張り裂けそうな再会


「あら、今日は早いのね〜、あらあら? 健太、ご飯はいいの〜?」


「――ああ、行ってきます」



 玄関で靴紐を締めながら時間を見計らう。


 俺は寝ぼけているのか? でもここは現実で、意識もはっきりしている。

 ……テレビの日付を見ても、スマホを見ても、お母さんに聞いても、今日は梓の葬儀からきっちり三ヶ月前だ。……俺が梓に冷たい言葉をかけた翌日だ。今でもはっきり覚えている。


 頭がおかしくなったのか?

 それとも――俺の後悔が――時間を巻き戻してくれたのかも知れない。

 いや、原因なんてどうでもいい。


 俺の後悔はなんだ? 病気で梓が死ぬ前の顔が忘れられない――

 あんな顔をさせた自分が許せない。

 梓と普通に接する事ができなかった自分が許せない。




 ――俺は自分の事を普通の高校生だと思っている。


 友達とふざけたり、女の子と話すと舞い上がったり、ちょっとだけお調子者で、バカなただの学生だ。強く当たられたら強く返してしまう。俺はガキだ。

 ……人は大人になる瞬間があるのかも知れない。俺の場合は……梓の死であった。


 ――よし、確かこの時間だな。


 靴紐をしっかりと確認して……俺は玄関を開け放った。

 夏の暑い日射しが眩しくて、軽く目眩が起きそうになる。

 

 人影が見えた。

 









「へっ!? ちょ、なっ!? は、早すぎじゃない!?」


 そこには俺の家の前で立ち止まっている梓がいた。

 


 着崩した制服を身にまとった梓は……眉をひそめながら俺を睨みつけている。

 可愛らしい唇を尖らせていて……それでも焦っているのか、髪をしきりに撫で付けていた。

 モデルみたいな容姿なのに子供っぽい、いつも不機嫌そう。それが梓の印象であった。



 俺の家の近くに住んでいる梓は、毎日朝早くから学校へ登校している。

 そして、俺の家の前で……いつも、数秒だけ立ち止まって……再び歩き出す。

 ただのルーティーンだと思っていた。


 ――梓っ!!


 巻き戻りだか、俺の妄想だかわからないけど――

 梓が生きている――


 その事実だけで俺は十分であった。


 梓に冷たい言葉をかけた翌日、俺は流石に言い過ぎたと思って、謝ろうとして玄関先で梓を待っていた。

 だけど、過去の俺は梓の態度にムカついて――二言三言小言を言い合い、俺達は別々に登校したんだ。




 眉をひそめていた梓が目をパチクリさせて……俺に近づいて来た。

 手を俺に伸ばしかけて止める。


「あ、あんた、大丈夫――、えっと……で、でも、か、関わらないからね! ふ、ふん! ……ちょ、お、おかしくない!? なんで泣いてるの!? 泣き過ぎじゃん!?」


 やっと会えたんだ。


 ――泣くくらいいいだろ? どうしても止まらねーんだよ。


 嬉しいんだよ――


 俺はフラフラと梓に近づいて――頭を深く下げた。


「――あ、ずさ……昨日は傷つけて――ごめん。本当にごめん、俺が悪かった」


「はっ!? ちょ、あんた……、わ、私は傷ついてなんかいないわよ! キモいんだけど――」


 梓はオロオロしながらも顔は嬉しそうであった。

 こんなにも感情が顔に出る子だったんだな。


「――先行く、つ、付いてこないでね!!」



 梓は怒っているような顔をしているのに、嬉しさを隠しきれなくて変な顔になっている。

 口元が緩むのかモゴモゴしていて――すごく可愛い。



 俺はそんな梓を見て……


 心に誓った。



 ――もう二度と後悔をさせない。




 俺は梓を後ろから見守りながら登校をした。

 梓は俺が付いてきているか確認するように、頻繁に後ろを振り返っていた。

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