甘えてくる女の子が好きと言ってからクールな幼馴染みが甘えてくる

@1ya12ma2to

クールな幼馴染み

 俺には、保育園の時からの幼馴染みがいる。


 名前は、樋山 雫(ひやま しずく)。

 女子にしては背が高く、160前後ある。スラッとした体型だが、出るところは出て、しまるところはしまっていると、完璧なプロモーションを保っている。


 綺麗な銀髪をショートカットにし、どこか可愛いという言葉より、カッコいい、クールという言葉が似合う、そんな彼女が俺の幼馴染みだ。


 そんな美少女を男女問わず放って置くわけもなく。


 彼女は高校に入ると直ぐに人気者になり、その噂も瞬く間に校内に広まった。


 男子にも大変モテているが、誰とも付き合う気もないと話しており、そんな彼女に女子も安心しているのか、彼女を嫌いという人はいないという。


 それに比べて俺、一ノ瀬 悠真(いちのせ ゆうま)は、『普通』という一言で表せるほど、特に秀でるところもない普通の男子生徒。


 幼馴染みとはいえ、特に恋仲になることもなく普通の距離で接している。


 他の人には幼馴染みということは伝えておらず、ほとんど関わることもない。


 優しい彼女は高校でも俺に話しかけようとしてくれたが、それだと彼女に迷惑がかかってしまう。


 俺はそんな本音も言えず、今関わっているのは放課後、俺の家にくる時ぐらいだ。


 今の男友達みたいな関係も気に入っているため、このまま仲良く過ごせていけると思っていたが、この後の雫の質問でそれが変わるとは、このときの俺は思いもしなかった。




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「ねえ悠真、一つ聞いても良い?」

「ん?どうした?」


 放課後、幼馴染みの雫は俺の部屋に来て、漫画などを読んでいた。


 俺も買ったばかりの小説を読んでいると、そう雫は聞いてきた。


「何でも良いけど、色々な情報ならお前の方が知ってるだろ」

「ううん、これは悠真にしか答えられないよ」

「へぇー、それで質問って?」

「悠真ってどんな女の子がタイプなの?」


 ベッドで本を読みながら聞いてくる雫。チラリと彼女の方をみたが、特に恥ずかしがることもなく、聞いてきている。


「……いきなりどうした、そんなこと聞いて」

「いや、少し気になってさ。好きな女の子がいるのに、家に来られてたら悠真も迷惑でしょ?」


 そういうことか、と一人で納得し、質問に答える。


「別に好きな人もいねぇし、好きなタイプも意識したことないな」

「へぇー、そうなんだ。全く意識してないの?」

「うーん、強いて言えば……甘えてくれる子かな」

「そ、そうなんだね」


 拍子抜けしたように雫が返事をする。


「く、クールな女の子とかは?」

「クールな女の子?」


 これは素直に答えても良いのだろうか。どちらかといえば、雫もクールに分類されるはずだ。


「まあ良いとは思うけど、俺には合わないかもな」

「ど、どうして?」

「だってクールな女の子って、あんまり甘えなさそうじゃん」


 俺がそう言った瞬間、何故か静まり返った。

 

 何か不味いことを言ったかもしれないと思い、雫の方を振り向くと、何故か緊張しているような面持ちで、座っている。


「し、雫?どうした?」

「ボク、今日は帰るね。また明日」


 ベッドから降りると直ぐに部屋を出ていく雫。


 だが、ドタバタしていたこともあり、去り際に雫が言った一言を、俺は聞き逃してしまった。


「ボクにも出来るかな?」


 雫は『お邪魔しました!』といい、あわただしく隣の家に戻っていく。


 少しの嫌な予感を拭いきれないまま、俺は読んでいた本の続きを読むことにした。





____________________________________________




 次の日の放課後、雫は変わらず俺の部屋に来ていた。

 

 まあ、全くなにも変わらないというわけではなく、一点違うところがあった。


「雫?ベッド空いてるけど……」

「ううん、ここで良い」


 それは雫の座っている位置である。いつもは俺のベッドに座ったり横たわっているが、今日は何故か俺の隣に座っている。


 ぴったりと、隙間も余すことなく俺の隣に座っているため、俺は少し離れようとするのだが、直ぐに詰めて座ってくる。


「雫?どうした、なんか変だぞ?」

「いや、いつも通りだよ」


 嘘だな、緊張しているのか、こちらを見ることはないし、心なしか耳が赤くなっている気がする。


 だが本人がいつも通りと言う以上、俺に何かする術はない。


 俺は構わず本を読み出す。

 すると、なにやら雫が落ち着かない様子で、こちらをチラチラ見てきている。


 これは声をかけた方がいいのだろうか。


「……どうした雫。俺の顔に何かついてるか?」

「え?!な、何でもないよ、本当に」

「……俺に何かあるんだったら遠慮しないで言ってくれ」


 そう言うと、雫は驚いたような顔でこちらを見る。


「え?!良いの?!」

「俺にできる範囲ならな」

「うん、分かった!」

 

 雫は嬉しそうにしている。そんなに俺に頼みたいことでもあったのだろうか。


 なにか相談事とか?手伝ってほしいこととか?


 そんな考えが頭に過るが、雫が言った頼みごとは予想の斜め上のことだった。


「て、手を繋いでほしい」

「……手?」

「そう、手」

「……手ってこれか?」


 俺は本を置き、右手と左手を開いたり閉じたりする。


「そうだよ」

「どうしていきなり手なんか繋ぎたがるんだ?」

「少し確認したくて。大丈夫?」

「まあ、俺で良ければ良いけど……」


 そう言って俺は右手を雫の方に伸ばす。すると雫は自分の左手で俺の手を握る。


 それから何かを試すかのように、俺の手をにぎにぎしてきた。


 思い切りぎゅっと握ったり、もう片方の手を添えたり、おまけに恋人繋ぎまでしてきた。


 当然俺も思春期真っ只中の高校生だ。どんなに雫が男っぽく、幼馴染みとはいえ、雫も綺麗な女の子なのだ。そんな状況で恥ずかしくないなんてことはない。


 俺はまだ何かを試している最中の雫に声をかける。


「し、雫。もう良いか?」

「あ、うん、ありがとう。色々確かめることができたよ」


 何を試していたのか気になるが、それは聞かないことにしておこう。


「最後に一つだけ良い?」

「いいぞ」


 最後に聞きたいことがあるらしく、確認してきたが、断る理由もないので了承する。


 雫は恥ずかしがりながら、さっきの倍以上顔を赤くしながら聞いてくる。


「ボク、君の理想になれるかな?」

「は?理想って」


 俺がそう言いきる前に雫が部屋を飛び出してしまう。


 俺は一つの可能性を考える。


『うーん、強いて言えば……甘えてくれる子かな』


 いや、それはないな、100%ない。


 この考えを払拭しようとするが、どこか払拭しきれないまま、俺は一人呆然と、雫のことについて考えるのだった。











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