頭を打ったショックで猫の言葉が分かるようになった件について

奥州寛

第1話 その日はもういっぱいいっぱいだったので、とりあえず寝ることにした。

「あ゛あ゛あ゛~~、ご主人のトントンは最高にゃあ~~」

「……」


 どうしよう。


 確かに、今日は色々とショックなことはあった。


 野球の硬球が側頭部にヒットしたし。

 ドブ川に落ちたし。

 風呂入ってたら妹がいきなりドア開けて、あっちが悪いのに変態呼ばわりされたし。


「頭が馬鹿になりゅのにゃあ~~」

「ミケ、お前いつもそんな事を言いながらトントンされてたのか」


「にゃっ!? ご主人が猫の言葉を!? ……あっ、あっ、あっ、びっくりしたけど、トントンの魔力には敵わないにゃあ~……」


 ……野球のボールかなあ。野球部の人も言ってたけど、早めに頭を見てもらおう。

 そう思って俺はミケから手を放す。


「ふう、今日もご主人はテクニシャンだにゃあ」

「そりゃどうも」


 俺はミケに適当な言葉を掛けて布団にもぐりこむ。


 色々考えるのは明日にしたかったし、今日はあまりにも最悪だった。もう起きていても碌なことが無いと思ったのだ。


「ご主人、今日は一緒に布団に入っても?」

「……ん」


 いつもは勝手に潜り込んで大部分を占拠する癖に、今日は妙に律儀だった。


「にゃっ!? ……言葉が通じるって、いい事ですにゃあ」


 そう言って、ミケは俺の布団に入り込んでくる。


 ああ、なるほど、毎回言ってたけど言葉通じてなかったんだな、じゃあ俺の言葉も通じるかな。


「入るのは良いけど、布団のど真ん中に陣取るのはやめてくれ」

「了解ですにゃ、んふふ~ご主人の匂いと温もりにゃあ……」


 幸せそうなミケの声を聞きつつ、俺は現状にツッコむ事も無く眠りに落ちていった。

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