第Ⅲ話:「鎮星学園の主人公」

 この闇鍋の世界に大倭帝国ダイヤマトテイコクという国がある。西暦で例えるなら日本国もしくは大日本帝国。……雰囲気的に後者の方が近いかもしれない。首都の名前は『帝都』であるうえ、和装の人もいて、和洋折衷しているからである。

 その国には五つの大都市があり、そこには魔導士を育成する教育機関が都市ごとに一つずつある。それぞれ都市は東西南北と中央、学園名は五星の名前に因んで名づけられており、東都の歳星学園、西都の太白学園、南都の熒惑学園、北都の辰星学園、帝都の鎮星学園となっている。


 そのうちの一つ――鎮星学園にシンゲツ=カイと言う少年が通っている。

 カイはから魂魄――魔力の生成や貯蔵、放出に密接に関わる器官――に重大かつ重篤な欠損を持っている。

 だからこそ――まず一度に使える魔力が少なく、総量と回復量も恐ろしく低い。唯一質だけは良いのだが何の慰めにもならない。

 そして魔導が使えず、出来る事は初歩の初歩である魔力をそのまま纏っての簡易的な強化のみ。それに代わる異能力は何も持っておらず、特性すらない。それに加えて体質のせいで後天的なスキル付与や機械改造すらも出来ない正に八方塞がり状態。

 無論基本的・初歩的な事で凄まじい戦闘力を誇る者はいることにはいる。だがそんな者は極少数。彼にそこまでの戦闘技術はない。それどころか戦いの才能すらないと師匠(みたいな人)に言われる始末。

 それなら他の道で生きれば良いと思うかもしれないが、彼には力を求める理由があった。だからこそ鎮星学園に入学した。実際入学試験では筆記試験の点数で運よく滑り込めたようなもの。それでも入学出来た事に変わりはない。だからこそ――


(頑張らないと。でも学園生活は楽しまないとな)


 確かに力を得るのが学園に入学した目的ではある。だがそれだけに突っ走っては駄目な事はわかっている。だからこそ折角の学園生活を楽しもうとした。


 ところが――現実は非情だった。

 確かに筆記は優秀だったカイだが、実技――肝心要の物はほとんど出来ない。しかもそれに代わる異能力や特性すらないのであっという間に落ちこぼれてしまった。余談だが、実技授業の模擬戦では連戦連敗である。

 それに加えて彼は性格に難がある訳ではないが誰とでも仲良くなれる社交性を持っていない。コミュ障ではないが陰か陽どちらかと言えば陰に当たる。そのせいか親しい友人が出来ないどころか挨拶する人すら出来なかった。……因みに若干目付きが悪いので近寄りづらい印象があるのだが本人はそれを知らない。

 それでも目的のために頑張っていたのだが、それを邪魔に思って排斥しようとしてくる人達がいる。幸いにも物を隠される、暴力を振るわれると言った直接的な被害は無い為本人はどこ吹く風と受け流していたが、それが更に孤独と排斥を強めるという悪循環にして無限ループ。もうどうしようもなくそれが卒業まで続くかと思われたのだが……。




 ☆☆☆




 それはカイの異世界へ転移する少し前。

 その日の彼はいつものように学園で授業を受け、昼休憩に昼食を取っていた。

 この頃の彼の食事は売店で買ったり外食が多く、自炊する事はほとんどなかった。だからこそこの日のメニューは購買で購入したハムサンドと卵サンド、自宅から持ってきた麦茶。

 自分の席で一人寂しくもそもそとサンドイッチを齧っていた。一緒に食べる人はいないがトイレ飯でないだけマシだろうか……。


 夏休み(普通にある。一カ月半位)が翌日に迫っているためかクラスの雰囲気が少し浮ついていた。

 周りを見渡せば、仲良しグループの幾つかが休みの予定を話し合っていた。

 そんな周りを目線だけで見て、彼自身も予定を考える。


(どうしようかな……)


 選択肢は三つ。


 下級の魔物狩りをして経験積みと金稼ぎ。

 ――現在倒せるのは下級の魔物が精々。中級以降の魔物になると今現在は歯が立たない。

 自宅や図書館で勉強。

 ――知識を深める事は役に立つ。現に今もこの学園に通えているのは筆記の実力のおかげである、

 師匠(みたいな人)に会いに行く。

 ――とは言えいない可能性もあるので無駄足になるかもしれない。それでも会えれば稽古を付けて貰えるし何かしら貰える可能性がある。


(……魔物狩りを中心にして全部やるか。師匠には事前連絡しておけばいい。そうすればニアミスの可能性は減らせる)


 天涯孤独であるがのおかげでお金には困っていない。贅沢しなければ後数年は余裕で持つがそれでもあるに越した事はない。

 

 カイには二つの目的がある。そのうちの一つには力が必要。だからこそ進み続けなければならない。

 そんなことを思い卵サンドの残りを食べていると――

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