ナゾトキ女とモノカキ男。

辻室翔

プロローグ ナゾトキ女について

 人生において分岐点というのは多々あるのだろうが、僕の人生最大の分岐点は間違いなく未十士早來という少女と出会ったことだろう。もし彼女と出会っていなかったら、僕の人生は今と全く違っていたと言っても過言ではない。

 しかし、どんな人生を送ろうとも、僕は遅かれ早かれ、未十士早來に出会っていたに違いない。高校に入学した際、偶々同じ学校かつ同じクラスであったため、あまり特別感の無い出会い方をしてしまっていたが、もし違うクラスで、全く別の学校に進学したとしても、きっとどこかで彼女の事を知り、そして出会っていた。

 彼女と出会わない人生など、恐らくこの世のどこにも存在しないのだ。

 運命的、と言うとなんだかロマンチックな響きとなってしまうが、そんなことは全くない。必然的。もっと言うと、自動的だ。よほど特殊な人生を歩まない限り、またはよほどタイミングが合わない限り、僕の世代は自動的に未十士早來と出会うことになってしまう。

 野球やサッカー、バスケ、陸上、剣道、弓道、柔道。今上げていないものも含めて、ありとあらゆるスポーツの大会に出ては、その場を制し優勝をしてきた。また、文化系のコンテストにおいても、彼女は零すこと無く一位を獲得している。部活動として扱われている項目について、恐らく全て手を出していることだろう。

 その全てにおいてプロ級であり、プロも真っ青なテクニックを披露し、優秀な成績を収める。まさしく天才という奴だ。

 だが、どの道に進んでも一生安泰間違いなしの実力を持っていながら、彼女はあっさりとそれらをやめ、また別の何かに手を出す。それは決して飽きたという訳ではなく、むしろその全てを心底楽しんでいるからであり、過去に優勝時のインタビューを受けた時も同様の言葉を残している。

 僕も彼女に直接確かめてみたところ、「当たり前ですよ」と力強く即答されてしまった。

 また、彼女は元来の性格として、非常に多趣味である。好奇心旺盛なのが背を押して、どんなことでも手を出す。首を突っ込む。コンテストも大会も行われない、ただ楽しいだけの「趣味」を、彼女は数え切れないほど持っている。

 つまり彼女は、この世の全てがただひたすらに楽しくて堪らなく、そしてその全てが単純に大好きなのだ。

 それ故についた異名が、「史上最強のアマチュア」である。

 アマチュア、とは「職とすることなく、趣味として愛好する者」のこと。なるほど、ただひたすらに自分の持つ「趣味」を全力で楽しんでいる彼女にふさわしい二つ名だろう。

 それ故に僕は――僕達は、長い学生生活のどこかで、きっと未十士早來と出会う。

 入った部活動で、習い事で、塾で、会場で、果ては散歩中でだって。

 全ての事象は、未十士早來に通じているのだ。

 そして僕も例に漏れず、彼女と出会ってしまった。いや、出会っただけなら、きっとこんな関係にはなっていなかった。きっと一言二言話し、僕は才能ある者との格の違いを見せつけられて終わっただけだろう。

 それだけではなかった。

 僕は、あの未十士早來に目を付けられてしまった。

 ひょんなことから僕は彼女と一つの共通点を持ち、彼女と秘密の共有者となった。それからと言うもの、彼女は僕を巻き込んでくるようになった。友達とも違うなにか。この関係性を一体どう表したらいいのか、僕にはわからない。

 ただ一つ、僕がわかることと言えば。

 恐らく今日も、僕は彼女の趣味に巻き込まれるということだけだった。

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