EPISODE47:「闇狼」

(……まあ殺すのは確定として)


 友人や仲間を手を出したら殺す。それがシンゲツ=カイの在り方。老若男女関わらずぶっ殺していた悪友と親友馬鹿共とは違う。……結果は同じだが。

 ただし、彼はそれで痛い目を見た事がある。なので状況に応じて臨機応変に対応する。


(どうするかね……)


 チラリとマリカに目をやる。残虐な事に耐性が無さそうな人の前で殺す趣味はない。それに――


(見せたら嫌われるかもな……)


 カイは人に嫌われやすいが嫌われたい訳ではない。やっと出来た友人を失うつもりはない。

 そう言う訳で相手の出方を伺っていると――


「宜しいでしょうか?」


 男が話しかけて来た。


「……何?」


 応じるカイ。問答無用でぶっ殺す悪友馬鹿とは違いできるだけ相手を理解し目を見て殺すようにしている。余談だが、親友セラの場合は状況に応じて問答無用だったり、会話をしたりする。求道者と殺人鬼の違い(?)である。


「どうやってここがわかったのですか?これでも色々対策していたのですg」

「その対策を潜れる奴がいるとどうして考えない?」


 相手の疑問に疑問で返す。

 

 カイが使ったのは保存ストックしている十の劔能の一つ――【アリアドネ】の術技の一つ。探知に使う糸を結びつけた対象の元への転移する事ができる。相手の同意と呼びかけが必要な上、結び付けた糸が消失するので再度結び直す必要がある。かつて義姉アラクネもカイに使っていたが、一度も使う機会がなかった。


「……それもそうですね」


 男は納得する。そしてカイの様子を伺う。


(〈鑑定〉……は使えませんね。隙がない)

(道具頼りかと思いきや……意外とやるね)


 実は両者共に相手の行動を伺っている。


(それでも、この状況が不味いしヤバイのはわかります。挑んだら……どうなるやら)

(一体何してくるやら……。読めないね……)


 どちらも一見すると隙だらけに見えるがすぐに行動できる。


 そして――


「まずは小手調べ」


 男が手から投げたのは三つの小石。それぞれが質量を増大させてゴーレムとなる。森林に襲撃を掛けたのと同タイプではあるが、二回りほど大きい上に動きが速い。極めつけは周囲の素材ではなく、黄金真鍮オリハルコンで構成されている特注品。一気呵成にカイに襲い掛かる。マリカを守らなければならないカイには不利なように見えるが――


「舐めるなよ」


 カイの影が蠢く。そこから出て来たのは闇のように黒い大きな狼。数は四頭。そのまま三頭はゴーレムに向かい一頭はマリカの傍に侍る。


「護衛代わり」

「あ、ありがとう。……触ってもいい?」

「どうぞ」


 マリカが恐る恐る狼に触れる。


(あ、柔らかい毛並み)


 そのままモフるマリカ。狼は大人しくしている。……ちなみにその間に三頭の狼はゴーレムを爪で斬り裂き、牙で噛み砕いていた。


 この狼は【暗黒闇狼 ボルテチノ】。カイの義妹であるコアイ・マラルの劔能。あまり見られない独立行動する生物型。しかも複数いてその爪と牙は相手の防御を無視できる。

 そんな黒い狼に襲い掛からせるのが彼女の基本戦法。もしも――それを突破されたり自分自身に襲い掛かって来た場合は奥の手で潰し、それすらも駄目なら最後の切り札で相手を屠るのがコアイ・マラルである。


 あっさりとバラされるゴーレムを見ながら内心冷や汗をかく男。


(まさか黄金真鍮オリハルコンがあっけなく砕かれるとは……)


 そのまま自分目がけ襲い掛かる狼を咄嗟に出した罠系の道具で動きを止めどうにか危機を脱するが……


「逃がさないよ?」


 いつの間にかカイが目の前にいた。肝心のマリカを狼に任せたので安心して戦闘に集中できる。


「チェストォー!」


 正拳が叩きこまれる。それをどうにか腕を交差させて防ぐも――


 ――ボギャァ!!


 凄まじく嫌な音が響き男の腕がへし曲がりそのまま廃工場の壁すら貫き吹っ飛んだ。

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