第27話 とろけるカスタードプリン一個260円

 家に帰ると、妹にミケが取られていた。


「ただいまー」

「あ、お兄ちゃんおかえり、お母さんは夕飯の買出しだって」


 妹の手の中にいるミケは随分ぐったりしていて、随分長い間もみくちゃにされていたであろうことがわかる。


「ご、御主人……たすけ……」

「あー、妹よ、ミケを放してやってくれないか?」


 本当に辛そうだったので、俺は妹に勘弁してあげるように伝える。


「えーだっていつもお兄ちゃんが構っててズルいじゃん。たまには私が可愛がらせてよ」


 それは俺がトイレの世話もブラッシングも爪切りもやってるからだ。


 ……と、言いたいところだが、俺は家族内では地位が低い。そんな事を言っても妹は納得しないだろう。


「そっか……しょうがないな」

「にゃ……御主人……」


 ミケの絶望的な視線を見ないようにして、俺は鞄から高めのプリンを取り出す。帰りのコンビニで買ってきたものだ。


「あー! お兄ちゃんおいしそうな奴買ってる!!」

「まあ待て、これは俺が俺のお小遣いで買ってきたもので――」

「ミケあげるからそれちょうだい!」


 悲しい事に俺の目論見通り、妹はミケを放り出してプリンに食いついた。わがまま暴君は自由過ぎて困る。


「しょうがないなぁ……」


 そう言って妹にプリンを渡し、ぐったりしているミケに歩み寄る。


「ミケ、大丈夫?」

「御主人……信じてたにゃ……」


 仲間との死に別れシーンみたいな調子で反応を返すミケを抱き上げて、俺はソファに腰掛けた。


「とりあえず、無事でよかったよ」

「でも、御主人のお菓子取られちゃったけどいいのにゃ?」

「まあ買ってすぐ食べられるのは想定外だったけど、勝手に食べられて終わるよりはマシかなって」


 お菓子やデザートは食べられるときに食べなければ、この家では生き残れない。そういう弱肉強食の世界なのだ。

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