第40話 男爵令嬢スカーレット・バークスの悲鳴






 スカーレットと共に校門まで歩いて、馬車を待つ間、エリザベートは頭を悩ませた。

 エリオットもスカーレットも、互いに「自分は相手にふさわしくない」と思い込んでいる。この思い込みさえなんとかすれば、二人は上手くいくのではないかと感じるのだが、エリザベートでは良いアドバイスなどは出来そうにない。

 さりとて、アレンでも駄目だろう。自分の婚約者が恋愛の機微を理解しているとは思えないエリザベートである。婚約者である自分以外の女の子と遊んでいるような様子もなかったし、恋愛経験があるのかもわからない。ガイは脳筋だし、クラウスは些か四角四面すぎるきらいがある。皆、エリオットをポンコツと思っているが、エリオット以外の面々も「ポンコツより多少マシ」といった程度だ。


「あら……」


 うんうん悩むエリザベートの横で、スカーレットが何かに気づいて声を上げた。


「どうなさったの?」

「いえ、あの方、どうなさったのでしょうか。気分でもお悪いのかと」


 スカーレットの指す方に目をやれば、校門から少し離れた道端に男性がうずくまるように座り込んでいた。


「もし、どうかなさいましたか?」


 スカーレットが駆け寄って声をかける。エリザベートもスカーレットを追いかけた。


「気分がお悪いのでしたら、人を呼んで参ります。少々お待ちください」


 俯いたまま答えない男性に、スカーレットがそう告げた。

 だが、その時、物陰から走り出てきた数人の男達がスカーレットとエリザベートを取り囲んだ。


「きゃあっ」


 うずくまっていた男性が背後からスカーレットを押さえつけ、布で口を塞ぐ。何かの薬がしみこませてあったのか、スカーレットはくたりと力を失って崩折れた。


「おい、こっちの嬢ちゃんはどうする?」


 スカーレットを担いで停めてあった荷馬車に放り込みながら、男達が捕まえたエリザベートを乱暴に引きずる。


「一緒に連れて行け!見られちまったんだから仕方ねえ!」


 エリザベートは暴れて声を上げようとするが、スカーレットと同様に口を塞がれてしまい、意識が遠のいていった。


 二人の少女を積んだ荷馬車は、制止の声を振り切って石畳の道を走り去っていった。




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