EPISODE36:「変転」

 一方カイの班はと言えば――


「チェストォー!」


 バゴン!


 カイが手に持つ武装エモノにより騎士ゴーレムは鎧袖一触で砕かれていく。幾つもある選択肢から彼が今回選んだのは団長の劔能オルガノン。それはは三節棍となっている。それを振り回してカイはゴーレムを一撃で木っ端微塵に砕いていく。再生・分裂すら許さない。


「す、凄い……」

「流石やな~」

「カイ……」


 それをサトウ、タナカ、リョウは見ていた。最初は加勢しようとしたのだが、彼らの火力では騎士ゴーレムの防御力を崩せない。それどころか分裂させてしまうので足手纏いになると判断して下がっていた。


(でも……何であんな細い棒で砕けるんやろう?)


 タナカが疑問に思っていた。あの武器を出した時はシンプルな短槍。それを三節棍に変形させて使っているのだが、硬度や強度が異常。更には破壊力も凄まじい。


(何かしらの効果があるんやろうけど……)


 タナカの考えは大正解。

 この短槍はカイの友人の一人である団長アストの劔能オルガノンである【極絶廻槍 セプテントリオン】。他の友人達のように派手な能力はない。ただ釣竿や双節棍ヌンチャク、三節棍等に一瞬で変形し、分裂し、柄が伸長する。そしてもう一つのとあるチカラがある。それは回せば回す程【セプテントリオン】の強度と硬度、破壊力を引き上げるという単純なチカラ。これのおかげで硬い騎士ゴーレムを砕けていた。


「これで……最後!」


 カイの三節棍の一撃が最後の騎士ゴーレムを砕いた。頭部からの一閃は相手を粉々にして再生すら許さない。崩れ去るゴーレム。それをカイは一瞥してふと奇妙な物を見つける。


「これって……」


 彼が拾い上げたのは黒い小石。騎士ゴーレムの核。それを見ていると……


「!」


 ふとある事を思いつく。そして右手で回していた三節棍を消して代わりに出したのは刀剣の柄――【ミメーシス】。七つと八つ――合計十五の刀剣から彼が選びだしたのは少し短めの片手剣。片刃で刃の面は鋸のようにギザギザとしており、よく見ると刃に節に継ぎ目がある。刃節が伸びるようになっている蛇腹剣である。


「……」


 それを無言で近づける。すると鍔元にある鉱石が光る。


「よし!」


 ニヤリと笑うカイ。そのまま三人に振り向く。


「とりあえず緊急避難場所へ行くぞ」

「え……」

「お、おう」

「……わかった」


 頷く三人にカイは口元を歪めて言った。


「ショートカットするぞ。許せ」


 そのまま三人に近づき――








 緊急避難場所となっているのは集合場所。何の面白みもないが面白さは要らない。

 そこには幾人もの人がいた。テントが張られその下では負傷者の手当が行われている。そして――


 避難場所には半透明の障壁が城塞のように張られていた。


 ――フォートレス・バリア


 障壁・結界のスペシャリストであるシルトが誇る広範囲の障壁……否、城塞とでも言うべき物。幾つかの制約・制限を組み込む事で鉄壁の防御力を誇っている。

 避難場所の中央に杖を構えてシルトは思考する。


(今回のこれ。確実に誰かが引き起こした)


 間違えない。あの騎士ゴーレムはおかしい。


(多分アレは陽動。だったら――本当の目的は何?)


 それがわからない。一体何がしたいのか?


(単なる愉快犯?それならいいけど……)


 勘が囁く。絶対に違う。何かしら目的があると。

 そんな事を思っていると――


「どう調子は?」


 そんな事を言いながらやって来たのはイオリだった。彼はあちこち飛び回って救援を行っていた。……のだがこれと言った負傷や服の汚れすらない。


『別に平気。三日三晩維持できる』

「それは重畳。まあそこまで維持する必要ないと思うけど」


 そう言いながらイオリは森を見つめる。


「ほら……来たよ」


 森から飛び出したのは人を三人担いだ小柄な人影。カイである。リョウを背負い、サトウとタナカを小脇に抱え障壁の間際に着地。


「開けてあげて」


 シルトは障壁の一部を扉のようにしてカイ達を入れる。


「……」

「し、死ぬ……」

「て、手加減しろ……」


 カイが降ろすと息も絶え絶えに三人はへたり込む。


「気合と根性。足りないな~」


 カイはケラケラ笑う。そんな彼にイオリが近づいて来る。


「やあ。無事だった?」

「……あんな土塊如きに俺が後れを取るとでも?」

「油断すればどんな強者も弱者に殺されるよ?」

「それもそうですね」


 ハハハと笑い合う二人。だが目が笑っていない。


「……まあいいや。所でさ、君今回の黒幕に検討付いているんだよね?」

「まあ」


 そう言って彼は先程仕舞った蛇腹剣を再び出した。


「これにゴーレムの核にあった匂いを覚えさせてます。だから――」

「犯人確保可能と」

「はい。でも……」

「目星は付いているんだね?……まあボクもだけど」


 彼らの脳裏にはとある男の顔が浮かんでいた。


 そのまま二人は障壁の外に出る。そのまま移動開始。

 カイは法則を歪曲、イオリは風を使い高速移動をして森の中を駆ける。


「逆恨みは怖いね~」

「……ここまでして俺を殺したいんですかね?」


 ケラケラ笑うイオリにカイは溜息を吐く。が、ふと真顔になる。


「まあアイツらぶち殺すのはそんなに手間はかかりませんけど……」

「……確保にしてね?殺すのは不味いよ?」

「……」

「……」


 暫し沈黙。


「まあ問題は……」

「流した!?」

「黒幕の本当の目的ですね」

「そうだね~。それにまだ何かしてくるだろうし」


 そう言うと二人は速度を上げた。

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