第53話 エピローグ 後編

「――店で結婚式をやれば良いって……みんな言っておるぞ?」


 しばし俺はフリーズし、そしてポカンと大口を開いてこう言った。


「……え? どういうことだ?」


「まあ、我に任せておけば良い! ドーンと大船に乗ったつもりでいるのじゃっ!」


 前にも言った気がするけど、タイタニック号か幽霊船にしか見えねえよ。


 そうして俺は無い乳を張って自信満々のコーネリアを見て、ため息をついたのだった。







 コーネリアが言う結婚式の当日がやってきた。


 普段どおりに予約は一杯だし、そんなことをやっている暇は無い。


 いつものとおりに仕込みを終えた俺は、コーネリアが休憩している客席の対面に座った。


「で、どういうことなんだよ?」


「まあ、見ておれ」


 ふふんとコーネリアが笑ったところで――


 店のドアがガチャリと開いた。


「行商人のヤコブ?」


「遅れて悪いなコーネリアちゃん。仕立て屋からの納品が遅れてな」


 続けざまに没落令嬢のフランソワーズさんとラインアイスさんが店に入ってきた。


「遅れてすいません! 皇族の方との会食が長引いてしまって……」


「いや、丁度良い頃合いじゃぞ?」


 そうしてコーネリアはヤコブから二つの小包を貰い、片方を俺に渡してフランソワーズさんと一緒に従業員控え室へと引っ込んでしまった。


「一体こりゃあどういうことだ?」


 包みを開いて、俺は「ははっ……」と笑った。


「なるほどね。うん。そういうことか」


 タキシードの上着を広げて、俺はうんと小さく頷いた。と、なるとコーネリアはフランソワーズさんに着付けをしてもらっているってことだな。


「でも、営業はどうすんだよ……」


 そうして次々にドアからお客さんが入ってきた。


 ――営業前ってのもおかまいなしに。


「店主? 今日は婦人から厨房は俺に仕切らせると聞いている……遠慮なく使わせてもらうぞ?」


 マムルランド皇帝が俺にそう言ってきた。


 連れてきているのは……懐かしいな。料理選手権の時に俺に勝ちを譲ってくれた料理人だ。


「基本は持ち込み食材だが、使えそうなものがあればつかわさせてもらうよ? 未知の食材を扱えると聞いて実は楽しみにしていたんだ」


 そうして料理人は俺の返事も待たずに厨房へと消えていった。


「あ、ムッキンガムさん」


「店主。おめでとう。私の娘にコーネリア嬢のベールガールをお願いされてね」


 えーっと……花嫁がベールの裾を踏んだりしないために後ろから小さい子がついてくるアレのことだな。


 可愛らしい少女がペコリと俺に頭を下げてきた


「キルス国から果物の差し入れでーす」


 この男は……確か、イフリートの炎剣で一騒動起こした兄ちゃんだ。


「ドワーフの職人が総出で……全力を持って今から店内を改装してやるからなっ!」


 防具屋と時計職人、そしてその弟子たちだ。


「カニもあるぞっ!」


 蜘蛛の肉で村おこししてた奴ら……。


 そこで厨房から声が飛んできた。


「カニだとっ!? 茹でて前菜で使わせてもらおうっ!」


 と、そこで魔術師集団が入ってきた。


「タダ酒を飲めると聞いてな」


 ガハハと笑うのは見た目ドワーフの大賢者だ。


「お前ら本当にそればっかだな」


「馬鹿野郎! 俺は賢者だ! 当然、聖職者の魔法も使える! 俺がお前さんに神父として神の祝福を授けてやるんだぞ? 古今東西で俺以上の祝福ができるやつがいるならつれて来やがれっ! タダ酒ぐらいでガタガタ言うなっ!」


 深く、深く――俺はため息をついて、同時に心に温かい何かが溢れてきた。


 やってて良かった。


 店……やってて良かった。


 何ていうか、料理にささげた俺の人生のこの瞬間に報われた気がするよ。


「つっても、まあ……一人でこの人数の宴会料理はキツいだろう」


 そうして俺が調理場に立とうとした時――



「「「主役が働く馬鹿がいるかっ!」」」



 と、全員から止められたのだった。









 薄暗い店内。


「しかし、最後の最後は俺がお客さんに接待されるなんてな」


「ふふん! これも我の人徳によるものじゃっ!」


「はいはい、そうですか」


 純白の花嫁姿のコーネリアは本当に綺麗だった。

 これで大人バージョンだったらもっと良いんだが、こいつは何故か可愛らしさを求めるので子供バージョンなんだけどさ。


 で、店のドアから中央まで敷かれた絨毯を二人で歩いていく。

 向かう先は店の中央に特設に作られた小さな祭壇だ。


 後ろからはムッキンガムさんの娘さんがちょこちょことついて非常に可愛らしい。

 客席からの拍手と笑顔の祝福を受けながら、俺たちは祭壇を一段一段昇っていく。


 そうして神父姿の大賢者が大真面目な顔で俺たち二人を迎えてくれた。

 ヒゲも剃って髪の毛も切って、見た目ドワーフの状態から普通に神父としても通用しそうな感じになっている。

 

「店主は魔王コーネリアを妻とし……富める時も貧する時も、楽しいときも辛いときも、死が二人を分かつまで妻のみに添うことを――神聖なる婚姻の儀のもとに誓いますか?」


「はい、誓います」


「魔王コーネリアを店主を夫とし……病める時も健やかなる時も、死が二人を分かつまで夫のみに添うことを――神聖なる婚姻の契約の儀のもとに誓いますか?」


「うむ。誓おう」


 魔王が神聖なるものに誓うってのもおかしな話だなと、俺はクスリと笑った。


「なんじゃ? 文句あるのか?」


 プクリと頬を膨らませるコーネリア。


 そんなこいつを見ていると、何故か今までの色んなことを思い出していつの間にか俺の頬から涙が出てきた。


 そういえば、コーネリアが来る前は……お袋も死んで長かったし俺は一人で寂しかったんだよな。

 最初は捨て犬を拾ったみたいな感じだったんだけど、いつのまにかこいつがいなきゃ駄目になってて……。


 日本に一緒に行って、店から逃げ出して……でも、こいつは戻ってきてくれた。

 俺の店に、俺のところに。


「いや、文句なんてねーよ。俺のところにいてくれてありがとうな」


「うむっ!」


「それでは祝福の術式を二人に捧げます――誓いのキスを」


 大賢者の掌から祝福――俺たちに向けて淡い光が放たれて、暗い店内を幻想的に彩る。


 と、俺がコーネリアのベールをあげて、キスをすると同時に、一斉に純白の花びらがこちらに向けて飛んできた。


 そうして降り注ぐ花びらの中、コーネリアは――いつものように底抜けに明るく、向日葵(ひまわり)のように元気一杯に笑顔を浮かべていたのだった。 




 おしまい。




・作者からのお知らせ

 作品の性質的に短編連作のオマケエピソード作りやすいので、たまに更新するかもです。

 新作始めております。呆れるほどにお馬鹿な作品で、頭空っぽにして読めると思います。


・タイトル

エロゲの世界でスローライフ

~一緒に異世界転移してきたヤリサーの大学生たちに追放されたので、辺境で無敵になって真のヒロインたちとヨロシクやります~


・リンク

https://kakuyomu.jp/works/1177354055461804147








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