第Ⅸ話:「一日だけの夏休み」

 次の日。夏休み最終日。……まるで休んだ気がしない(笑)。

 起床して朝の支度をして、いつものメニューの朝食(レンジで解凍して食べれる白いご飯と焼き魚、インスタントの味噌汁、カップサラダ)を取る。

 

(今度から自炊しよう。その方が美味しいし、安上がりになる)

 

 食べ終えるとこれからの事――人生や目的――を考える。


「考える事は多いけど、まずは一つずつ」


 始めに追試の模擬戦について。

 勝ち目が出て来た――というかイスルギの敗北以外ありえない。相手が何かしらの凄まじい隠し玉を持っていれば別だろうがそこまで考えている可能性は低い。……まあ何かしら切札があったとしても今ならば正面から叩き潰せる。

 だが別の問題が発生している。

 それは――


「何か言われそうだろうな……」


 一体その力はどうしたと言われるだろう。

 ただ解析不可能な異能力を持つ人はいるので、急に覚醒したと言えば誤魔化せるが……


「そういえば……あいつ言っていたな……」


 ふと戦友との会話を思い出す。変人、奇人、狂人が多い友人の中でもまともな人間であった彼女。……まあそのせいか戦闘力は他の面々に比べると数段劣るが。それでも彼女は戦う理由がしっかりと芯が通っていた。


 ある時の会話を思い出す。あの時はまだ友人達誰一人として会っていなかった頃……


『ねえ■■』

『うん?』


 ■■。

 それはシンゲツ=カイの愛称。一部の者にしか許さない呼び名。


『チカラってさ、何のためにあると思う?』

『自分の意思を貫き通す為』


 即答するカイに戦友は笑って答える。


『うん。その考えはいいね』

『どうも。褒めても何も出ないけど』

『アハハハ』

『それで?お前はどう思っているの?』

『私?私はね――力は守るためにあると思う』


 そう言って彼女は自身の心臓の上に手を当てた。そこには彼女のチカラの源があった。


『チカラってさ腕力にしろ、特殊能力にしろ、自前にしろ、貰い物にしろ――所詮は暴力。人を傷つけるモノでしょう』


 心臓の上に当てていた上に伸ばす。


『だからこそそれを誇るだなんておこがましい。そんな奴はただの馬鹿で阿保……それ以下だよ。――大切なのはさ』


 言葉を切る。そして彼の事を真っ直ぐに見つめる。


『それをどう使うか。力はね……誇示する物じゃない。ましてや人を傷つけたり、弱者を蹂躙するものでもない。守る為にあるんだ』


 上に伸ばした手を下に降ろす。


『それでね見せびらかさないで秘めておくの。そして……どうしても振るわなきゃならない時だけ振るって、大切なものを守れるだけで私はいいと思うんだ』


 青臭いかなと笑う戦友の顔を思い出した。様々な経験をした今ならわかる。彼女の言葉は正しいと。

 ならば。


「できるだけ隠す方向で行こう」


 あの程度の相手が数人くらいならばを完全解放しなくても倒せる。バレないようにある程度使えば十分。……特に親友のチカラならバレづらいうえ応用が効く。

 だがそれとは別に――


「今はどれだけの事ができるか試さないと……」


 自分の力はこの世界でどこまで通じるのか。

 それを確かめなければならない。

 だがそれには適度な強者がいるのだが――


「師匠に頼もうかな?」


 端末を使って連絡を取ろうとするが圏外と出ていた。どこかに行っているらしい。


「無理か。……なら力についてはまた後で。次は……」


 次に考えるのはこれからの自分。

 

 シンゲツ=カイには二つの目的があった。

 それは悔いのない死を迎える事とを惨たらしく殺す事。

 そのために力が必要だった。だからこそ鎮星学園に入学して頑張っていた。

 なのだが……異世界での経験を経て考えが変わった。

 

 前者に関しては元々寿命が短かったからこその目的だった。だからこそ寿命が延びた(ような)のでそれは暫く考えなくても良くなった。

 後者に関しては――今はどうでもいい。のに執着すればそれこそ相手の思う壺。それに復讐は何も生まない、連鎖は止まらず、果たしたところで待つのは一瞬の多幸感と虚しさだけ。それを間近で目撃し実際に経験して身を持って体感した。だからこそ無視。もし現れたらその時は殺せばいい。……絶対に逃がさない。


(学園はこのまま通い続けるか……いっその事辞めるか?)

 

 学園を卒業すれば色々有利だが、このまま探索士(ファンタジーで言う所の冒険者のようなもの)になったとしても十分にやっていけるだろう。

 だからこそ辞めるという選択肢もあるにはあるが、学園を卒業した方が有利になる事もある。そして――


「でもまあ……友人作っておくのも悪くないだろうし」


 おそらく模擬戦で勝てば自分の扱いも変わるだろう。

 あちらの友人達のような人も出来るかもしれない。


「あ」


 その次に何をしようかと考えた時、ある事をカイは思い出す。

 それは異世界に落ちて初めの頃にこの世界に戻れたらしようと思っていた二つの事。片方の復讐はどうでもいいのでもう一つ。この世界にある心残りのようなもの。

 ……とは言えそれは今すぐ出来る事ではない。


「とりあえず――模擬戦終わったら」


 考える事にするとカイは思う。


 そしてカイは残りの時間をチカラを振るえる範囲の確認と、模擬戦の準備に費やした。

 そして結果は御覧の通りである。

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