第6話囲まれる絵麻

放課後になり、数人の女子が名倉さんをどこかに連れていく。

俺は、そのことに気付かず、同じクラスの女子二人と話していた。

「牧平君。今日さ、少しだけでいいから私たちとスタバに行ってくれないかな」

「お願い、この通り。ねっ、牧平君」

一人が目を瞑り手を合わせ、頼み込む。

「誘ってくれてありがとう。鈴木さん、名和さん。とても嬉しいけど、今日はごめん。用事があって。近いうちにまた、誘ってくれると嬉しいな」

優しく断りをいれ、鞄を肩に提げ教室を出ていく。

「ごめんね。牧平君、またね」

「残念だね。牧平君、無理言ってごめんね。またね~」

「またね。さようなら、鈴木さん、名和さん」


名倉さんに屋上で話そうと言われている。

屋上に向かう途中、誰かが数人の女子に囲まれているのに気付く。

「あんたさ、態度悪いよ。聞いてんのっ」

「......」

「無視すんなよ。イラつくんだけど」

「坂和見さん達があんなのにウザイ悲鳴をあげてるから」

嫌悪感を剥き出しにする低い声がこたえる。俺の耳に届いた声音は聞き覚えのある声だった。

「牧平君のことをあんなのって言うなっ!」

囲んでいた一人が激昂したようで、囲まれている人物の肩を強く突いたようだった。肩を突かれた人物は、後ろの壁に当たり痛さで座り込む。

どうやら、俺が関係していたようだ。

見ていられない。

彼女達に駆け寄り、声をかける。

「やめてあげて。君たち。その辺にしてあげてよ、それ以上はだめだよ」

彼女達が俺に気付き、振り向く。

「牧平君が...なんでここに。......でもこいつは牧平君を─」

「牧平君...」

「牧平君...」

「だめだよ、何があっても手を出したら。俺のことを思ってくれるのは嬉しいけど、やってはいけないことは許さない。誰であろうとも。俺のことは気にしなくていいよ、君たち。なれてるから。このことは誰にも言わないから、早く行って!」

彼女達は俺に頭を下げ、謝ってからこの場から走っていく。

俺は、座り込む名倉さんに手を差し出す。彼女は少し戸惑ってから俺の手を握る。

まあ、彼女からしたら嫌いな相手に助けられるのは嫌なのだろう。

彼女は立ちあがり、俺の顔を見て小さく感謝の言葉を口にして、謝る。

「ありがとう......ごめん、なさい...牧平さん」

「別にいいよ、名倉さん。俺も悪かった、名倉さんの肩が突かれる前にとめられなくて。大丈夫じゃないよね、名倉さん。屋上で話すのはまた─」

「謝らないで。それに話したい...」

「名倉さんがそう言うなら、行こうか。屋上」

俺たちは無言のまま、屋上に着いて話し始める。

俺と名倉絵麻は向き合う。

最初に話し始めたのは名倉さんだった。

最終の下校時間まで話は終わらなかった。

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