第8話 初めての大洞窟探検②

宇賀神社の境内。


初めての探検へと行くリンは、緊張しながら、ペアになる先輩探検家の発表を聞いていた。

――たちあな・るいせんこ……さん? 外国の人……?

とリンが思っていると、唐突に背後からテンション高く声をかけられた。


「ハ〜イ! ハゴロモリンちゃん! タチアナ・ルイセンコでス。ウクライナ人デス。宜しくお願いしマス!」

「よ……、宜しくお願いします……、タチアナ……さん」

「ターニャって呼んでネ!」

ターニャは金髪碧眼で、すらっと身長が高く、『出る』ところが出ている大人の女性だった。

街中を歩くだけで目を惹くタイプで、きっとこれまで色んな男性からナンパされてきたと思われた。


「あら、ブロンド・バーサーカーと同じチームなんですね。羽衣さん、この人、こんなんですけど、

腕は立つから色々教えてもらってね」

「ブ……、ブロンド・バーサーカー……?」

と、先輩術士で先週の術士適性検査を受け持っていた寺本と、見習い術士の星名が近づいてきた。

どうやらこの2人とリン、ターニャが同じチームらしい。


「そうなの、このターニャ、剣を握ると人格が変わって、バッサバッサとモンスターを切りまくるから、そこから付いたあだ名がブロンド・バーサーカー。格好良いよね」と寺本。

「チョットチョット、変なことをリンちゃんに吹き込まないでヨ!」とターニャ。

「えーでもめっちゃ格好良いあだ名じゃないですか」とリン。

「凄いですね〜」と星名。


「まぁでも本当にターニャの剣の扱い方は鮮やかだから、よく見て勉強しておいた方がいいわよ」

「わかりました。今日は宜しくお願いします、ターニャさん」

とリンは言った。

「宜しくね、リンちゃん! 手取り足取り色んなところを取りつつ、教えてあげるネ!」

――めちゃくちゃ日本語上手じゃん……。

とリンは思った。


 ***


地下1層、入口付近、リエルのチームとは別の場所。


寺本が星名に対して索敵術ソナーを教えつつ、洞窟を奥へと進んでいた。

星名は杖を胸の前に掲げつつ、慣れない感覚に戸惑いながらも、索敵を続けているようだった。

寺本曰く、結構筋は良い、とのことだったが、星名の額が汗ばんでいる様子から、初めてだとかなり大変な術であると想像された。

「うう〜魔法使いになるのも楽じゃないのね〜」という星名のお気楽な呟きも、どこか疲労感が滲み出ていた。


一方のリンは、初めて憧れの大洞窟に入れたことに感激していた。

色々な探検家の話に聞いていたが、実際の光景を目の前にすると、感慨深いものがあった。

黒くてゴツゴツした洞窟の岩肌、想像よりも高い天井、所々ぬめっとする床、たまに見かける苔やカビやキノコ類、大きな通路だけでなく小さな通路や穴が無数に開いた洞窟内は、どれもリンの好奇心を満たすのに十分すぎるほど魅力的だった。

リンはキョロキョロとヘッドライトを左右に振りながら、薄暗い洞窟内を観察していった。


洞窟を奥へ進んでいくと、唐突に寺本が緊張感のある声を出した。

「前にゴブリンが2体います。ターニャ、リンちゃんに剣士の手ほどきをしてあげて」

「オッケー、任せて!」とターニャが軽く請け負った。


「剣士はね、チョー簡単だから大丈夫。構えて、エーテルを空気から剣に流して、コアを切る。終わり。ね、簡単でしょ?」

――いやいや……そんな……。

とリンは思ったが、リンが何も言わないうちに、ターニャは前へと駆け出してしまっていた。


ターニャは剣を鞘から抜くと、日本刀が急に淡い光を放ちはじめた。

地下1層入口付近にかろうじて設置されている通路灯と、リンたちのヘッドライトのみの薄暗い洞窟内で、綺麗な青い光がターニャの動く軌跡を示していた。

そうしてターニャはゴブリン2体の間を駆け抜けると、日本刀の青い光も目にも止まらぬ速さでゴブリンの体を通過して、そのままゴブリンの体が一刀両断されていた。

すると、唐突にゴブリンの体が急激に縮こまり、シワシワと丸くなっていき、2つの輝く石となった。

その場には、ゴブリンの血しぶきを浴びたターニャだけが格好良く立っていた。


「ターニャさん、本当にすごいです!」

「いつ見ても鮮やかね、ブロンド・バーサーカー」

「うるさいヨ、寺本さん。でもま、こんな感じネ。コツはモンスターにはコアがあって、それを破壊すると、こんな感じで肉体ごと消滅してエーテル鉱石になるから、サクッとコアを破壊して、サクッと倒せばダイジョウブ。あとはこの鉱石を持って帰れば管理組合に一括で買い取ってもらって、お金イッパイ。もし肉とか皮が欲しければコアを破壊する前に剥ぎ取ればオーケー。じゃ、リンちゃんも次にモンスターが出てきたらやってみよっか」


しばらく洞窟内を進む途中、リンはふと浮かんだ疑問をターニャと寺本にぶつけてみた。

「そういえば、どうして拳銃じゃなくて剣を洞窟内では使うんですか? 遠距離でピンポイントの攻撃ができるから、安全にコアを破壊できて良さそうに思えるんですけど……」


ターニャは「日本刀の方がロマンですヨ!」とのことだったが、寺本が真面目に答えてくれた。

「まぁ色々と理由はあるわね。法律上の規制とか、意外とピンポイントすぎてコアを狙うのは難しいとか。でも最大の理由は洞窟内の壁に弾丸が跳ねちゃって、とても危ないのよね。跳弾って言うんだけど。最初自衛隊さんがこの洞窟のモンスターを鎮圧したときに、色々な武器が試されたらしいんだけど、結局のところ剣が一番って結論になったらしいわ」


そんなことを話しながら進んでいくと、今度は星名が緊張感のある声を出した。

「前方に何かいます〜、何かはちょっとわからないんですが〜」

「星名さん、いいですね。あとはこんな感じで慣れていけば大丈夫です。あれはスライムですね。これは初めてのリンちゃんにピッタリかも」

当然既に気づいていた寺本が、星名の筋の良さを褒めた。

「確かに、スライムは動きが遅いし、体が透明でコアが見えるからそこを切ればダイジョウブ。それじゃ頑張ってネ」

「わかりました、頑張ります!」


そう言うと、リンは鞘から剣を抜き、いつもの剣道で行うように剣を前に構えた。

そうして、エーテルが外気から腕を通って剣に流れるイメージをした。

すると剣が淡く青白く発光した。


息を軽く「ふっ」と吐き出して、一気にスライムへと近寄り、透明な体の内部に見える白い塊を目掛けて一気に剣を振り切った。

すると、スライムの体が2つに分裂し、徐々にシワシワになっていき、小さな輝くエーテル鉱石のみがその場に残されていた。


「オミゴト! リンちゃん!」

「ありがとうございます! ターニャさん!」

「私の教え方が良かったのネ」

――いやそんなことは……、とリンは一瞬思ったが、

「そんなことは無いぞ」

と寺本の鋭いツッコミが入った。


「まぁこんな感じダナ。色んなモンスターのコアの位置はあとで管理棟でダウンロードして覚えておくと良いヨ」

「あと、初めてのモンスターともし遭遇してしまった場合は、私たち補助術士にエーテル走査をしてもらって、位置を教えてもらうと良いわよ」


 ***


こうしてリンとリエルの初めての大洞窟探検は無事に終えることができた。

洞窟を探検している間はそうでもなかったが、地上に出ると、エーテルの慣れない感覚で肉体よりも頭が疲労しているのを感じられた。

「疲れたねー、リエル」

「本当に疲れました……先輩術士が次々と術を教えてくださるから、なかなか覚えきれなくて……」


基本的な補助術から教えていくと、リエルはどれも全て一発でできてしまったため、最終的に筑紫は、攻撃術も含めてほとんどの知っている術をリエルに教え込んでしまった。

そうして、最終的に筑紫から「あなたは私みたいに、補助術・攻撃術のどちらも使える総合術士になった方が良い」というアドバイスを得ていた。

補助術と攻撃術の区切りは人為的なものなのだから、どちらかに限定する必要は全くなく、一度に扱えるエーテルの量が飛び抜けているから、どんどん術に関するテクニックを磨いた方が良いとの筑紫の判断だった。


「でもこれで、洞窟に潜れるようになったんだよね、私たち!」

「そうですねぇ……、本当に感動です。頑張って元の世界に戻るために大洞窟をたくさん探検しましょう、リン」

「それじゃ早速、来週のどこかで2人で探検してみようよ!」

「そうしましょう!」

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