転生したら小魚だったけど龍になれるらしいので頑張りますショートストーリー

真打

1.狩りと処理【第一巻発売記念SS】


 檻の中で目が覚めた。


 あ、そう言えば俺今捕まってるんだったわ……。

 いやー忘れるよね。

 覚えられるわけがない。


 今いるのは沢山の動物が捕らえられている馬車の中。

 外の様子は見えない作りになっているので、今どんなところにいるのかとかもあまりよく分かりません。

 操り霞で外の様子を見ることはできるけど、やっぱり目で見て楽しみたい……。


 どうやら今、馬車は止まっている様だ。

 今どの辺りにいるのかなと思って操り霞を使用するのだが、その前に隣の檻が目に入った。

 そこにはぼろきれの様な服を着せられた少女が眠っている。

 アレナだ。


 まぁ、外の様子が分からないんだから、時間の間隔も少しはずれるよなぁ。

 この中は真っ暗とまでとはいかないが、それでも結構薄暗い。

 雨漏りしないようにしっかり作られているんだろう。


 しっかしまぁ暇なんですわ。

 アレナが起きている時は、彼女に付き合うのでそこまで暇じゃないけど。

 俺は人より睡眠が必要ないみたいだし、どうしても起きている時間の方が長い。

 そしてこの暇な空間。

 動物の一匹でも何か動きを見せたらいいのだけど、薬で大人しくさせられているためとても静かだ。


 くぅ……。

 この中にいる動物全部食ったらすぐに外に出れるんだろうけどなぁ。

 てか何この檻マジで硬い。

 鉄ってこんなに硬いんですね。

 ていうかマジで暇ぁああああ!

 やることなぁああい!

 技能の整理も大体終わってるし、これ以上手を加えたくないっ!


 あ、そうだ。

 もう一階操り霞で外の様子を見てみよう。

 それしか俺に残された暇つぶし手段はない。


 そう思い、俺は操り霞を馬車の外で展開してみる。

 シルエットで背景が頭の中に飛び込んでくるので、中々把握しづらかったが、何とかその周辺を確認することが出来た。

 どうやら今は湖の前で止まっているらしい。

 周囲には木々がぽつぽつとあり、少し奥に行くとそこからは完全に深い森に入る。

 オアシス……のような場所なのだろうか。

 動物も多くいるようだ。


 そこで俺は、この馬車の御者であろう奴隷商を発見した。

 各々が手に武器を持って、獲物を狩ろうとしているようだ。

 ここからでは声が聞こえないので、一体何を話し合っているのかはわからないが、どうやら一頭の大きな鹿の様な動物を狙おうとしているらしい。


 おいおいおい……。

 明らかに弱そうな装備しかしてなかったじゃないか君たち。

 そんなでかい敵に立ち向かって大丈夫か?

 君たちの身長の二倍あるじゃないか。


 いやでけぇなあ!?

 何だよその鹿本当に鹿かよ!!

 まぁ確かにそれだけでっかい鹿を狩ることができれば、今馬車に乗っけている奴隷たちを養う事は余裕だろうけどさ?

 にしてもちょっとでかすぎだろ!

 俺からしてみればスカイ〇リーが歩いているようなもんだぞ!


 ていうか早まるなお前ら!

 お前らが死んだらどうするつもりなんだこら!

 ただでさえ捕まえている奴隷に良い食べ物やってないだろ!

 お前らがここで死んだら餓死一直線じゃねぇか!

 マズいマズいマズいぞ!!

 な、なんかできることないか!?

 いや、泥人が使えるかもしれないけど、あそこまででかくするのには、結構MP使用するんじゃないか……?

 そもそも俺が出て行ってどうするんだよ。

 何が出来るってんだい!

 あ、多連水槍とかで援護できるくね?

 そうだそうしよう!


「ブォオオオオオオ!!」


 ああん!? 今の鹿の声か!?

 おいちょっと待て、もう始めやがったのかよ!

 ちったあ待ちなさいよ!


 俺は急いで操り霞に意識を戻して状況を確認する。

 すると……鹿が倒れていた。


 んぇ?

 状況をよく確認してみると、鹿の足が一本無くなっていたのだ。

 一体どういうことだと思い、今度は狩りをしている奴隷商に意識を集中させる。

 すると、一人が何かを鹿に向かって発射していた。

 それは非常に小さなものなので、命中精度はあまり高くないようだったが、それでも木に当たると、幹の皮が一気に捲れて鋭い傷跡を残す。


 一瞬で何かの技能だと直感したが、シルエットでしか見えていないのでどういう技能かが分からなかった。

 鹿が倒れたことを確認した奴隷商たちは、すぐに駆けて行って各々が持っていた武器を振りかぶる。

 基本的には馬車の中で見つけた物を持っているようだ。

 それを鹿に向けて振り下ろす。

 巨大で暴れまわる鹿によく武器を当てることができるなと感心していると、鹿が動かなくなった。

 どうやら死んだらしい。


 な、なんですかなんですか。

 結構強いじゃないですか君たち……。

 俺の出る出番なかったなぁ……。

 まぁないならないでいいんだろうけどさ。


 いやぁーでもすごかったなぁ……。

 自分よりでかい獲物とか絶対怖いはずなのに、よくもまぁ立ち向かうことができる物だ。

 俺無理かも……。

 だって基本的に俺よりでかい生物しかいないし……。

 蛇ですよ蛇!

 人間だって東京〇ワーですよ全くもう!


 ま、無事でよかった。

 死なれるといろいろ困るからな……。

 お?


 すると、奴隷商たちは獲物を解体し始めた。

 まずは頭を落として湖にどぼーん。


 っておおおおおおおおい!!!!

 おっま待て待てこらああああ!!

 内臓!!

 内臓取り出してから湖に入れろ馬鹿ああああ!!

 ていうか放血のやり方ざっつ!!

 確かに頭落とした方がいいかもしれないけど美しくない!!

 いや良くない!!


 おーい……マジかぁ……。

 放血、洗浄、内臓摘出してから水に漬けろよ……。

 ええ……俺たちこんな肉食わせられてたのぉ……?

 いや俺、味とかほとんど分かんねぇからさぁ……。

 臭みとかよく分かんないし、硬さに関しては全く分からないんだよな。

 全部剛牙顎で解決できるし。


 でも味覚がしっかりある人たちには、これキッツいだろ……。

 絶対臭いよ。

 あのーすいません奴隷商さん。

 それどのくらい水に漬けておく気なんですか……?

 ああ、足にロープを括り付けて?

 うんうんそれを木に縛って?

 それから次はどうするって待て待て、帰るな帰るな帰ってくんな馬鹿。

 おうお前ら何肩叩きあってんねん。

 やったなーじゃねぇぞ貴様ら。

 後始末しっかりしなさいよ後始末!

 狩るだけが狩りじゃないんだぞーーーー!!


 ああ、駄目ですね。

 お帰りなさい奴隷商さん、失格です。

 うわぁ……まじかぁ……。

 どうしよ。

 こんなん見てしまったら流石に食べる気失せるぞ……。


 …………やりますか?

 俺がちょっとやってみますかぁ?

 行けるかなぁ……。

 多分大丈夫だよな?

 泥人使えばそれっぽくできるだろうけど……。

 あ、でも水流剣切れ味悪いんだよなぁー。

 多連水槍もあんまり良くなさそうだけど、連水糸槍であれば斬れるかな?


 言ってても始まらないからちょっとやってみましょうか!

 MPが心配だけど、まぁ何とかなるっしょ!

 よーし、まずは泥人で視界共有!


 うん、やっぱり操り霞の方が使用MPは少ないなぁ。

 ま、今回はしっかりと色を見ないと作業できないだろうし、これで何とかやりくりしてみよう!

 えーと今のMPは……。


===============

 LⅤ:15/45 HP:180/180 MP:151/202

===============


 んー操り霞と泥人で結構使っちまってんなぁ。

 まぁ何とかなるっしょ。


 という訳で、俺は作った泥人を操って獲物の場所へと向かう。

 もう既に手遅れな感じがするけど、やらないよりましだろう。

 スルスル~と、先ほど奴隷商が狩った獲物の所に来ることができたのだが、そこで壁にぶち当たる。


 まって、どうやってこいつ陸に上げようか……。

 流石に俺にこんなデカい獲物を持ち上げるだけの力はない。

 まず質量が違いすぎるのだ。

 だが、解決方法はあった。


 無限水操は全ての水を操ることができる技能だ。

 MPを注ぎ込んで水を操り……それで獲物を押し出すようにこちらに押し出す!

 動いた水にもMPを注ぎこんで無限水操の支配下に置き、できるだけ水の音を立てないように気を付ける。

 ここであいつらが戻ってきたら洒落にならん。

 できるだけ静かに事を済ませなければならない。

 とりあえず獲物を陸に上げることは成功した。


 さて、問題はここからだ。

 既に血抜きはできていると考えてもいいだろう。

 となれば、後は内臓の処理だ。

 だが……俺の持っている技能では切れ味はまだ悪い!

 唯一の希望である連水糸槍を使って、何とか切れないかを試みる。

 連水糸槍は刃より糸の方が切れるのだが……無理じゃねこれ。

 どうやって切るのよ……。

 んー、どうやって切ればいいか考えろー?

 …………。

 あ、そうだそうだ! これならできるんじゃね!?


 無限水操で連水糸槍の槍の形を細くする。

 残念ながら短くすることはできないようなので、このまま行く。

 細くした槍を、鹿の鳩尾らへんから潜り込ませ、ヘソの当たりで出す。

 槍を完全に取り出せば、皮の下には連水糸槍の糸が入っている。

 この状態で連水糸槍の槍を上に持ち上げれば……。

 ズバッ。

 こういう風に腹だけが切れる!

 やったぜ完璧ぃ!

 だけどぉおおおお!!


===============

 LⅤ:15/45 HP:180/180 MP:99/202

===============


 無限水操でMP使いすぎたぁ!

 だが必要な消費だ……。

 背に腹は代えられない!

 よし、次は内臓に取り掛かるぞ。

 これは非常に簡単だ。


 無限水操で水を操って、それを鹿の腹に入れていく。

 そして、連水糸槍の槍でくっついている部分を切り離していけば完了である!

 内臓は柔らかいので切れ味の悪いナイフでも普通に千切ることが出来る。

 流石に皮まで剥ごうとは思わないが、これは切れ味の悪いやつを使うといいと聞いたことがあるな。


 まぁこれはあいつらに任せよう。

 で、全部切り離したら……それを適当な場所に捨てて……っと。

 本当は土に埋めるのがいいんだろうけど、今はそれだけのMPがないような気がするので断念。

 この状態で……後は水に戻せばいいんだけど……!


===============

 LⅤ:15/45 HP:180/180 MP:43/202

===============


 なああああああ!

 手こずりすぎた!

 結構MP使っちまったよ!

 これでまた鹿を湖に戻そうと思ったら、絶対に俺のMP切れちまう。

 こういう時は……。

 奴隷商の皆さーん?


 と、心の中で叫びながら発光を使う。

 魚の頃と同じで、これも鱗で反射させることができるようだった。

 だけどこれが結構強烈。

 耐性のある俺でも一瞬前が見えなくなった。


 それだけの強い光が発生したのだから、奴隷商は勿論気が付く。

 すぐにこちらに走ってきているようだった。

 それを確認した後、俺は泥人を解除する。

 視界を戻し、俺は一息ついた。

 これで少しは美味しい肉が食べれるだろう。


 いやー頑張ったぞ俺。

 うん、すごい頑張ったと思う。

 でもなんで俺解体の知識持ってんだろう。

 実は狩人……いや、俺の前世は肉の解体業とかそんなものだろうか。

 そっちの方が現実的だけど……やっぱ分かんねぇことばかりだなぁ。

 最後に操り霞であいつらの行動を確認するか。


 んー……うん、頑張って水の中に入れようとしてくれてるな。

 じゃあ後はあいつらが全部やってくれるでしょう。

 俺は疲れたので休憩します。


「んー……」


 お、アレナが起きてきた。

 今日のご飯は期待していいかもしれないぞ~。

 ……待って?

 アレナが起きたってことは……俺休めなくね?


「おはよう白蛇さん」


 あ、おはようございます。


「お話の続きしよ!」


 俺の徹夜が決定した。

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