毎回新聞デジタルより、コピペ

“クリスマス委員会は私の人権を侵害している”と現職サンタのケイン・グッドマンさん(サンタクロース=ケイン)は涙ながらに訴えた。グッドマン家は代々サンタを受け継いできた、まさにサンタ家業の血筋だ。サンタは知っての通り、毎年一日で世界中の子供たちにプレゼントを配る過酷な職業である。誰しもがサンタにお世話になったことがあるだろう。しかし、そんな素晴らしい活躍とは裏腹に、彼らは代々ある問題に嘆いている。過労死問題である。


サンタの仕事はプレゼント配り以外にも沢山ある。


-毎日のように届く子供たちからの手紙を全て読み、時には丁寧に返信を書く。

-子供たちの要求を理解した上で彼らの性格や日々の行いを鑑み、最適なプレゼントを発注する。

-仕入れたプレゼントを梱包する、梱包工場の監督を行う。

-クリスマス前2、3ヶ月になると世界中に出向き、ショッピングモールなどで子供たちの生活調査を行う。


その末のプレゼント配りなのである。


ただ、過労死の原因は仕事量だけではない。グッドマン家が苦しめられてきたのは「サンタクロース一人制度」である。この制度(略してサンイチ制度)はクリスマス規則に含まれるサンタ準則に記載されている。


その名の通り、サンタは一人でなければならないという制度で、これが歴代サンタの過労死を引き起こしている元凶なのだ。すなわち梱包工場にて梱包作業を行うエルフの従業員たちを除けば、サンタが前述の全ての作業を毎日フル稼働でこなさなければならない訳である。


現在までの過労死の犠牲者の数を聞いたところ、ケインさんは、歴代サンタクロース全員が過労死や過労が引き起こしたと思われる病気で亡くなっていると教えてくれた。


多くの犠牲を払ってきたグッドマン家は、代々このサンイチ制度の廃止あるいは改訂を所望しているが、その訴えは毎度却下されてしまうという。


クリスマス委員会の言い分は「サンタは、その神秘性と世界的な一大文化のアイコンとしての唯一性を固持しなければならない。」の一点張りだそうだ。


筆者は、このクリスマス委員会の説明に激しい憤りを隠せなかった。なぜなら、彼らがサンタに求めているのは人権の放棄に等しいではないか。


「サンタはこうあるべき」という勝手な固定観念を押し付け、サンタの自由と独立性を奪っている。そんなことで、サンタの神秘性と唯一性が確立されるだなんて考えは馬鹿げている。事実、サンタは労働者であり人なのだ。サンタ像というのが、「良識のある、優しい人間」であることは構わない。ただ、そのレベルを超えて、サンタの労働姿勢に口を出すのは問題外だ。ましてや、ケインさんにとってサンタは彼の血筋の伝統、いわばアイデンティティーなのである。それを踏まえた、自由度の高い対応が模索されるべきだ。


さらに、世界の子供たちの期待に応えようとするサンタの良心を利用して法外の労働を半強制的に強いていることも許せない。何より、これまでに過労死が続出している事実をひた隠しにしているその姿勢は劣悪なものだ。


辞めたければ辞めればいい、というのがクリスマス委員会のスタンスなのだろうがケインさんは「サンタクロース=ケイン」として意地でも働き続けるという。


「委員会の、時代遅れな価値観をサンタに呑み込ませ、人権侵害をひた隠しにする体質が変わらない限り、後続のサンタたちも苦しむことになるでしょう。必ず私がその変革を見届けてみせる、そう誓ったのです。」サンタクロース=ケインは力強く語った。



ここで、今頃読者の皆さんは「なぜ今迄、この問題が明るみに出なかったのか」と疑問に思っているのではないだろうか。ケインさんがその理由を説明してくれた。


「そもそも告発しなかったんです。私たち、グッドマン家は子供たちの夢を壊したくなかった。それに尽きます。私の祖父なんて乳アレルギーなのに、子供が用意した牛乳を無理やり流し込んでましたよ(笑)。お恥ずかしながら私や私の先代たちにも、サンタクロースとしてのプライドがあるんです。しかし、このままではサンタクロースとしての役目を十分に果たすことができない。そして、サンタクロースという存在がいつかは消え去ってしまう。そう思い、告発することに決めたんです。」


ケインさんに、葛藤はなかったのか、と聞くと「葛藤しかなかったですよ(笑)」と笑顔で答えてくれた。きっとその笑顔の裏には先祖への申し訳なさや、子供たちの夢を壊してしまったという後悔があるはずだ。


最後に、サンタクロース=ケインからメッセージを頂いた。


「世界中の子供たち、この度は本当にすまない。きっとニュースで連日、ケイン・グッドマンとして私が紹介されていることだろう。君たちを失望させてしまったこと、心から謝りたい。本当にすまない。ただ、クリスマスプレゼントの心配は無用だ!君たちが寝てる間に、必ず、こっそりと届けてみせよう!(サンタの笑い声)」



〈追記〉2020 /2/13編集

サンタクロース=ケインこと、ケイン・グッドマンさんはこの記事の執筆から約4ヶ月後にお亡くなりになったと、内部告発がございました。心からご冥福をお祈りします。原因は、詳しくは分かっておりませんが、やはり過労死の可能性が高いと考えられます。


私としましては、ケインさんの勇気を無駄にせぬよう、より一層「サンタ過労死問題」を追求していく所存で御座います。


改めまして、ご遺族におかれましてはお悔やみ申し上げます。

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