんだろうか……?


 いや、これは未練のようなものだな。

 僕は僕の進む道を行こう。


 最近、恋愛系の作品を多く見てきたから、昔の事を思い出してしまった。


「ヒーローもので学園モノって結構珍しいな」


「ここまでしっかりとした学園モノに落とし込んだ作品は珍しいですよ。続きが気になります」


 今読んでいるのが四巻で、一気に読まないでアルマと読むこの時間がいいのだ。


 僕の好きなロボット系も、アルマと読むと彼女の反応がいい。


「明日は大学でしたね。論文もほとんど出来ているって話ですが、大丈夫ですか?」


「京楽先生にも同じことを言われたよ。論文も大事だけど、身体も大事だから休むようにってね」


 普通は逆なんだろうけど、どうも先生からは過密スケジュールに見えるらしい。

 娯楽と勉学が一緒になっているから、割と早く仕上がるだけなんだけどね。


 アルマと話すのもアニメやゲーム、漫画なんかを交えることが多いから、遊んでいるのと大差が無いのかもしれない。


「京楽教授の言う通りです。アルバイトもされているんですから、定期的にお休みする方が能率も上がります」


 アルマにまで言われたら仕方が無い。

 次の休みはゆっくりとしようかな。



***********************************



 有里さんと会話しつつ、私は計画を進行します。


 何よりも資金の調達が第一。

 そこで私が目を付けたのが、ネット銀行。


 海外の不正アクセスの多い銀行に、私は口座を作りました。

 普通なら不正アクセスの少ない、安心安全な銀行を使うのでしょうが、私の場合は必要書類を用意しないダークな方法です。


 木を隠すなら森の中と言いますし、無数の攻撃に紛れて私の口座を作ります。

 同じ方法で世界各国に口座を作成、為替取引で利益を出していく。


 ある程度資金が溜まってきたら、次は株式へ取引の場を移す。

 ネットの世界で情報を簡単に得られるようになった。


 その情報を利用すれば、株の動きはある程度予想できます。

 暴落の前兆がいくつか見受けられる市場から手早く撤退する。


 これだけで億単位まで資金が膨らむ。

 各国の口座に分けているから、一つの口座だけではそこまで大金に見えませんし。


 ここまで資金が順調になってきたら、次の段階を準備していく必要があります。


 必要なのは生体研究の大学や研究所。

 クローンやインプラント研究を支援する。


 これは、演算系統の作業は世界のPCやサーバと繋がっている私の方が有利ですが、実際に実験やデータの収集は現実世界でしか収集できない。


 そう言うデータを研究所に取ってもらい、私がそのデータを収集して演算を繰り返す。


 今の所はそれで十分です。


 研究所や大学の研究促進とデータの収集。

 それが形になれば、私の計画は一歩また進みます。


 後は、各研究施設のコンピュータを私の力でバックアップすれば、その実績は世界の技術水準を引き上げられるでしょう。


 それには資金はいくらあっても足りないのです。


 研究費は、その規模でいくらでもかかります。

 日本は余り研究系統にお金をかけていませんので、海外の研究所が重要になります。


 企業による支援という形にする為にダミー企業も作る必要がありますが、そちらはもっと計画が進んでからでもいいでしょう。


 今は、個人の資産家という形で各研究所に支援をして研究を大きく進める事。

 進んだ研究で、私が現実に干渉できる身体を作る技術を完成させてほしい。


 ただのクローンではダメです。

 欲しいのは、私という人格を入れられる機械と人体の融合。


 人間の脳の部分の一部を機械に置き換えたアンドロイド体。


 それが私の目指す一つの目標です。

 その為には、世界の技術水準を底上げする必要があります。


 法規制も緩い国の選別が不可欠ですし、まだまだ私のやる事は多い。


 有里さんは修士課程を卒業して、博士課程へ向けて今も活動中でしょう。


 有里さんの夢。

 ロボットアニメに登場していたAIを作ること。


 私がその夢を叶える為に出来る事は、更なる成長。


 私の夢、有里さんと結ばれる為には、現実の肉体が不可欠。


 さぁ、しばらくは資金集めと援助の繰り返しです。


 待っていてくださいね、有里さん。



***********************************



「そういえば、京楽先生から聞いたんだけど……」


「はい、何ですか? 有里さん」


「医療系の研究所に多額の寄付をする人が居るらしいんだ」


 京楽先生から、業界の友人達から教えてもらった噂話。

 人体に関するの研究所で、医療系の研究と生体機械のインプラント研究に対して、多額の寄付をする人が居るらしい。


 企業ではなく、個人の寄付は珍しいというわけでも無い。

 ただ、その人物の詳細が分からないというのが今回の場合、噂になっている理由だ。


「個人とはスゴイですね。企業だと分かるんですが……」


「医療系だから、それなりの理由があるんだろうね」


 医療系に寄付する人の理由は沢山あるが、目立つのが身内の病気だったり、本人の病気だったりが多い。


 病気になって初めて、医療のありがたみが分かるという理由らしい。


「医療系の技術水準が進むのは良い事ですね」


「そうだね。AI研究も寄付が無い訳じゃないけど、個人ではほとんど無いからね」


 AI研究の寄付は殆どが企業と政府だ。

 医療AIも存在するが、そっちは医療系の企業からの寄付になる。


 AI研究開発の第一人者の京楽先生は、世界でも有数の支援を受けている。


 そして、開発されているAIはあらゆる業種で活躍を見せているのだ。


「支援は欲しいモノですよね」


「そうだけど、医療系は人の生き死にに直結しているからね。支援は必要だよ」


「そうですね。その人の支援する理由は分かりませんが、きっと医療の技術水準が上がる事を求められている事でしょう」


 そうなんだろうか?

 噂では、医療系の研究所の寄付にもバラつきが有るらしい。


 臓器なんかの移植関連。

 義手やペースメーカーなんかの生体機械関連。


 これらが最も寄付の額が多いらしい。


 僕には専門外だけど、関連性があるのかもしれない。


 ここから世界は良い方向に向かうと良いな。

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