第17話 勝負は正々堂々と

「……俺達、勝負してるんだよな?」

「ええ、そうよ」

「なら、どうして一緒に勉強するんだ?」


こういうのって、普段勉強しないやつでも知らないところで努力してて、『そんなにやったのか?!』と驚く流れじゃなかったのか?

これじゃ、隠れた努力も何も無いだろ。


「いいじゃない、そう酷いことをお願いするつもりもないし。一郎いちろうは私が困ってたら助けてくれるでしょ?」

「そりゃ、もちろん助けるけど……」

「なら、ここ分からないから教えてくれる?」

「……調子の良い奴だな」


まあ、確かに勝負はしていても敵ってわけじゃないからな。そもそも紅葉あかばの方が頭いいし。

こうなったら、逆に俺が助けられる側になってやるってのもありかもしれない。ウィン・ウィンの関係にしちゃえばいいんだよな。


「仕方ない、どこだ?」

「こことここ、それからここも」

「……多くないか?」

「ふふ、教えてくれるわよね?」

「あ、ああ……」


なんだか怪しい笑顔を浮かべる紅葉を横目に、問題へと目を落とす。

―――――――あれ?こんなのが分からないのか?


「紅葉、こんなの基本中のきほ……っておい……」


顔を上げてみれば、彼女はもっと難しい問題をスラスラと解いているではないか。おまけに、その問題の前半では今解いている問題と同じ公式を使っていた。


「……時間稼ぎにもならなかったわね」

「まさか俺の勉強の邪魔をしに来たのか?」

「ふふふ、一郎は優しいんだもの。付け入る隙だらけなのよ!」

「お前なぁ……そういうところは正々堂々としような?」

「勝負の世界は残酷なのよ!」

「よし、聞き分けの悪いやつにはお仕置だな」


俺がそう言って彼女にヘッドロックを決めようとすると、「ひぇぇ……お許しをぉぉぉ!」とじたばたと暴れ始める。

けれど、俺は手を緩めることなく締め続け、「ギブ!ギブギブ!」と息を切らし始めたところでようやく解放してやった。


「申し訳ありませんでした」

「次はないからな」


喧嘩した後は仲直り。痛くした分、紅葉の頭をよしよしと優しく撫でてやる。しばらく嬉しそうに頬を緩めていた彼女は、思い出したように表情を引き締めた。


「正々堂々と、よね」

「ああ、分からないところは教え合おうな」

「じゃあ、ここ教えてくれる?」

「いいぞ」


その後、俺たちは2時間ほど勉強した後、クリーニング屋に鼻血で汚れてしまっていた枕とカバーを取りに行った。

紅葉は申し訳なさそうに「私が払う」と言ってくれたけど、気分が悪い時に寝かせちゃったのは俺だからな。自分の小遣いから出しておいた。


帰宅後、紅葉のお母さんがママ友と食事会があるということで、彼女とお姉さんには俺の家で一緒に食べてもらうことに。

俺からの提案ではなく、母さんの要らぬお節介だけど。お姉さんも紅葉も料理できるらしいし、姉妹仲良く2人っきりでも良かったと思うんだけどな。


「あかばおねーちゃんだぁ!」

六花りっかちゃん、お久〜♪」


妹の六花は紅葉を見つけた瞬間に駆け寄り、2人は強く抱き締め合う。六花のやつ、俺には最近あまり甘えてくれないって言うのに……紅葉が羨ましいぜ。


「お姉さんにもぎゅーしてくれる?」

「あ、おねーちゃんはいいです」

「りっかちゃぁぁぁん!」


見捨てられるお姉さん、無慈悲にも紅葉にだけスリスリする紅葉。ああ、仲間がいてよかった。すごい親近感湧くなぁ。


「んふふ♪あかばおねーちゃんのおしり、やわらけぇ〜♪」

「あ、ちょ……六花ちゃん?!」


……ああ、そういうことか。

俺とお姉さんはお互いに頷き合うと、苦笑いを浮かべた。散々六花に触られた紅葉は、「太っちゃったかな……」と不安そうに呟く。


「みんな、カレーできたよ。座って座って!」

「「「「はーい」」」」


俺たちはそれぞれ席につく。が、六花は何やらお姉さんと目配せをすると、俺の隣の席を紅葉に譲った。


「え、そこは六花ちゃんの……」

「いいからいいから〜♪」

「そう?じゃあ、遠慮なく」


紅葉はそう言って席に座ったものの、食事の間ずっとそわそわしていた。そんなに俺の隣が嫌なのか、それとも単に落ち着きがないだけなのかは分からないが……。


「……ひぅっ?!」

「ご、ごめん……」


肘が当たる度に、体をビクッとさせるのだけはやめて欲しかったな……。

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