第三章 ~『プロファイリングによる調査』~


 美冬たちは夏彦の立ち寄りそうな場所を虱潰しに探していた。しかしどこにも彼の姿はない。

「このコンビニもいなかったわね」

「どこに行ったんだろうね」


 美冬は肩を下ろしてコンビニを後にする。点いては消える街灯が彼女の悔しげな背中を照らしていた。


「このまま闇雲に探しても見つからない。別のアプローチをしてみよう」

「何かいい方法があるの?」

「あるにはあるよ……でも不気味だと怖がらないでね?」

「怖がる?」

「僕にはストーカーみたいな特技があってね。それを使えば居場所を探るヒントを得ることができるんだ……」

「そんな特技が……」

「実は僕、性格から行動を推理するプロファイリングが得意なんだ」


 西住は重々しい口で告げるが、それを聞いた美冬はキョトンとした表情を浮かべている。


「やっぱり気持ち悪かったかな?」

「ううん。もっと変態的なのを想像していたら拍子抜けしちゃったの」

「どんなものを想像していたのか気になるけど……聞くのが怖いから止めておくよ」


 西住は特技のプロファイリングを使うべく、知りたい情報を整理する。


「まずは夏彦くんの趣味を聞いてもいいかな?」

「趣味で性格が分かるの?」

「おおよそは掴めるよ。簡単なモノだと読書とサッカーで、それぞれの趣味ごとに人物のイメージ像が浮かぶでしょ」

「読書は眼鏡をかけた温厚な人で、サッカーは短髪の爽やかな人かしら」

「プロファイリングの基本は、趣味や嗜好から人物の大枠を掴む部分から始めるんだ。そこから細かな情報でイメージ像を修正していくのさ」

「それなら弟の趣味は料理を含む家事全般だから、イメージを想像しやすいかしら。顔の造形もオリーブオイルをよく使う芸能人に似ているわね」

「性格は?」

「私とは似ても似つかないしっかり者ね。なんでも卒なくこなす天才肌よ」

「それって昔からかい?」

「ううん。子供の頃は私にベッタリの可愛らしい性格だったわ。とっても甘えん坊さんだったの」

「ありがとう……夏彦君の性格は掴めたよ」

「もしかして居場所が分かったの?」

「おおよその見当はついたよ」

「ふふふ、奇遇ね。実は私も分かっちゃったの」

「東坂さんも?」

「うん。夏彦はホームセンターにいるわ!」


 美冬は西住のプロファイリングを手伝っている中で、夏彦の居場所を自分なりに推理し、そう結論付けた。


「家出をすると、スマホで時間を潰すにも限界があるわ。きっと手持ち無沙汰で暇になると思うの。そこで私は考えたの。夏彦の趣味は家事でしょ。だから道具が売られているホームセンターできっと時間を潰しているはずだわ」

「悪くない推理だね」

「でしょ」

「でも夏彦くんに限れば、ホームセンターにはいないと思うよ」

「え、そうなの!?」

「しっかり者の夏彦くんだ。短絡的な行動はしないはずだ。きっと長丁場になる可能性も考えている」

「ホームセンターは営業時間の限界のせいで、いつまでも滞在することができないものね」

「長丁場の家出をするのなら、きっとどこかに住居を確保しているはずだ」

「ならビジネスホテルやネットカフェが怪しいわね!」

「いいや、それも疑わしいかな……人ってね、幼少の頃の性格を引きずるものさ。困難に直面すると甘えん坊の気質が顔を出す……経験上、この手のタイプは長い孤独を嫌う。きっと心の許せる誰かと一緒にいる可能性が高いはずだ」

「心の許せる人ね……やっぱり友人と一緒にいるのかしら……」

「僕はそう睨んでいる」

「でも私たちは夏彦の交友関係を知らないから何もできないわ……みんなの頑張りに期待するしかないわね……」


 美冬は協力してもらっている皆を思い出すように、スマホをジッと眺める。するとスマホがクルクルと手の平の上で回転し始める。


「な、なにこれ、心霊現象?」

「あやかしのメッセージだ……きっと夏彦くんの居場所を教えてくれているんだよ……」

「善狐さんは私たちに何を伝えたいのかな?」

「スマホのヒントと、夏彦くんが誰かに匿われている可能性が高いこと……この二つからある疑惑が浮かんでくる」

「まさか……」

「さっき通話した人たちの誰かが夏彦くんを匿っている」

「で、でも、そんなこと……」

「あやかしは君の味方だ。騙すようなことはしない。もし君を騙す者がいるとしたら、それは人間だけだよ」

「……だけど私、誰かが嘘を吐いていたなんて信じられないわ」

「本当に? 不審な点はなかったの?」

「それは……あれ?」


 美冬は三人との会話を思い出し、とある疑問に直面する。


「霧崎さん、なぜ夏彦が一年生だと知っていたのかしら?」


 美冬は弟だと伝えたが、それだけだと二年生である可能性も十分にありうる。だが霧崎は夏彦が一年生だと確信を持っていた。


「謎を解くためにも霧崎さんに会いに行ってみようか」

「そうね」


 友人を疑うようで心苦しさを感じながらも、美冬は弟を探すために、霧崎の元へと向かうのだった。


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