第30話 初めての大隊探検


土曜日、地下3層の転移先付近にたむろしていたモンスターを討伐する日となった。

討伐隊としては、剣士として理事長の神林、剣士代表の蜷川に加えて、蜷川隊の羽田に、リンとターニャが加わった。また術士としては、術士代表の寺本、蜷川隊の幡ヶ谷に加えて、筑紫とリエル、さらに筑紫の同級生の宗谷が参加することになった。

リンとリエルとターニャ、さらに筑紫と宗谷が選ばれたのは、これまで地下2層で転移先を発見しており、何かしらその経験が活かされるのではないかという神林の直感によるものだった。

筑紫は「ただのゲン担ぎでしょ」と切り伏せていたが、リン達としては報酬も出るし、深くまで探検が出来るようになるため、むしろこちらからお願いしたいくらいだった。

また宗谷に関しては、今回は剣士5人、術士5人の大隊にするために、術士にカウントされているが、薙刀の腕が立つため、いざという時には剣士としても活躍してもらおう、という便利枠としての参加であった。


道中は特段問題無く進行していた。

大隊になってしまうと、どうしても道幅が狭いところ等で前後に広がってしまい、安全確保がなかなか難しく、また探検速度が遅くなってしまうために、普段は3〜4人の小隊で探検されることが多い。

しかし今回の大隊メンバーは最低限自分の身は自分で守れるために、サクサクと地下1層を進むことが出来た。

そして地下1層終着点である『群青の祭壇』の『リエルの小部屋』から魔法陣を使用して『宗谷温室』へと抜ける最短ルートを使用した。この転移術による地下2層の大幅ショートカットも、転移術が確実に使用できる補助術士がいなければ不可能なことであるが、今回の大隊の補助術士では宗谷以外は全員が可能であるため、適宜チーム分けをした上で、次々と転移をすることが出来た。

そうして、地下3層の入口に至る『生命の神殿』に約1時間半かけて到着した。


「ここまでは順調だな!」

『神殿』の床を下降させつつ、神林が言った。

普段は3〜4人で『神殿』の床に乗っているため、10人の今回は非常に狭く感じる。

「本番はここからですね……」

寺本は顔をやや強張らせつつ言った。寺本は奥薗の件以来の初めての地下3層であった。これまでの『寺本屋』や魔法陣の各種転移実験により、寺本の心情としては、地下1層と2層についてはかなりトラウマを克服しつつあった。

しかし地下3層については、より直接的に奥薗の死と結びついてしまうために、どうしても心情的に足が遠のいており、今回のモンスター討伐が久しぶりの地下3層であった。


「それじゃ幡ヶ谷と筑紫は案内をしてくれ」

「はーい」「はい」

と言うと、幡ヶ谷と筑紫は大隊の先頭に立って、前回通った道を進んで行った。


 ***


前回、モンスターが大量にいるのを見つけた地点までやってきた。

「どうだ、いるか?」と神林が寺本に尋ねた。

「いますねぇ、うじゃうじゃ。これは本当に凄い。今日は50匹以上いるんじゃない?」

「この辺で開けた場所はあるか? できればそこまで分けて誘導して、少しずつ倒していきたいな」

「そうねぇ、あー、ありそうね。それじゃそこまで幻惑術イリュージョンで誘導するので、剣士の皆さんは、こっちの道の先で待っててください。誘導したら、術士の皆さんは1人ずつ剣士をフォローしましょう。そうですねぇ、組み合わせ的にはこんな感じかしら」

そう言って、寺本がテキパキと剣士と術士の二人組を作り出した。


神林と寺本

蜷川と幡ヶ谷

羽田と宗谷

リンとリエル

ターニャと筑紫


羽田と宗谷はほぼ初対面だったが、寺本は「その他のペアは慣れている人をくっつけた」とのことだったので、特段異論は無かった。

また宗谷は補助をしつつ、長いリーチで羽田をフォローすることも出来るため、特に羽田が困ると言うこともないと考えられた。

そうして準備を整えたところで、その場に5人の術士が残り、剣士5人は一旦少し離れた開けた場所へと移動した。


「それじゃ、せーの、で手前のゴブリンの群れをまずはまとめて誘導するわよ。いいわね」

術士代表として寺本が他の術士に指示を出す。

寺本、幡ヶ谷、リエル、筑紫は杖を胸の前に当てつつ、宗谷は薙刀を左手で地面に突き刺しつつ、右手でネックレス型のエーテル鉱石を握りつつ、準備をした。

「せーの!」

幻惑術イリュージョン

5人分の声とエーテル操作が重なった。


するとゴブリンの一群が一斉に操られるように移動をし始めた。

それをエーテルの動きで感知すると、術士5人は一斉に、剣士達の元へと移動した。

しばらくそこで10人が待っていると、ゴブリンの一群がわらわらとやってきた。

「1、2、3……15匹もいるじゃねぇか。流石にこんだけの数を1人で相手するのは無理だけど、これだけ剣士がいれば大丈夫だろ」

神林はそう呟き、寺本を見た。

「ええ、大丈夫でしょう、きっと」

寺本は答えつつ、神林の方に向かってきたゴブリン2体に向かって麻痺術パラライズをかけた。麻痺により動きが止まる一瞬を見逃す神林ではなく、流れるように淡く光る厚い剣を振りまわし、2体のコアを綺麗に破壊して行った。


「来たな……」と蜷川。

「やばいっすねー、めっちゃ多いっすね」と幡ヶ谷は呑気な声を出す。

「3体だな。いつも通りにやるぞ」

「それは、何もせずに見ていれば良いってことですか?」

「おい……」

「冗談ですよ……。エアロカッター」

そう幡ヶ谷は言うと、ゴブリンの足を的確に打ち抜いていった。

そこを蜷川は居合のごとく、素早く直線的な動きで3体のコアを一気に破壊していった。


羽田と宗谷はほとんど初対面だったので、まずは挨拶をしていた。

「あ、どうも……」

「宜しくお願いします……」

「その薙刀、格好良いですね……」

「あ、ありがとうございます……」

宗谷は筑紫に対しては口が悪いが、初対面の相手には緊張して人見知りをしてしまうのであった。一方の羽田もあまり口数が多い方ではないので、会話は全く広がらなかった。

「えーっと、どうしましょ? 剣士でもあるんですよね……」

「ええ……、適当にディレイをかけましょうか」

そんなことを言っている間に3体のゴブリンが左右から分かれてやってきた。

「あ……、お願いします……」

「あでも、左右から来ちゃったので、左の2体だけにかけます。右は私が倒します」

全く会話が弾まないまま、役割分担まで終えてしまった。

「いきます。遅延術ディレイ!」

そして、ゴブリンが水の中で動くようにゆっくりしたところで、羽田が上段構えから返す刀で2体を連続して倒した。

一方の宗谷は、遅延術ディレイをかけた後で、薙刀を半身で構えて、全力で突っ込んできたゴブリンを一刀両断した。

その様子を見た羽田は「やりますねぇ……」と呟いた。


リンとリエルはいつもの探検と同じ状況だったため、肩の力を抜いてゴブリンを待ち構えていた。

「みんな凄いね!」

「ですねぇ……。まぁ、リエルも負けていないと思いますよ」

「ありがと、リエル! リエルも凄いと思うけどね!」

2人でお互いに見合って、にこりと笑った。

そうしていると、ゴブリンが4体やってきた。

「うわぁ、一番多い……」

「リンなら大丈夫だよ。行くよ! 遅延術ディレイ! エアロカッター!」

すると一気に4体のゴブリンがボロボロに切り刻まれていった。そうして、エーテルの刃が終わった瞬間にリンの日本刀がゴブリンの体をするりと通り抜けていき、コアを次々と破壊していった。


「ほら、やってきたよ」

筑紫は気心の知れた仲だからか、少しだけぞんざいにターニャに言った。

「3体だけなのネ。もっと私のスキルを見せびらかしたかったノニ」

「何それ……。わかった、それじゃ、私は何もしないで、ありのままのターニャの実力を見せつけた方が良かったりする?」

「ワオ、それは良いアイディア! それじゃマリコ様はそこでボーっと見ててネ!」

ターニャがそう言うと、おもむろに駆け出そうとした。

「……、オッケー。それじゃそうしよう」

と筑紫は言うと、なぜか杖を胸の前に構えて「火炎術フレイム!」と叫んだ。

筑紫は最大火力の火炎術フレイムをゴブリンに向かって放つと、何故かニヤリと自慢気にターニャの方向を見た。

「マリコ様! 何してんノ! 私が倒すって言ったじゃない!!」

ターニャは駆け出せずに、少しだけ怒った。

ジタバタともがき苦しんでいた様子のゴブリンであったが、しばらくするとゴブリンのコアが火力によって無理やり破壊されたのか、3体とも灰のように消滅していった。


こうして無事にゴブリンを15体倒せたのを確認すると、再び補助術士5人が、モンスターのたむろする通路に近づき、新しいモンスターを呼び寄せて、10人で分担して倒していった。

この作業を何度か繰り返すと、ようやく50体以上いたモンスターを全て倒せ、索敵術ソナーにモンスターが引っ掛からなくなった。

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