第4話:自己紹介

「あんたが助けてくれた……のよね? ありが……とう……」


 雫の落ちる銀色の髪と、紫色の宝石のほうな瞳を持つ彼女。

 ファンタジーらしい、物凄く綺麗な子だ。


「いや……そ、それよりひとりで大丈夫かい? 俺、ちょっとその辺で切り株モンスター殴って来るよ。あいつ燃やせば暖が取れるだろうし」


 モンスターって燃やせるだろうか?

 問題はどうやって火を点けるかだな……。


「え、ま、待って。私、薪を持ってるから」

「え? 薪を?」


 持っている風には見えないけれど。

 そう思って彼女を見ていると、UIを開くような動作をした。


 もしかしてこっちの世界の人は、あれがデフォなんだろうか?

 ただ、UIはどうやら他人には見えないようだ。

 どう見ても彼女はUIを操作している。だけど俺の目には何もない宙で手を動かしているようにしか見えない。

 

 何かをタップする動作。そして何もない所から薪がどんどん出てくる。


「ど、どれくらいあるの?」

「インベントリの中には十束。だいたい二日は持つ量だけど……ん」

「どこか傷む?」


 彼女がこくりと頷く。

 すぐに所持品からポーションを取り出して、彼女へと差し出した。


「も、持ってるから、別にいらないわ」

「そ、そうなんだ。あ、火はある?」

「"プチ・ファイア"」


 おおぉ! ま、魔法だっ。この子、魔術師かなにかかな。

 俺はすぐさま焚火のセットをすると、彼女が小さな火をそこに灯した。


 彼女は自前のポーションを取り出し飲み干す。

 よし、ポーションは飲んで使う。覚えたぞ。


「着替えはあるのか?」


 俺の言葉に頷く。なら俺がここを離れよう。


「下に行ってるから着替えるといい」


 階段を下りて、右側の通路を少しだけ進んだ。

 他の階もそうだったけど、階段の周辺にもモンスターはいないんだな。


「き、着替えたわ」


 そう声がして階段へと戻る。

 ふぅ、俺の方も冷えて来たな。残念ながら着替えはないので、焚火に当たらせて貰おう。

 はぁ、温かい。


「あ、あんたは着替えないの?」

「え、いや……持ってなくてさ」

「持ってないの!?」


 わざわざ着替えを持って大学に通ったりはしないもんな。バスケの練習はユニホームでやるし、部室に置きっぱなしだもん。


「あ、タオルは持ってたんだった」


 汗拭き用のスポーツタオル、それを取り出し頭を拭いていると、彼女は驚いたような表情で俺を見た。


「あんたもマジックポーチを持っているのね」

「マジックポーチ?」


 ネーミング的に、無限にアイテムを入れられるその手のやつか。

 もしかしてUIの所持品がそれにあたる?


「ん?」

「あ、いや。うん、マジックポーチなんだ」


 話を合わせておこう。

 ジャケットを脱いで、服の上からタオルを押し当て水気を拭く取る。

 それからまた焚火に当たって、あとは熱で乾くのを待つことに。


「そ、それで、ここはどこなの?」

「あー、ダンジョンの中」

「そんなこと分かってるわよ! どこのダンジョンかってこと」


 勢いよく立ち上がって俺を見下ろす彼女。

 そう言われても、どこのダンジョンかなんて俺にも分からない。


「ごめん、何も知らないんだ」

「何もって……え、どういうこと?」

「んー、階段を途中まで上れば、状況が少し分かるかもしれないな」


 俺が先に立って彼女を手招きする。

 睨むような瞳はそのまま、彼女は一段ずつ階段を上ってついて来た。そして外の景色が見える所まで上がって来ると、口をぽかーんと開けて固まった。


「こういう所なんだ。右も左も、あと後ろも同じような状況だ」

「う……そ……。ここって、海のど真ん中なの?」

「そうみたい。君はあの荒れた海を、半壊したボートに乗って漂流していたんだ」


 助けた時には気を失っていて、ボートはすぐに沈没。なんとか泳いで島まで戻って来れた。


「え、あんた。あの海を泳いで私を!?」

「泳ぐ以外の方法がなかったし、いや本当は助けてそのままボートを漕ごうかなとも思っていたんだ。そしたら速攻で沈んじゃってさぁ」


 あのボートがあったら、良い薪になっただろうなぁ。


「ぁ……ごめ……ごめんなさい」

「ん?」


 急に謝ったりして、どうしたんだろう?

 顔を真っ赤にした彼女は、ちらりと俺を見てまたすぐに視線を逸らした。


「な、なんでもないわっ。そ、それよりあんた、風邪引くじゃないっ。は、早く火にあたりなさいよ」

「ん、そうだな。うぅ、寒。けど階段の下の方だと、少し暖かいよな」

「ダンジョンの中だもの、そりゃそうよ」

「そうなのか?」


 焚火の前に手をかざし、ジャケットは階段に広げて乾かす。


「そうなのかって……ねぇ、あんたはどうやってこのダンジョンに来たのよ」


 うぅーん……どう説明すべきかなぁ。

 いっそ素直に話てしまったほうが、この先も困ることはないんだろうな。


 話ていいものだろうか。


 俺がこの世界とは別の場所から来た……なんて。

 話て信じてくれるかな。


 彼女をじっと見つめ、どうするか悩んでいると、


「な、なによ。じ、じろじろ見ないでよ」


 頬を染めた彼女にそう言われ、思わずこちらも視線をそらしてしまった。


「ごめん。そ、そういや俺たち、自己紹介してなかったなって」

「え、あ……そうね。命の恩人だってのに、名乗ってなかったわ。私はルーシェネイア。ルーシェって呼んで」

「俺は朝比奈 拓海。朝比奈でも拓海でも、どっちてもいいよ」

「そう、じゃあタクミ。あんたはどうしてこのダンジョンにいるのよ」


 そして振り出しに戻る訳だ。

 うぅん、こりゃあ全部話してしまったほうが楽だなぁ。

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