THERE IS STAND(お題:スタンド)

「何かがそこにいるんだ」


 子供の頃、私は不定期にそう言いながら、寝室にいる父と母を起こしにいった。当時の私は小学低学年だった。小学校を上がってから、両親から自分の部屋と自分の机、そして、自分のベッドを与えられた。

この、ベッドが問題だった。ベッドというのは、夜間の暗闇になれない子供にとっては保護領域に等しい。つまり、ベットの中は安全だけど、ベッドから少しでもはみ出たら、闇に潜む何かに千切られ、奪われるのでは?少なくとも当時の私は本気でそう考えていた。折り畳みのできるものであったからか、仰向けに寝転がっても、若干上半身だけが上に傾いてしまう。つまりどうなるかと言えば、就寝中に目を開ければ、子供の身長でも足元が見えるのだ。正確に言おう。ベッドと闇の境界が見えるのだ。

そして、その境界から、時たま、陰のようなナニカが立っているのを度々目にした。ソレは、人間のようでいて人間じゃない……頭部が髑髏でそれ以外は黒いコートを着ている怪人だ。そうやって、闇の境界から怪人はベッドの上にいる私を視認すると、捕まえようと手を伸ばす。そうなると、私は堪らずベットから飛び降り、隣の部屋にいる両親に助けを求めたが、父が電気をつけても、部屋には誰も、何もいなかった。確かに、いたはずなのにと私は何度もグズったが、両親は優しく頭をなでるだけだった、


学校で読んだ怪奇小説がトラウマになっていたからか、あの日も私は、ベットから身体をはみ出さないように就寝していた。だが、頑張って眠りにつこうと意識するほど、瞼に力が入ってしまい、眠りにつくことができない。とうとう私は目を開けてしまった。薄っすらと室内にある物品の輪郭が見える程度の、暗闇。あるのはそれだけ。勿論、何もいない。そうに決まっている。

そのはずなのに……私はかけていた毛布を自分の元に引き寄せ、身体を覆うように羽織る。見えないナニカが、直ぐにでも襲ってきそうだと思っていたから。姿は見えない、だけど、周りにいるかもしれない恐怖がずっと残っている。ああ、嫌だ……嫌だ!私は最早、暗闇の恐怖に飲みこまれる寸前だった……


いや、なんでだ。恐怖に震えていた私はふと思った。なんで、姿を見せてこない奴を毎日怯えないといけないんだ。そんなもの、理不尽ではないか!ここは、父と母が私のために用意した部屋なんだぞ。それなのに、どうして、私が部外者の襲来に怯えないといけないんだ!


私の身体を恐怖ではなく理不尽に対する怒りで満ち溢れてきた。そうだ、今日読んだ怪奇小説だって、怪物は最後には倒された。私にだってできるんだ!私は、そう思いながら暗闇を睨みつけた。


 不思議なことに、今までは朧気にしか出てこなかった“ソレ”が、暗闇でもはっきり分かるほど輪郭が浮き出ている状態で出てきたのだ。私を恐怖させようとしてだったのだろうが、逆効果だった。そこに確かに“いる”のが分かれば、最早、未知の恐怖など、ないのだ!


 “ソレ”は恐怖すらしない私を見て、表情を作れない骸骨頭で苛立ちを表現していた滑稽ともいえるその様子を見て、私は思わず笑った……途端だった。“ソレ”は闇の中から長い両手を伸ばし、なんとベッドの内側へ伸ばしたのだ。私は思わず足を引っ込める。私が再び恐怖したのを確認した“ソレ”は、もう一度私に向かって、更に手を伸ばした……


その瞬間だった。私の背後から、半透明の“腕のようなもの”が飛び出して、そのまま“ソレ”の頭部を粉砕したのだ。まさに一瞬。まるでその殴打の瞬間だけ、時間が止まったかのような一瞬だった。私は慌てて背後を振り向くが。そこには何もいない。ただ、わかることは、私の背後に立っていた存在が“ソレ”を倒したことだけだ。



あの夜以降、私は暗闇に怯えることは無くなった。“ソレ”が二度と現れなくなったからでもある。が、それだけでない。あの日から、私が眠っているときに、見えないけど、確かに感じるものがあったからだ。


私を守ってくれる、私の傍に立っている存在を。

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