9 BEO(3)

 よろしく、と言いあって、二ゲーム先取の試合が始まった。


 がるるの持ちキャラはKARINA。髪を縦ロールに巻いたお嬢様で、攻撃は軽いが回転数が他のキャラより優れている。がるるは序盤から激しいラッシュを繰り出してきた。


 神速のサゾ責め――待機時間終了からワンフレームの誤差もなく連続して繰り出される連撃は、もはや神の領域。


 俺は必死にガードで堪えるが、攻撃を打ち込む隙がない。


 くっ……強い。


 まるで絨毯爆撃の中、熱風を避けながら相手の懐に飛び込むようなもので、がるるの攻撃は堅牢な守りも兼ねていた。


 対策をしたつもりだった。


 けど、これは対策云々のレベルではない。


「あはッ、すとんごっとからも責めてきてよ! そんなんじゃ私も乾いちゃうよ」


 やばい、負ける。


 そう思ったときだった。


「がんばれぇええええええええええええええええええええええ! 先輩!」

「にいちゃん、がんばれぇえええええええええええええええええええー!」


 花ヶ崎と杏奈の声がして「神也~!」「神也くん」と恵璃奈と晴瑠の声もした。画面から目が離せないけど、格好悪いところは見せられない、そんな意地がたしかに俺に宿った。


 KARINAの攻撃をアッパーでブレイクして、投げ掴みキャンセルの拳闘波ッ!


 一瞬の隙を渾身のラッシュで応戦ッ……したつもりだった。


「あっ♡ ちょっとは奥まで届くじゃん。けど残念♡」


 がるるは、ひるみ判定が終わった直後ジャンプして、強キックで応戦してきたのだ。そしてひるんだ嵐虎にゲージ使用して必殺技をくりだした。


 エフェクトが入り、KARINAが嵐虎のHPを削りきる。


 がるるWIN、俺LOSE。


「……強いッ」あれが人間の反応速度かよ。俺のHPが削りきられる間、俺はがるるのHPを半分しか削れていない。何度も世界三位になっている俺でも……この差である。


 俺はPause休憩を要求して、指をほぐしていると、観客の中にいる花ヶ崎たちと目があった。四人は不安そうな顔をしていたから、グッと親指を立てるジェスチャーを送った。


 まだ試していないゲームメイクの手順を沿って、イメージトレーニングに充てる。


 あいつらが見ている手前……一ゲームくらいは取りたいしな。


「すとんごっとって、九州の人?」

「どうして?」

「いや、私のいっこ前、鎮巌高校の人だったじゃん。eスポーツのめっちゃ強い」

「あーTOSHIのことか。いや、鎮巌高校とか知らなかったけど」

「なんだ。やっぱり鎮巌高校の十島くんと知り合いだったんだ。やけに仲良かったから」

「ちょっと待て。十島……って言ったか?」

「ちょーイケメンだよね。この前もテレビのeスポーツ特集でばっちり映っていたし。LOV全国大会常勝校、鎮巌高校のエースの十島くん」


 TOSHIと対面したとき、どこか既視感はあった。


 それはずっと前にゲーミングハウスの面々と見たeスポーツ特集のテレビ番組に映っていた……杏奈の兄。


 それにTOSHIの名字……十島。十島杏奈と名字が同じって、これって確定なわけで!


 杏奈が全国大会に出てまで会いたがっていた兄ッ!


 俺は杏奈に向かって声を張り上げる。


「杏奈ッ! さっきおまえのにいちゃんがいた! ホントだ! あのeスポーツ特集で見た顔と同じ顔だった! まだ駅まで走ったら間に合うかもしれない!」


 杏奈がぽかんとして、そして信じられないって表情をして、なにか言っている。


 けど、声は俺まで届かなかった。それでもいい。今は俺の声が届いてくれたら。


「急げ! 俺を信じてくれ! 走れ!」


 声は聞こえないけど、杏奈は花ヶ崎と恵璃奈と晴瑠に説得されたようだ。会場から四人が駆け出していく。俺はその背中を見送って、


「待たせて悪いな」

「すとんごっとってそんな大きな声が出せたんだ」

「おまえに勝てたら、もっと大声で叫んでやるよ」


 がるるとの二戦目が始まった。

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