第Ⅴ話:「一つの分岐点」

 全ての授業を終えた夕方。帰途に就きながらカイは思考する。授業中は授業に集中しなければならないので考える余裕がなかった。外は暑い上に日差しが眩しいがそれを気にせず思考する。元々集中するのは得意なのである。

 余談だが、大倭帝国は四季がしっかりとある。夏は暑く、冬は寒く、春と秋は丁度良い。因みに、雪は南都は滅多に降らず、北都はよく振り積もり、他は振ったり降らなかったり。


 閑話休題。


(状況は……はっきり言って最悪だな。勝ち目がない)


 そう思い汗を拭いながら放課後に追試担当の教師から貰った追試の説明が書いてあるプリントを見ながら考える。とは言ってもそのプリントに書いてある事はイスルギの言っていた事と同じだった。それに加え場所や日付位しか書いていない。

 つまりは――


(普通の一騎打ちにならない可能性がある。と言うかその公算が高い。そして――勝ち負けは向こうの匙加減。そして……悪ければ死ぬかも)


 流石に最悪に考え過ぎであるかもしれない。だが状況はどう見ても詰んでいる。

 どうやら鎮星学園――正確に言えばイスルギは自分を追い出したいらしい。


「そんなに俺が憎いか?」


 思わず口に出てしまう。

 とは言え文句を言っても始まらない。どうにか退学を回避しなければならない。まだやる事一つやれていないのだから。


(方法は一つ。圧倒的な実力で相手を屠り去るのみ)


 口で言うのは容易いが、実際にやるのは難しい。

 カイは実技の授業で行われる模擬戦では連戦連敗である。魔導を使わない純粋な戦闘なら多少戦えるのだが、使われた場合はお終いである。前衛には圧倒的なステータス差で叩き潰され、後衛には近づく前に倒される。


「……都合よく力が手に入ればなあ」


 思わず呟きが漏れる。昔はのだがどれも上手く行かなかった。……それどころか体の一部が弾け飛んでしまった。まあ無くてもあまり困らない部位な上に、完全再生は結構費用がかかるのでそのままにしてあるが。

 

 思考している内に自宅である集合住宅に到着。

 運動代わりに歩いて階段を昇り、自分の部屋に入る。


「ただいま」


 一人暮らしであるため誰もいないが一応言う。

 手洗いとうがいをして、部屋着であるジャージに着替える。

 そしてベッドに寝転がる。


「本当にどうしよう……」


 寝転がりながら考えていると……


「うわ!?」


 ベッドから落下。受け身は取れたが衝撃は体に伝わる。


「……あ」


 その衝撃でカイは思い出す。そのままの姿勢で物置代わりの押し入れに向かい中を漁る。

 そして数分後……


「あった!」


 カイの手の中にあったのは箱。箱を開けるとその中には片手で持てるサイズの赤い宝珠が入っていた。

 それは師匠(みたいな人)が昔くれたアイテム――今の技術力でも作る事の出来ない遺物オーパーツ。衝突・融合して無くなった異世界の物品や生物を指す。


『これは何ですか?師匠』

『師匠じゃねえ』


 実はカイに戦いを教えた人は彼を正式な弟子として彼を認めていない。ただ彼の境遇を知って同情。戦いを教えて組手をしたりはしてくれているが、戦闘訓練は基礎・基本的な事と戦闘の心得ぐらいしか教えておらず、正式な弟子達に教えた『奥義』を彼には教えていない。……昔色々あったらしい。そして彼自身は武芸百般こなせるものの自身の主武装メインウェポンの戦い方については全く教えず徒手空拳と刀剣での戦いしか教えていない。……昔本当に色々あったらしい。とは言え、会えば組手位はしてくれる人である。


 閑話休題。


『昔、遺跡で手に入れた物だ。お前にやる』

『……いいのですか?』

『ああ。役に立つ時が来るだろうからな』


 特にお前にはなと告げる師匠(みたいな人)。彼はカイの魂魄の欠損と体質の問題を知っていた。だからこその言葉であった。


『……。それで?』

『ああ。んでその効果は――持ち主が抱く強い願望を叶えるんだよ』


 とても凄い効果を持つのだが――


『それは凄いですね……。でもデメリットありますよね?』


 こういうものには必ず何かしらリスクやデメリットがある。


『ああ。一度使ったからわかるんだが……』

『はい』

『まず使用回数が限られている事。一度使ったら少し色褪せている。だから回数制限がある。だから……』

『大きな願いによっては一回持つか持たないか?』

『ああ。そしてこれが最大の問題。これは――あくまで過程をくれる物』

『過程?』

『ああ。例えば俺の場合――何か食べたいと望んだら食材がある所に飛ばされる』


 そのせいで特級の危険地帯に飛ばされたらしい。因みに生きて帰れたもののかなりの強敵がいたらしく本気で戦ったらしい。素手で対手の相手を蹴散らせる彼が主武装メインウェポンを使い『奥義』すら使ったそうだ。

 だからこそ、彼はカイに注意していた。


『もし使うのなら――もう後先がない状況で使え。いいな?』

『わかりました!師匠!』

『だから師匠じゃねえよ』


 師匠(みたいな人)との会話を思い出すカイ。

 だからこそ――


「後がないからな……」


 どうせな命。燃やし尽くしてこそ。燃え尽きて灰になっても悔いはない。それに目的を果たすには今のままでは無理。だからこそ――


「師匠。使わせて頂きます」


 赤い宝珠に願いを込める。

 すると――宝珠が光る。

 強い光で何も見えなくなる。


 そして暫くしてそこには……

 床を転がる宝珠――赤みが無くなり透明になった物だけがあり、カイの姿は消えていた。

 そしてその宝珠もまるで役目を終えたかのように空気に溶けて消えた。


 こうしてカイは異世界に飛ばされた。

 ……その後、彼はそこで奇妙な冒険を繰り広げる事になったのだが、それについての説明は長くなるので今回は割愛する。

 そして彼は戻って来たのだ。

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