EPISODE14:「弁当」

 午前の授業が終わり昼休憩となる。


「さて食べよう」


 カイが出したのは――自作したお弁当だった。夏休み異世界落下前のカイは外食や買った物で食事が多かったのだが、向こうで色々あったおかげか自炊をするようにした。実際師匠との酒盛り(?)前に食材を買い込んで置いた。なので朝食は自分で作り(メニューは御飯、味噌汁、焼き魚、漬物の定番メニュー)、お弁当と夕食の仕込みも終えてから登校したという訳である。


 ――パカリ


 弁当箱の蓋を開ける。二段重ねの弁当で上の段は海苔のかかった白いご飯、下の段はプチトマト、枝豆、卵焼き、唐揚げが入っている。飲み物は家で淹れて置いた抹茶。


「いただきます」


 そう言って食べ始めようとすると――


「一緒に食べてもいい?」


 マリカが机を寄せて来た。それを横目で見てカイは聞く。


「いいけどさ」

「?」

「他の人とは食べないの?」


 マリカの交友関係は広い。そのためクラスメイトだけでなく、他級生や上級生とも食べるのだが――


「今日は誰とも約束はないから」


 そう言いながら彼女は自身の昼食を広げる。メニューはハムとレタスのサンドイッチとカットしたオレンジ。

 そうして二人で食べ始める。


「自分で作ったの?」

「ああ」

「でも夏休み前は購買で買ってたよね?」

「(よく見てるな。)ああ。色々心境の変化があったから」


 きっかけは心友の所で働いた事。家事や掃除をやったり、料理を作ったりした。だからこそその延長線上。一緒に働いていた先輩のおかげでスキルアップしている。


「そうなんだ」

「ああ。その方が安上がりだし」


 金には余裕があるがあって困る物ではない。

 弁当を食べているとふと思い出す。


(ああそうだ。まだ色々あったな)


 帰ってからやろうと思っていた事をまだあまりやれていない事を思い出す。

 金目の物の換金は良いとしてもう一つが問題。……これがどうすればいいのかわからない。


「うん?」


 ふと一緒に食べているマリカに視線をやる。その視線に気づいた彼女がカイを見る。


「どうしたの?」

「……なあちょっと相談してもいい?」

「……いいけど」


 いきなりのカイの言葉にマリカが戸惑いながらも了承。なのでカイは相談する事にする。友人が多いであろう彼女なら適任であろう。


「喧嘩……いや大喧嘩をした相手と仲直りするってどうすれば良いと思う?」

「ええと……」


 カイの言葉に少し戸惑うマリカ。少し考え――


「原因は?」

「……簡単に言えば意見の相違」

「うわ~」


 思わず天を仰ぐマリカ。これは一般的な仲直りの手段である『先に謝る』が使えない。ならば――


「冷却期間置いてから話し合い……かな?」

「なるほど……」

 

 マリカの意見に頷くカイ。冷却期間は十二分に置いた。ならば話し合いをするしかない。


「ありがとう。参考になった」

「……どういたしまして。でもさ――シンゲツくん」


 気になったので踏み込む事にするマリカ。


「喧嘩した事ないの?」

「あるにはあるけどしょうもない理由だったからすぐに仲直り出来た。でもその次が問題でね……。お互い譲らず遂には」

「……遂に?」

「手足が出た」

「うわあ……」

「それで俺はボコボコ」


 あの頃の自分は弱かったからとケラケラ笑う。一方の相手は丁度強くなった時だったのである。時期が悪かった。悪すぎた。


「それから疎遠になって……ええと何年だっけ?」

「わたしに聞かれても困るよ」


 ごもっとも。

 なので考えるカイ。確か今は十六歳。それで大喧嘩したのが六歳。なのだから――


「大体……十年(以上)」

「!?」


 サンドイッチを食べていたマリカの手が止まる。思ったより長かったのでかなり驚いたらしい。同時に疑問に思ったのか聞いて来た。


「でもさ」

「うん?」

「他の人とは喧嘩はしなかったの?」

「元々俺ボッチだし」

「……ご、ごめんなさい」


 謝って来たマリカに苦笑してカイは続ける。


「あまり喧嘩ってしないんだよね。俺」

「そうなの?」

「うん。基本喧嘩にならない」


 カイは人には多種多様の考えがあると知っている。だからこそ相手を基本否定しない。だからこそ異世界での交友に殺人鬼や馬鹿、百合、戦闘狂、毒舌、ポンコツがいた訳だ。ただ――


「……まあ自分の意見と相手の意見がぶつかった場合は」

「うん?何?」

「いや、何でもない」


 誤魔化すカイ。理由は簡単。比較的平和なこの世界ここでは言えない。それは――


(殺し合いだものな……)


 実際カイは異世界で殺し合いを数多に繰り広げた。その中の友人達とのも含まれる。因みに悪友馬鹿との殺し合い交流は除く。そしてその結末は――


『ありがとう。そしてごめんなさい。辛い思いをさせてしまって』

『これでいい。これで……な』


 あの結末をカイは受け入れており相手もこれが最善だと思ってる。だが他の道があったのではないかと未だに思う。


「……」

「……」


 無言になってしまったカイ。それにマリカは何も言わずに静かに見守っていた。暫くして――


「ありがとう。色々参考になった」

「……わたしは何もしていないよ」


 カイは礼を言いマリカは首を横に振る。その後多少雑談をしているとどちらも弁当を食べ終わる。


「ごちそうさま」

「ごちそうさまでした」


 〆の挨拶をしてマリカは立ち上がり机を動かそうとしたが――


「あ、そうだ!」


 何か思いついた顔になるマリカ。


「?」

「連絡先交換しない?」

「いいけど……」


 そこまでする仲なのだろうかと思ったのだが――


「一緒に昼食食べたんだからもう友人でしょう?」

「……そういうものかね?」


 少し疑問に思うもとりあえず連絡先を交換した。

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