第19話 苦手な人間相手だと、余計に舌が回らない。

「師匠、風邪か?」

「うん……昨日こたつで寝ちゃって」


 昨日から続く悪寒と頭痛は、喉の痛みもプラスされて完全に風邪へと昇華されていた。ちなみになんで学校来ているのかって言うと、体温自体は平熱だからだ。


「幸い、身体は丈夫だから風邪薬飲んでおけば治ると思う」

「今日は寄り道しないほうが良いな」


 寄り道……そうだなあ、帰りに会ったらクロスケには話しておこう。


 そう思いつつマスク越しに咳をすると、天ヶ崎さんと目が合った。先日の事もあり、俺は焦って目を逸らす。しかしそれはもう遅かったようで、彼女が視界の端でずんずんと近づいてくるのが見える。


「あれ、友紀。なんでこんな陰キャ君と話してんの?」


 また何か酷い事を言われるのでは、と身構えていると、天ヶ崎さんは俺ではなく、篠崎さんと話し始めた。


「かなみ……ああ、この間話していた『猫師匠』だ」

「へぇー、こいつがねぇ」

「……」


 俺は視線を下に向ける。


 そして、シングルタスクでお世辞にも高性能とは言えない俺の脳は、天ヶ崎さんのある言葉を思い出していた。


――『猫をダシに寄ってくる奴は嫌い』


 ヤバい。

 俺の頭の中で、猫大好きな篠田さんをたぶらかした存在として、俺が認識されているような気がする。


「あ、あああ、あの、どどどっ、どうも……」

「あはっ、めっちゃどもってんじゃん。ウケる」


 舌と声帯がめちゃくちゃな動きをしてるのを感じつつ挨拶すると、天ヶ崎さんは苦笑いをした。


「じゃ、今度あーしにもネコちゃん手名付ける方法教えてよ」


 そして、続いて想像していなかった言葉が俺に掛けられる。


「え、その、あの……」


 俺は答えることができなかった。

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