第3便

 翌朝。


 バルコニーに、昨日の伝書鳩が、またいた。


 手紙が結び付けられている。


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 もったいぶってるのはあなたじゃないですか。わざわざ筆跡を隠すためにパソコンの「メモ帳」で書いて、印刷したものを伝書鳩に結び付けるなんて。テクノロジーの無駄遣いも甚だしいです。もっとも、裏面の直筆の署名と、ゼロとジュウのイラストを先に見てしまったので、あなたの目論見は外れましたよ。

 ……でも、おかげでわかりました。あなたらしいなって。


 悔しいけど、驚きました。貴方わたし以上に。


 私は、いるのですね。地球に。


 転移した人間は、もといた世界からいなくなるものだと思っていましたが、勘違いしていたようです。

 この世界では、私のように転移して来る人がときたまいるそうです、そこから元の世界に帰った人もいるようです。でも、転移した元では何が起こるか、帰って行った人がどうなったか、までは誰も知らなかったみたい。お姉ちゃんも。

 お姉ちゃん? とあなたは訝るでしょう。私は一人っ子です。もちろん、あなたも。

 この世界に来てから、家族のが増えました。私が最初この世界に迷い込んだ時、助けてくれた方、そしてその後ずっとお世話をしてくださった方がいました。その方を、私はいつの間にか「おじいちゃん」と呼んでいました。のちにその奥様を「おばあちゃん」と呼び……そして、私のことを精一杯サポートしてくれた仲間もたくさんいました。その中の一人が、

「私の事は今後『お姉ちゃん』と呼べ。異論は認めない」

 などと言ってきたのです。

 そもそも、今そこに手紙を持ってきている伝書鳩は、お姉ちゃんが飼っているのです。普段は町と町の間の伝令に使っているようですが、異世界に転移して手紙を運ぶ能力があるそうです。

 さきほど、家族のと書きましたが、それはあくまで。本当の家族ではない。ここに本当の家族はいないはず……それなのに……困ったことになりました。そんなわけで、お姉ちゃんは私に、地球の家族宛に手紙を書くよう命じたのです。

「私たちはお前のおかげで幸せになれたのだから、お前も幸せになるんだ。このまま放って帰すわけにはいかない」

 などと言いながら。

 ここまで書けば、私が今置かれている状況がわかるでしょう。

 

 紗愛

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 ぜんっぜんわからない。

 要するに、


* 自分は、異世界に転移した

* 異世界で長編小説が書けるくらい冒険した

* なんらかの事由で召喚されたのだろうが、あらかたミッションは達成した(第1便に「もうすぐ帰れそう」とか書いてあったし)

* 仲間がそれなりにできた

* 仲間から手紙を書けと言われた


それはいいのだが、肝心の「困ったこと」については言及がない。こうなったら……


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