撃退
【適性】と【特性】を選択したその時――
「……ル……丈夫……」
聞き親しんだ少女の声が俺の耳に届いた。
――!
「ハル……! ハル……! 大丈夫?」
目の前の少女――アキは、不安げな表情を浮かべて、俺の名前を何度も呼んでいた。
「……ア、アキ?」
「うんうん。私だよ。アキだよ? ハル、大丈夫?」
「何が起きた?」
「え? えっと……ハルが私を助けてくれたと思ったら、急に虚ろな目をして……反応がなくなったんだよ!」
「虚ろな目……? 俺はここにいたのか?」
「――? ん? ハルはここにいたよ?」
俺はここにいたのか? 我ながらバカな質問だ。アキは俺のバカな質問に首を傾げるが、優しい口調で答えてくれた。
先程の出来事は……幻覚?
いや、あり得ない。
俺は確かに『理の外』と呼ばれる謎の空間に呼び出されていた。
そして――【適性】と【特性】を授かった。
俺はフラフラっと先程トドメを刺したゴブリンの亡骸へと近付く。
「ハル? ど、どうしたの? 大丈夫?」
いきなりゴブリンの亡骸に手を伸ばす俺に、アキが不安げな声を漏らす。
「アキ、俺が虚ろな目をしていたのは……どのくらいの時間だった?」
「え? ほんの少しだよ?」
「ほんの少し?」
「うん。3秒くらいかな?」
3秒……? あの空間は時間流れが異なっていたのだろうか?
俺はゴブリンの亡骸の側に落ちていた薄汚れた短剣を拾い上げ、手の中の短剣に意識を集中させる。
『ゴブリンの短剣 ランクH』
――!
頭の中に手にした短剣の情報が流れてきた。
これが【鑑定の才】……?
「ハル? どうしたの?」
ゴブリンの短剣を静かに眺める俺にアキが声を掛けてくる。
鑑定結果は頭の中に勝手に流れてくる。傍から見れば、俺は手にした短剣を眺めているだけのようだ。
これでは、俺が【鑑定の才】を授かった証明にはならない。
目の前に起きたあり得ない非現実に、精神が壊れて幻覚を見ている可能性も否定は出来ない。
俺は体の中に流れる魔力を意識する。そして、燃え盛る炎をイメージして、手にした短剣へと伝播させる。
「――《エンチャントファイア》!」
小さな声で魔法の名前を呟くと、手にしたゴブリンの短剣は燃え盛る炎によりコーティングされた。
「アキ……この炎は見えるか?」
「う、うん……何が起きたの……」
アキからすれば、俺の手にしていた短剣が突然燃えたように映ったのだろう。
俺たちは魔法なんて知らない。魔力と言う概念が登場するのは創作されたゲームか物語の中だけだ。
しかし、今の俺は魔力を理解していた。
何故? と言われると、答えに困るが……本能が魔力を……そして、魔法を理解していた。
ともあれ、アキにも見えると言うことは……先程の出来事は幻覚でなく、現実だと確定した。
知らない森の中で、襲い掛かる異形の生物。そして、極めつけは実現した魔法。
ここまで非現実が重なると……異世界転移の可能性が真実味を帯びてくる。
「熱くないの……?」
「熱くは……ないな」
俺は短剣にコーティングされていた炎を解除。
「……ギィ!?」
周囲を見回せば必死にゴブリンへと抗いながら、数の利を活かしたクラスメイトたちが1匹……また1匹とゴブリンを葬っている。
残されたゴブリンは1匹。
「みんな、下がれ……! うぉぉぉおお! ――《ホーリースラッシュ》!」
ゴブリンの短剣を手にしたナツが淡く輝く刀身でゴブリンを斬り捨てた。
これで差し迫った脅威は全て排除された。
ナツは文武両道、容姿端麗と、完璧超人を地で行く存在だが……あくまで一般的な高校生。刀身を輝かせることも、一太刀でゴブリンを倒す技量も持ち合わせてはいないはず。
つまり、ナツは俺と同じ――素質を覚醒せし者ということになる。
素質を覚醒せし者とは……俺の推測ではゴブリンを倒した者。
現れたゴブリンは5匹。ナツは最後のゴブリンを倒した時には既に【適性】と【特性】を有していたから……素質を覚醒せし者は、俺とナツを除いて2人いることになる。
素質を覚醒せし者――覚醒者の1人は見当がついている。
「うぉぉぉおお! 敵は! 敵はもういないのか!」
やたらと興奮している相澤だろう。
もう1人は誰だ……?
周囲を見回して、もう1人の覚醒者を探していると、
「ハル、少しいいか?」
完璧超人――ナツが俺に声を掛けて来たのであった。
―――――――――――――――――――――――
(あとがき)
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今後の更新予定は12/27(日)まで毎日2話更新。
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