EPISODE16:「会話」

 ☆★☆




 そう言う訳で二人がやって来たのは空き教室。サクヤは手早く鍵を掛け自分のチカラを使い結界を張る。効果は――〈人避け〉、〈遮音〉、〈侵入者感知〉。

 そして二人で向かい合って座る。が……


「……」

「……」

「「……」」


 両者沈黙。何から切り出せば良いのかわからない。

 暫しどちらも何も言わなかった。


 数分後。先に口を開いたのは――サクヤ。


「体の具合はどうですか?」

「うん?あ、ああ、大丈夫。元気一杯」

「そうですか。なら良かった」


 鉄面皮が少しだけ和らぐサクヤ。そんな彼女の様子に釣られてカイも口元を歪める。

 だがすぐにその表情は引き締まる。


「キ……カイ君」

「何?サクヤ先輩」


 お互い愛称では呼び合わない。とは言え親しい仲ではあったのでとりあえず名前で呼び合う。


「貴方の魂……見ました」

「本当に便利だな」


 思わず苦笑するカイ。彼はサクヤのチカラを知っている。万能性と破壊力を兼ね備えたチカラを。


「修復されていました」

「そうか。自分では見れなかったからお墨付き貰えて良かった」

「……一体何をしたのですか?」


 サクヤの目付きが鋭くなる。何せ〈魂魄干渉〉は禁術技な上、使える人は皆無に近い。そして――魂魄を修復するには違う魂魄が必要となる。要するに生贄である。


(どう考えてもまともな手段を使った……とは思えない)


「どうなのです?」

「色々あった。奇跡が起こった」

「とぼけないでください」

「……嘘は言っていないよ?」


 確かに嘘は言っていない。だが本当の事をの彼女には言えない上、話が長くなる。


(これは今は言ってくれないでしょうね……)


 サクヤはカイの様子に一旦話を変える事にする。


「……それについては後にします。それで?今日は私に何の用ですか?」

「ああ。に顔を見たくなって声を聞きたくなったから。それに……」


 そう言って思い出したのは盟友。他の友人達は大抵が相手から接触して来たのに対して彼女はカイから接触した。最初は邪険にされていたもののそのうち仲良くなっていった。そんな彼女と約束をしたのだ。


『もしさ、貴方が無事にそっちに戻れたら幼馴染と仲直りしなよ』

『……』

『人間いつ死ぬかわからないんだから』


 ある日突然全てを失った彼女だからこそ言える言葉だった。


『でもなあ……』

『……妾も一緒にいてあげるから』

『……なら大丈夫か』


 そう言って二人で笑い合う。この時の盟友はやっと前を向けるようになっていた。恐らく生きていれば今もカイと一緒にいただろう。……生きていればだったが。

 そんな彼女の事を思い出しカイは続ける。


「友人――盟友に言われてね。仲直りしろってな」

「盟友?」

「アイツは昔喧嘩別れした友人と死に別れたから。それが棘となって残っているんだってさ。とは言え――」


 すっと目を細めるカイ。


「冷却期間は置いたけど――まだ蟠りはあるし話し合いでどうとなるものじゃない」


 一拍置いて続ける。


「だから――戦おう」


 カイの友人の一人である宿敵は言った。


『分かり合えなかったら殴り合え』


 と。……まあ彼は三度の飯より戦いが好きで、死ぬときは戦いの中で死ぬと言い切っている。そして戦いには不要、それどころか弱点になると生殖器アレとコレを自分で取ってしまう程の異常者だったが。


 閑話休題。


 そんなカイの言葉にサクヤは眼を細める。そして――


「確かにチカラは手に入れたようですが……」


 こちらも一拍置き。


「私に勝てるとお思いですか?」


 彼女の声のトーンが少し低くなった。

 実際サクヤは強い。恐らくこの学園でも五本指に入るであろう実力者。だが――


「生憎と負けると思って挑んだことは――あんまりない!」

「少しはあるのですね……」


 少し呆れるサクヤ。

 そんな彼女に構わずカイは続ける。


「それに――これでも色々あったんだ」


 カイは思い出す。

 異世界での激闘と死闘を。

 楽な戦いは少なかった。

 だからこそ――


「今ならいい勝負できると思うけど」

「……そうですか。ならばやってみましょうか」


 そう言うとサクヤはスッと席を立つ。

 そして視線を斜め上に向ける。そこに目を凝らすと――小さな蜘蛛がいた。


「会長達」


 呼びかけた。


「盗撮、盗聴しているのは分かっています。許して欲しければ……今すぐに模擬戦で使用できる所の使用許可を取って来てください。――いいですね!」


 言い終わるとフウとため息を吐くサクヤ。そんな彼女にカイは尋ねる。


「……見られていたのか」

「ええ。そんな気がしていたのですが……。あまり驚いていませんね」

「視線感じたから。だいたい……五人くらいの」

「五人?……ほぼ全員じゃないですか……」


 机に突っ伏すサクヤ。どうやら誰が見ているか心当たりがあるらしい。そんな彼女にカイは気になった事を訊ねる。


「でもさ最初に色々使ってたよね?」

「……ナミ――盗撮、盗聴の主犯ですが彼女はあちらこちらに自分の蟲を仕込んでいるので」

「ああ、なるほど」


 納得するカイ。あくまでサクヤが使ったのは簡易的な物なうえ、元からいた物には反応しない。それを逆手に取られた訳である。


(絶対何か言われますね……)


 げんなりするサクヤであった。

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