ツンデレ幼馴染の後悔を無くすために、俺は三ヶ月前に戻った!

うさこ

始まりと終わりの遊園地


「ていうかさ〜、な、なんで、わ、私が健太けんたと一緒に回らなきゃ行けないの!?」


 俺の幼馴染である足立梓あだちあずさが文句を言いながら俺の横を歩く。

 そんなに文句があるなら一緒に回らなきゃいいのに――


 今日は学校の遠足で、東京の外れにある遊園地に来ている。

 ここは超有名な遊園地で、ネズミっぽいキャラがキャラが張り切って俺たちを出迎えてくれた。


 本当は俺はクラスの女友達と回る予定だったのに……何故か梓と二人っきりで回ることになってしまった。





 俺は梓から嫌われている。

 だから、梓からの文句なんて正直どうでもいい。

 本当は俺だって……最近いい感じの咲ちゃんと一緒に回りたかったのに!


 これは俺の友達で、梓の親友である中島萌なかじまもえからの一生のお願いであった。

『今日は絶対に梓と回って――』

 泣きながら頼まれた。

 だから今日くらい我慢するんだ……。


「くっ、う、うるせーな、俺だってお前みたいな女と一緒にいたくねーよ、ふん」


 梓と俺は幼馴染であるけど、仲が良いわけではない。むしろ仲が悪い。

 何故かって? そりゃ、こいつが……俺に対して横暴な態度を取るからだよ。

 だから俺だって……こいつに対して喧嘩腰になってしまう。

 昔は仲良かったんだけどな……。


 服の裾に抵抗を感じた。梓が下を向きながら引っ張っていたのであった。

 あれ?


「え……、あ、うん……そうだよね……。こんなわがままな子なんて――」


「お、おい、どうした!? い、いつもはそんな事言わねーじゃねーかよ!? ……ふん、なんか調子狂ったな……ほら、時間がもったいないから園内回るぞ」


 梓は顔を上げて俺に笑顔で「うん!」と返事をした。

 俺はもしかしたら……数年ぶりに梓の笑顔を身近で見たのかも知れない……。








 俺と梓は二人で園内を歩く。

 二人っきりで出かけるなんて小学校以来か……。

 梓は昔からずっと、事あるごとに俺に突っかかってきた。俺に対してわがままで横暴な態度が目に余った。

 だから俺は……三ヶ月前……『もう関わんなよ――』と言ってしまった。


 後悔はしていなかった。

 俺が言った時の……梓の泣きそうな顔が今でも忘れられなかった。


 梓はそれでも俺にちょっかいをかけてきた。

 腫れ物に触る――みたいに俺と接する。


 ……俺はそんな時の梓の顔が好きじゃなかった。




 梓は俺の隣を歩きながら下を向きながらブツブツ言っている。


「――丈夫……大丈夫。私……時間が無いんだから……最後に……。――ねえ、け、健太! せっかくだから楽しみましょ! わ、私、チンチラムッキーと一緒に写真取りたい! さ、探しながらアトラクション乗ろうよ!」


 ――そう、だな……昔は仲が良かったんだ。……なんだか今日は梓の様子も違うし……。


 俺も昔の口調に戻っていた。


「お、おう! 足立……いや、あ、梓……、ムッキーは園内に一匹しかいねーから頑張ろうぜ! ――確か……梓はスプラッシュコースターが好きだったな! 行こうぜ!」


「う、うん!! ――へへ……これで……リスト……」


「どうした? リスト?」


「い、いや、何でもないよ!? は、早く行こ!」


 梓は自分の手をずっと見た後、俺の手を見た。

 そして首を小さく振る。


 うん? なんだ?


 梓は俺の制服の裾を掴んで――走り出した。

 俺も一緒になって走り出す。


 顔は前を向いて見えないけど……なんだが……心が懐かしい気持ちで一杯になっていた。


 ――悪くないな。


 もしかしたら……このまま仲直りしてもいいのかな?

 そしたら……『もう関わんな』って言った事を謝らなきゃな――

 うん、今日は普通に楽しんで、明日学校で謝ろう。










 俺は知らなかった。

 これが――最後だなんて――







 *******************





 俺は夜の街を走った――


「――はぁはぁはぁはぁ……くっ……なんで!!!」


 足がもつれる。

 胸がバクバクと激しく動く。

 気持ちだけが焦る。

 何度も頭の中で同じ言葉がループする。


 ――なんで? なんで? なんで? なんで? なんで梓が!!!


 病院が見えてきた。

 早く、早く、早く――

 自分の足の遅さを呪う。

 決して運動神経が悪いわけじゃないが、今は一分一秒でも早く――

 胸が締め付けられる――


 なんだよこの感情は!! 俺は梓の事なんとも思ってないはずだろ!! 嫌われていたんだろ!!


「――はぁはぁ――あず――あずさっ!!!」


 梓の親から電話があった時は驚いた――あんなに元気なお母さんの声が暗く沈んでいた。

 俺は耳を疑った。


『梓の最後を看取って――』


 そこから先はぼんやりとしか覚えていなかった。メモをした紙を片手に部屋着のまま飛び出した。



 俺はずっと嫌われていたと思っていた幼馴染の病室へと走った。





 扉を開けると……梓がベッドの上で目を閉じて……よくわからない呼吸器みたいな物を付けて……よくわからない管が身体中に……見るだけで痛々しい姿であった……。


 俺はその場にへたりこんでしまった。


「なんで……なんで……俺……全然知らなかった……なんで……」


 誰かが俺の肩に手を置いた。


「健太君……来てくれてありがとう……梓のそばに……ぐっ……」


 梓のお父さんだ。端正な顔立ちが憔悴しきっている。


 俺は梓に恐る恐る近づく。

 梓のお父さんが、泣いている梓のお母さんの肩を抱き寄せ病室を出ていった。


 ――俺と梓は二人っきりとなった。


「――梓」


 その一言しか出なかった。

 色々な思いが胸を駆け巡る。


 梓の顔に手を伸ばそうとしたが、手が震えてうまく動かない。


「――おい……起きてくれよ……じょ、冗談だって言ってくれよ……また俺にわがまま言っていいから!!」


 潰れた声で俺は静かに叫ぶ。

 弱々しい梓の姿を見てられない……。遊園地からたった一日しか経ってないのに……。




 コトッという小さな音が聞こえた。


「……けんちゃん……ははっ……けんちゃんだ……」


 目を開けると、そこには梓が呼吸器を外して顔を俺に向けていた。


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