第5話

「そんなに具体的な数字が出るという事は俺に紹介したい女の子がいるのか?」


 ちょっとした期待を胸に柳沢に聞いてみる。すると、彼女は目を逸らして、遠い目をした。


「いや、遠慮されてます」

「なぜ?」

「声を掛けられるだけで十分だと」


 どこのアイドルだ。


「そんなに遠目で見るような顔面してないだろ」


 俺が呆れながら言うと、柳沢は絶望を表したように目を開き、口を半開きにした。


「全世界の男性に殴り殺されてしまえばいいのに」

「本気で呪われそうな声色やめろ」


 どこから声を出してるんだ?そんな低い声も出せるんだな……。

 というか……。


「そんなに……イケメンか?」

「そういう言い方する人にイケメンはいません」

「上げて落とされた」


 結局のところ、そうでもないという所か。


「まぁ、先輩の魅力は顔じゃないですよ」

「お、落としてから上げるのか?俺のどこが魅力だ?」


 彼女は少し恥ずかしそうに俯きながら、小さな声で呟いた。


「脊柱起立筋」

「どこだ」


 筋肉フェチにはたまらないのかもしれないけど、俺にはどこを指しているのかまったくわからない。


「まぁ、後輩の中じゃ先輩は見てるだけで十分って人が多いですよ」

「動物園のパンダか」

「……言い得て妙ですね」


 可愛いと言いたいのか?

 身長182cmある男が?


「アタシもよく先輩の好みは?って聞かれるんですよ」

「それで今回聞いてきたのか」

「いえ、別に今日のは友達関連じゃないです」

「ん?じゃあ、なんで聞いてきたんだ?」


 俺の問いに彼女は申し訳なさそうに顔の前で手を合わせる。あざとい仕草だけど可愛らしく見えるのが腹立つ。


「怒りません?」

「内容による」

「むぅ……正直ですね。まぁ、そんな先輩の心意気に免じてアタシも正直に話しましょう」


 どこから目線かはさておいて、柳沢は自信満々に口を開いた。


「暇つぶしです!」


 その後、立ち上がった俺から逃げる彼女を追いかけるという子供じみた遊びに発展した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る